水素エネルギーって何?

2021年03月17日 19:00
アバター画像
アゴラ研究所所長

政府のグリーン成長戦略では、2050年までに二酸化炭素(CO2)の排出を実質ゼロにすることになっています。その中で再生可能エネルギーと並んで重要な役割を果たすのが水素です。水素は宇宙で一番たくさんある物質ですから、これがエネルギー源にできれば、エネルギー問題は解決するんですが…

iStock

Q1. 水素って何ですか?

ふつう水素と呼ばれるのは、水素原子が2つ結合した水素ガス(H2)のことです。これは非常に軽い気体なので、地球の重力では大気中にありません。燃やすと酸素と結びついて水(H2O)になり、この状態で地球上にほぼ無限にあります。

Q2. 水素はエネルギーとして使えるんですか?

原理的には水素を燃やしたとき熱が出るので、この熱で発電できますが、水素ガスは大気中にはないので、それを分離する必要があり、このためにエネルギーが必要です。水素は化石燃料や原子力のようなエネルギー源ではなく、燃料電池のようなエネルギー媒体なのです。

Q3. 水素をエネルギーとして使うにはどうすればいいんですか?

いろんな方法がありますが、水を酸素と水素に電気分解するのがいちばん簡単です。これはよい子のみなさんも学校の実験室でやったことがありますね。あれを大規模にやればいいのです。

環境省資料より

Q4. そんなに簡単なのに、どうして水素がエネルギーとして使われないんですか?

水を電気分解するには電力が必要ですが、その電力が水素で発電できる電力よりはるかに多いからです。今の技術では、水素をつくるには、できる電力の5倍以上の電力が必要です。石炭火力発電のコストは1キロワット時あたり10円ぐらいですが、その電力で水素をつくって発電すると50円ぐらいかかります。

Q5. 何のためにそんな無駄なことをするんですか?

石炭(炭素と水素と酸素の化合物)を燃やして発電したほうがはるかに効率がいいのですが、石炭を燃やすとCO2が出るので、石炭を熱分解して水素を分離するのです。これをブルー水素といいます。

Q6. 石炭を分解すると、たくさんCO2が出ますね?

化石燃料は水素とCO2に分解するので、CO2を地中に貯蔵する装置(CCS)が必要です。こののコストが膨大なので、今のところ実用になりません。

Q7. CO2を出さない電源を使ったらどうですか?

再生可能エネルギーを使って水素をつくるグリーン電力というのもありますが、これは石炭よりもっと効率が悪い。天気の悪い日には使えない再エネを蓄電する意味はありますが、密度の低い再エネで水素をつくるには巨大な設備が必要で、発電コストは100円/kWh以上かかります。

Q8. アンモニアで発電するという話もありますね?

アンモニア(NH3)も水素エネルギーの一種です。今でも肥料などに使われており、化学プラントでつくることができます。水素を気体で保存するには超低温が必要ですが、アンモニアは扱いやすい。石炭と一緒に燃やすこともでき、コストは水素単体の半分ぐらいですが、用途は火力発電に限られます。

Q9. そんなに無駄が多いのに、なぜ水素を使うんですか?

化石燃料は燃やすとCO2が出て、地球が温暖化するからです。しかしこれほど大きなコストをかけてCO2排出量を減らしても、それによって地球の平均気温が下がる効果はほとんどありません。たとえ日本がCO2排出をゼロにしても、気温は100年後に0.01℃も下がりません。

Q10. これで2050年にCO2ゼロになるんでしょうか?

なりません。次の図のように政府のグリーン成長戦略では、2050年の電力のうち10%を「水素・アンモニア」で供給することにしていますが、それ以外に原子力などの電源が30~40%ないとだめです。しかし政府は原発を新増設する計画はないといっているので、水素の計画が実現したとしてもCO2排出はゼロにはなりません。

 

Q11. 技術革新や大量生産で、水素のコストも下がるのではありませんか?

下がると思いますが、水素をつくる電力よりできる電力のほうがはるかに少ないというマイナスのエネルギー収支は変わりません。化石燃料のエネルギーのほとんどを捨てるのは膨大な無駄で、資源の有効利用というエネルギー政策の原則を踏みはずすものです。豊かな国はそれでいいかもしれないが、電気も使えない途上国の人がみたらどう思うでしょうか。

This page as PDF

関連記事

  • 欧州では電気自動車(EV)の販売が著しく落ち込み、関連産業や政策に深刻な影響を与えているという。 欧州自動車工業会(ACEA)の発表によれば、2024年8月のドイツにおけるEV新車販売は前年比で約70%減少し、2万702
  • 2020年はパリ協定実施元年であるが、世界はさながら「2050年カーボンニュートラル祭り」である。 パリ協定では産業革命以後の温度上昇を1.5度~2度以内に抑え、そのために今世紀後半に世界全体のカーボンニュートラルを目指
  • 先日アゴラで紹介されていた動画を見ました。12月19日の衆議院国会質疑で、質問者は参政党北野裕子議員。質疑の一部を抜粋します。 日本の脱炭素政策に疑問! 北野裕子議員が電気料金高騰を追及 北野議員:2030年46%削減、
  • 地球温暖化による海面上昇ということが言われている。 だが伊豆半島についての産業総合研究所らの調査では、地盤が隆起してきたので、相対的に言って海面は下降してきたことが示された。 プレスリリースに詳しい説明がある。 大正関東
  • 原発は「トイレのないマンション」とされてきました。使用済みの核燃料について放射能の点で無害化する方法が現時点ではないためです。この問題について「核燃料サイクル政策」で対応しようというのが、日本政府のこれまでの方針でした。ところが、福島第一原発事故の後で続く、エネルギーと原子力政策の見直しの中でこの政策も再検討が始まりました。
  • 6月22日、米国のバイデン大統領は連邦議会に対して、需要が高まる夏場の3か月間、連邦ガソリン・軽油税を免除する(税に夏休みをあたえる)ように要請した。筆者が以前、本サイトに投稿したように、これはマイナスのカーボンプライス
  • 日本経済新聞は、このところ毎日のように水素やアンモニアが「夢の燃料」だという記事を掲載している。宇宙にもっとも多く存在し、発熱効率は炭素より高く、燃えてもCO2を出さない。そんな夢のようなエネルギーが、なぜ今まで発見され
  • 元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 6月30日に掲載された宮本優氏の「失われつつある科学への信頼を取り戻すには・・」の主張に、筆者は幾つかの点では共感する。ただし全てにではない(例えばコロナの「2類→5類」論には

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑