コロナ・インフォデミックの戦犯たち①オウンゴールの構図
5月14日39県での緊急事態宣言が解除され、残る8都道府県も、近畿圏は21日をめどに解除判断の方向のようだ。
これで首都圏も解除されれば、新型コロナ流行第一波の流行と対策がひと段落となるだろう、いやぜひそうなって欲しいと世の中的にも安堵感が漂い始めている。
「政府の緊急事態宣言」と「国民の努力」というファンタジー
何より、政府は散々評判の悪かった打ち手の失敗を取り繕うためにも、早々に一旦の幕引きを図りたいにちがいない。
安倍総理の会見では、「流行の収束」傾向という状況を「政府の緊急事態宣言」、「国民の協力、努力」という麗しき文脈で定義しようと必死のようであった。
だが、果たしてそんなファンタジーとして手仕舞いして良いのだろうか。
日本は、出さなくても良かった緊急事態宣言で致命的な経済的ダメージを負ってしまったのではないか?政府は、緊急事態宣言発令の時点で、すでに明らかに欧米と違う傾向、少なくともパンデミックに至らない道筋が見えていたにも関わらず、沸騰する世論に負けて結局はポピュリズム的政策に身を投じてしまったのではないか。
参照:緊急事態宣言は「壮大な空振り」だった(JB Press:池田信夫氏論考)
筆者の第一波新型コロナ流行に対する総括は、
「日本でパンデミック(ウイルスの感染爆発)は起きなかったが、*インフォデミック(情報の感染爆発)が発生した。」
そして「インフォデミックによって引き起こされた世論のパニックあるいはヒステリー的な状況に押し切られて、政府は効果に対して社会的費用が破局的に大きくまったく割に合わない緊急事態宣言を発令し、また継続してしまった。」
その結果は「日本はウイルスに対して不戦勝(緊急事態宣言とウイルス収束に因果関係がない)したが、経済面ではオウンゴールによって、しなくて良かった圧倒的惨敗を喫し、今後数十年に禍根を残すだろう。」
というものだ。
*インフォデミック=ネットなどで噂やデマも含めて大量の情報が氾濫し、現実社会に影響を及ぼす現象を指す。「情報(Information)」と、感染症の広がりを意味する「エピデミック(Epidemic)」を組み合わせた造語。
参照:インフォデミック 氾濫するデマ、社会に影響(日本経済新聞)
感情が科学より優先されるとき、間違いなく国は破れる
日本人は丸く収めるのが好きな国民だ。きっと多くの人は、「国の音頭で国民みんなが協力してなんとか危機を乗り越えた」というストーリーが好きだろう。まして、ことを蒸し返すことでそんな気分を壊されることに感情的に嫌悪する人さえ少なくないかもしれない。
だが事実が政治的思惑に劣後するとき、感情が科学より優先されるとき、間違いなく国は破れるだろう。今回世論がコロナへの恐怖心からも感情を爆発させ、メディアもそれに迎合し煽りに煽り、結果平常時にはその百分の一さえためらうような大胆すぎる政策を政府が選んでいく道筋は、まさに日本が太平洋戦争に突き進んだ姿を彷彿とさせた。
まして新型コロナの第二波も予測されるし、今後も新型ウイルスの発生は予想される。今回の経済的ダメージは必ず国力の低下となって、終局今回のコロナウイルス以上に我々の健康を脅かすだろうし、安全保障面での弱体化はもっと死活的な状況を誘発させかねない。我々は楽観的に考えても、すでに土俵際の状態だ。
筆者は長く広告業界からメディアを通じたマスコミュニケーションに関わってきた。
せめて想定される次なる危機により冷静で合理的な選択を我々ができるようにと願い、今回なぜ、そしてどのようにコロナ・インフォデミックが発生したのか考えていきたい。
さながら「オリエント急行殺人事件」のような展開
この日本国殺人事件に、登場人物は4人いる。
「政治家」「メディア」「専門家」そして「我々日本人」である。
ネタバレしてしまえば犯人はさながら「オリエント急行殺人事件」のようだ。つまり、すべての登場人物が何らか手を下してしまっている。
順不同だが、今回を第1回として登場人物紹介とする。以降4回(②メディア ③専門家 ④国民 ⑤政府)にわたって各登場人物がいかに犯行に至ってしまったかを明らかにしていきたいが、今回おおまかに時系列でインフォデミック発生の経緯を振り返りたい。
比較上、各者の立ち位置が分かりやすくなるので、一貫してコロナ騒動を「インフォデミック」と断じてきた最右翼堀江貴文氏にも登場してもらおうと思う。堀江貴文氏(以降親愛の情を込めてホリエモンと呼ばせていただく)は頭が良い上に勘も良いから、かなり早い時期より今回の事象をインフォデミックだと断じていた。
(氏の徹底した合理主義精神によるショートカット気味の物言いもあり、世の中に反発する声が多いとしても耳を傾ける価値があると思う。)
そして「メディア」と記す部分の主役は明らかにテレビの情報番組だ。しかしながら多くのメディアも追随した。
同様ここで言う「専門家」は、コロナの女王の異名をもつ岡田晴恵氏を筆頭にテレビワイドショーを中心にコメンテータとして活動した「専門家」のことである。
フェイズ1(主に2月) = あまりにも劇的な幕開け
1/29チャーター便の武漢帰国者をホテル三日月で受け入れ
2/3 ダイアモンドプリンセス号が横浜港に着岸
2/19~22症状のない人順次下船(2/19~22)
<ホリエモン>「騒ぎすぎ」(2/24)
参照:堀江貴文氏、日本国内のコロナ反応に「騒ぎすぎ」(日刊スポーツ)
<メディア>リゾートホテルへの帰国者収容、豪華客船に防護服。非日常的で絵的にもインパクト抜群のネタに飛びつく。視聴者の引きも強くその後の爆走に向けてのロケットスタートを切る。
<専門家>最初は初々しかったあの頃。ただし、すでに最悪のケースを盛んに警告。1週間後には関東全域に感染が蔓延するとの試算を提示したりしていた。危機感を煽れば煽るほど制作サイドの受けが良く、専門家の立場としてのリスクが低い構造の原点。
<世の中>最初から関心が高い状況。この時点から政府対応に対する厳しい声がネットでチラホラ。
<政府>メディアや世間の反応と温度差のある対応。その後の不信感の芽を生じさせた時期。
<筆者>個人的に研究していた海外で近年盛り上がる文明論の主要論調からも「ついに来たか。」と率直に思った。ホリエモンの言うように経験上からもまず大丈夫だろう、インフォデミックのカラ騒ぎで終わって欲しいとは感じたが、万一のブラックスワン(発生確率は極めて低いが起きたときの影響が大きな現象)への懸念を捨てきれなかったのが実感。
(ちなみに、私の個人サイト「たんさんタワー」では1/29には「パンデミック」というかなり危機意識の強い海外ドキュメンタリーを紹介していました )
フェイズ2(3月~3/23まで) = アジア発であったウイルス流行が、欧米で猛威を振るいだす。
3/1日本人がパレスチナで「コロナコロナ」とからかわれるなど、まだまだアジア発のウイルスのイメージ。
3/9 イタリアロックダウン
3/22 イギリスロックダウン
3/23 ニューヨークロックダウン
<ホリエモン>「パニックの原因はインフォデミック。それを少しでも緩和するために発信してんだよ」(3/24:スポーツ報知)
<メディア>徐々に欧米やイランでの流行拡大の状況に力点が移り出す。「○○は3週間後の東京という」論調が目立つ
<専門家>海外在住や海外事情に詳しい専門家が「出羽守(でわのかみ)」となり、上記論調を強くサポート。 ここでも、危機感を煽れば煽るほど制作サイドの受けが良く、専門家の立場としてのリスクが低い構造。
<世の中>危機論のテンションが急激に上昇。
<政府>さらにメディアや世の中との温度差が拡大。2/14には設置されていた専門家会議もこの時点では顔が見えず。一方で3月初旬より8割おじさんこと北大西浦教授の活発なプロパガンダ活動が始まる。
<筆者>1月末から警戒していた筆者からすると、相変わらず満員電車の状況が変わらない東京が欧米以上に早くパンデミック化していなければおかしく、日本で感染者や死者数が増えないことに安堵しつつジワジワと強い違和感。一方で反比例するように沸騰するメディア、世論。アゴラを中心にネット上ではチラホラ日本ではどうもパンデミックが起きそうにないとの論考が出始めるが、テレビではまったく報じず。
フェイズ3(3/23以降) = 実際には日本での感染がピークを打った時期にも関わらず、緊急事態宣言に向かって自ら奈落に身を投じてしまった
3/23 小池都知事がロックダウン、オーバーシュート発言。
4/3 孫氏・三木谷氏 「超危機的状況」に認識を共有。三木谷氏「今すぐ緊急事態宣言を」。
4/7 緊急事態宣言発令(7都府県)
4/16 緊急事態宣言を全国に拡大
5/4 緊急事態宣言延長
5/14 緊急事態宣言一部地域(39県)のみ解除
<ホリエモン>
過度の外出自粛は「人間であることを放棄」(4/7:日刊スポーツ)
小池都知事のスーパー入店規制検討に「自粛厨の言いなり」(4/23:スポーツ報知)
自粛期間延長に反発「こんなのに付き合ってらんねーよマジで」(4/30:東スポWEB)
「集団ヒステリーだからどーしようもない」自粛連休に嘆き(5/3:サンケイスポーツ)
緊急事態宣言は「必要なかった」(5/9:サンケイスポーツ)
<メディア>スーパーでのトイレットペーパー品薄状況や、望遠カメラを駆使した混雑する商店街や砂浜などの絵を駆使して、引き続き危機感を煽りつづける。感染状況に対する分析も、感染者の累積数で大きな数字ばかりに焦点をあてるなど、実際の感染ピークアウトを冷静に分析する論調は少なくとも4月中ほとんどなかった。
<専門家> テレビに起用されるメンバーが指定席になる中で相かわらずの論調に固執。経済的な苦境に陥る人や、日本の経済については門外漢であると決め込んでいて、ウイルス流行の危機にだけ着目した一面的な議論を主導。自説に合わない数字、分析等は一切無視。
<世の中>小池都知事ロックダウン発言を起点に、トイレットペーパーが品薄になるなど生活面での影響も目の当たりにして、さらに沸騰する世論。著名人などを巻き込み緊急事態宣言を求める論調が強烈に強まる。
<政府>当初は緊急事態宣言に慎重だった政府も、10万円給付、マスク給付、安倍総理のユーチューブでのコラボ不評など度重なる失策で世論を説得するだけの求心力を失い押し切られた印象。
<筆者>蓄積されるデータを日々見ていて、日本でパンデミックが回避された状況がますます明らかなのに、まったく反比例する世論と政府対応に驚愕。一部有識者やアゴラ等論壇等の声はほとんどテレビには取り上げられない。 「日本でパンデミック(ウイルスの感染爆発)は起きなかったが、インフォデミック(情報の情報爆発)が発生した。」との確信に至る。
(私の個人サイトでも、今回のコロナ・インフォデミックの罠になぜ感染してしまったか、日本ならでは社会的背景を分析しましので、よろしければそちらもお読みください。
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