福島第一のトリチウム水にイチャモンをつける韓国は、その6倍以上のトリチウムを日本海に放出(改訂)
9月5日、韓国の科学技術情報通信省は、東電福島第一原発サイトで増え続けている「トリチウム水」(放射性のトリチウムを含んだ処理水)の問題に関し、「隣国として、海洋放出の可能性とこれに伴う潜在的な環境への影響に深刻な憂慮がある」と記した書簡をIAEA)に送付した。今月中旬開催予定のIAEA総会で、この問題を加盟国に訴える(要するに騒ぎ立てる)方針らしい。

月城原子力発電所(Wikipediaから:編集部)
ところで、韓国は月城(ウォルソン)原子力発電所で4基のCANDU炉(重水炉)を運転していいるが(ただし1号機は昨年退役)、この型式の炉は軽水炉に比べてトリチウム放出量が一桁大きい。
月城原子力発電所からのトリチウム年間放出は、トリチウム回収設備の導入や一部原子炉の停止などで2010年以降半減しているが、2009年までは400テラベクレルを超えていた。4基体制に入った1999年10月以降だけで見ても、これまでに累積で6,000テラベクレルを超えるトリチウムを放出してきた。
福島第一原発に貯留されている現在のトリチウム総量は1000テラベクレルなので、月城原子力発電所の累積放出量はその約6倍にあたる(注)。しかもその放出先は日本海である。
こうした事実をふまえれば、韓国が日本のトリチウムにイチャモンをつける資格など全くない。韓国の科学技術情報通信省の実務レベルの役人はそういう事実関係は承知しているはずだが、それでも「不都合な真実」には頬かむりし、日本叩きに邁進するのが文政権の方針なのだろう。
もっとも、月城原子力発電所がこれだけのトリチウムを放出したからと言って、日本国民はそれに目くじらを立てるべきではない。それは自ら知性のなさを暴露するようなものだからだ。
月城原子力発電所からのトリチウム放出の影響評価のデータが手元にないので、CANDU炉の本家であるカナダの例を借りると、オンタリオ州にあるブルース原子力発電所では年間600~700テラベクレルのトリチウムを放出している。
カナダ原子力規制委員会の報告によれば、それによる近隣住民の年間被ばくは0.0015ミリシーベルト程度に過ぎない。日本人の自然界からの年間被ばくの2.1ミリシーベルトと比べ、まったく問題にならないレベルであり、健康影響など、心配するほうが損をする。
月城原子力発電所の放出はこれより低めなので、そんなことに日本国民が抗議するとしたら、それはまったく非科学的なイチャモン付けになってしまう。国家レベルで知性と品格のなさを暴露するようなものだ。韓国が今行っている日本食品の放射線汚染喧伝やトリチウム問題批判は、まさにそれで、まるで悪徳あおり運転のようでもある。
実は、韓国が上述書簡をIAEAに送った前日の9月4日、政府は韓国を含む各国大使館向けに、福島第一原発汚染水問題に関する説明会を開いたが、韓国のイチャモン付けの熱冷ましには全く役に立たなかった。
韓国に対しては、しかるべきチャンネルで「問題のトリチウムは総量でカナダ・ブルース発電所の年間放出量に近く、貴国月城原子力発電所のかつての年間放出量と比べても2年分に満たず、決してとんでもない量ではない。仮にこれを海洋放出する場合も、貴国同様に国際基準に合致したやり方できちんと行うので、無用の心配をなさらぬように。貴国月城原子力発電所からは、これまでに福島第一の総量の8倍を超えるトリチウムを放出してきたが、我が国は、科学的にはその安全性がきちんと担保されていることを冷静に認識し、これに疑念を示すことはなかった」というメッセージを直接伝えるべきだろう。
(注)9月9日掲載の初稿では、トリチウム総量を2016年3月時点の情報から760 テラベクレルとし、月城発電所からの累積放出量を約8倍とした。その後最新の公表値は1000テラベクレルになっているとの情報を得たので、その値に改め、月城発電所からの累積放出量も約6倍に修正した。(2019年9月26日16:30改訂)
関連記事
-
GEPRを運営するアゴラ研究所は、エネルギーシンポジウムを11月26、27日の両日に渡って開催します。山積する課題を、第一線の専門家を集めて語り合います。詳細は以下の告知記事をご覧ください。ご視聴をよろしくお願いします。
-
福島原発事故以来、環境の汚染に関してメディアには夥しい数の情報が乱れ飛んでいる。内容と言えば、環境はとてつもなく汚されたというものから、そんなのはとるに足らぬ汚染だとするものまで多様を極め、一般の方々に取っては、どれが正しいやら混乱するばかりである。
-
中国の研究グループの発表によると、約8000年から5000年前までは、北京付近は暖かかった。 推計によると、1月の平均気温は現在より7.7℃も高く、年平均気温も3.5℃も高かった。 分析されたのは白洋淀(Baiyangd
-
小泉進次郎環境相の発言が話題になっている。あちこちのテレビ局のインタビューに応じてプラスチック新法をPRしている。彼によると、そのねらいは「すべての使い捨てプラスチックをなくす」ことだという。 (フジテレビ)今回の国会で
-
前回に続いて、環境影響(impact)を取り扱っている第2部会報告を読む。 今回のテーマは食料生産。以前、要約において1つだけ観測の統計があったことを書いた。 だが、本文をいくら読み進めても、ナマの観測の統計がとにかく示
-
東京都が「カーボンハーフ」を掲げている(次々とカタカナのキャッチフレーズばかり増えるのは困ったものだ)。「2030年までCO2を半減する」という計画だ。ではこれで、いったいどのぐらい気温が下がり、大雨の雨量が減るのか、計
-
政府のエネルギー・環境会議による「革新的エネルギー・環境戦略」(以下では「戦略」)が決定された。通常はこれに従って関連法案が国会に提出され、新しい政策ができるのだが、今回は民主党政権が残り少なくなっているため、これがどの程度、法案として実現するのかはわからない。2030年代までのエネルギー政策という長期の問題を1年足らずの議論で、政権末期に駆け込みで決めるのも不可解だ。
-
COP26は成功、しかし将来に火種 COP26については様々な評価がある。スウェーデンの環境活動家グレタ・トウーンベリは「COP26は完全な失敗だ。2週間にわたってこれまでと同様のたわごと(blah blah blah)
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間















