自治体「2050年CO2ゼロ宣言」の不真面目と罪

2020年10月03日 17:00
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

自治体で2050年迄にCO2排出をゼロにするという宣言が流行っている。環境省はそれを推進していて、宣言をした自治体の状況を図のようにまとめている。宣言した自治体の人口を合計すると7000万人を超えるという。

(環境省サイトより)

(環境省サイトより)

だがこれらの宣言は、どれもこれも不真面目極まりない。具体的な計画も無ければ、技術的・経済的な裏付けも無い。そもそも2050年にCO2をゼロにするなど不可能だから、具体的なことは誰も書けない訳だ。

もしも本気で2050年にCO2をゼロにするとしたら、莫大な費用がかかり、失業者が続出し、経済は大打撃を受けるはずだ。家庭は全部電化しなくてはならない。プロパンガス業者は廃業するのだろう。都市ガスも全部廃止するしかない。

建設機械を全部電化するのか?
農業機械も全部電化するのか?
工場は閉鎖するのか?
病院のボイラーはどうするのか?

明らかに甚大な経済影響のある宣言を自治体が表明するに当たって、住民に詳しく説明して合意を取ったと言う話も全く聞かない。住民の財産や雇用を守ることが使命である自治体がそれを放棄するのは重大な背信行為であり罪は深い。読者諸賢もご自分の自治体を図で見て頂きたい。いつの間にかCO2をゼロにすることを勝手に宣言されているのではなかろうか。

環境省はCO2ゼロを宣言した自治体に優先的に補助金を割り当てると報道されている。

「脱炭素」宣言都市を優先支援 50年実質ゼロ後押し―環境省(時事通信:9月19日)

これでますます多くの自治体が宣言をすることになりそうだ。だが具体性の全く無い宣言だけで補助金が貰えるとは何事か。全く勉強しない子どもが「次のテストで100点を取る」と宣言したら小遣いを遣るというようなもので、これを「空手形」と言わずしてなんと言うべきか。

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • ポーランドの首都ワルシャワから、雪が降ったばかりの福島に到着したのは、2月2日の夜遅くでした。1年のうち、1月末から2月が、福島においては最も寒い季節だと聞きました。福島よりもさらに寒いワルシャワからやって来た私には、寒さはあまり気にならず、むしろ、福島でお目にかかった皆さんのおもてなしや、誠実な振る舞いに、心が温められるような滞在となりました。いくつかの交流のうち特に印象深かったのが、地元住民との食の安全に関する対話です。それは福島に到着した翌朝、川内村で始まりました。
  • 本年11月の米大統領選の帰趨は予測困難だが、仮にドナルド・トランプ氏が勝利した場合、米国のエネルギー・温暖化政策の方向性は大きく変わることは確実だ。 エネルギー温暖化問題は共和党、民主党間で最も党派性の強い分野の一つであ
  • 日本の原子力問題で、使用済み核燃料の処理の問題は今でも先行きが見えません。日本はその再処理を行い、量を減らして核兵器に使われるプルトニウムを持たない「核燃料サイクル政策」を進めてきました。ところが再処理は進まず、それをつかうもんじゅは稼動せず、最終処分地も決まりません。
  • 7月22日、インドのゴアでG20エネルギー移行大臣会合が開催されたが、脱炭素社会の実現に向けた化石燃料の低減等に関し、合意が得られずに閉幕した。2022年にインドネシアのバリ島で開催された大臣会合においても共同声明の採択
  • 3月30日、世界中で購読されるエコノミスト誌が地球温暖化問題についての衝撃的な事実を報じた。
  • 田中 雄三 国際エネルギー機関(IEA)が公表した、世界のCO2排出量を実質ゼロとするIEAロードマップ(以下IEA-NZEと略)は高い関心を集めています。しかし、必要なのは世界のロードマップではなく、日本のロードマップ
  • 厄介な気候変動の問題 かつてアーリは「気候変動」について次の4点を総括したことがある(アーリ、2016=2019:201-202)。 気候変動は、複数の未来を予測し、それによって悲惨な結末を回避するための介入を可能にする
  • シンクタンク「クリンテル」がIPCC報告書を批判的に精査した結果をまとめた論文を2023年4月に発表した。その中から、まだこの連載で取り上げていなかった論点を紹介しよう。 ■ IPCCでは北半球の4月の積雪面積(Snow

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑