ESGの旗を振る欧米金融機関が人権抑圧の香港で事業拡大
環境(E)・社会(S)・企業ガバナンス(G)に配慮するというESG金融が流行っている。どこの投資ファンドでもESG投資が花ざかりだ。
もっともESG投資といっても、実態はCO2の一部に偏重しているうえ、本当に環境に優しいものが投資対象になっているのかは疑わしいようだ(藤枝氏記事)。
そしてそのESG投資の旗を振っている欧米の大手金融機関が、人権抑圧にはお構いなしに中国での事業を拡大している。

cozyta/iStock
いま中国は外資導入を進める政策を実施している(ロイター)。金融機関はこれを儲ける機会だと捉えているようだ。
ゴールドマンサックスは、中国工商銀行と資産運用業務をする合弁企業を設立した(ロイター)。
ブラックストーンは、中国の不動産大手SOHO中国を買収した(東洋経済オンライン)。
人権抑圧が問題になっている香港でも事業拡大が伝えられている。
ゴールドマン・サックス、シティグループ、UBSなど大手銀行は今年、それぞれ香港で数百人規模の採用を行い、陣容を大幅に拡大した。例えばシティは、採用と配置転換により年初来で人員を1500人増強した。採用規模は前年同期の2倍に膨らんだ。香港の人員は約4000人になった(ロイター)。
そして香港取引所では、米金融大手JPモルガン・チェース元幹部のニコラス・アグジン氏が、香港取引所(HKEX)の最高経営責任者(CEO)に就任した(共同)。
以上はいずれもこの5月から6月にかけて起きたことだ。
欧米の大手金融機関は、香港から逃げ出すどころか、逆に香港での事業を拡大している。狙いはもちろん、香港を窓口とした中国との取引きによる利益だ。
中国側もこれで潤っている。今年1-5月に中国本土系を中心とする企業が香港市場の上場で調達した資金は、過去4年間の同期間の合計を突破したという(ロイター)。
米国の制裁はどうなっているかというと、制裁対象になった企業は香港での投資対象からは外されている。しかし中国本土の投資家は、売りに出された制裁対象企業の株を積極的に買っているそうだ(日経)
香港を拠点にする米企業は4割以上が撤退を検討しているという報道もある(Bloomberg)。
しかしながら、大手の欧米金融機関が全然撤退しないどころか事業を拡張するのであれば、今後、香港も中国も経済的に全く困らないだろう。
金融機関はみなESG投資に熱心だ。
ゴールドマンサックスも、JPモルガンもESGファンドに力を入れていて、投資を募っている。
ブラックストーンは、投資先にESG関連での定期報告を要請することになった、と報道されている。
ESG投資は「環境にやさしい」ということで富裕層に人気があるという。
だがその一方で、同じ欧米金融機関が、人権抑圧にはお構いなしに香港に投資を続け、結果として香港における人権抑圧を容認してしまっている。
この欧米金融機関の行動が中国に送っているメッセージは深刻だ。「人権侵害をしても、香港ひいては中国の経済に悪影響は無い」というメッセージを送ってしまっているのだ。
ESGのSは社会であり、人権は当然含まれる。ESGのGは企業ガバナンスであり、企業経営の健全性が問われる。
人権を無視して企業経営を進めることは、本来は大きなリスクをはらむはずだが、欧米金融機関はたいしたリスクではないと踏んでいるのであろう。
欧米の政府はこのような金融機関の行動をどう思っているのだろうか。
「資本主義者は自分の首を吊る縄まで売りに来る」とは金の亡者ぶりを嘲笑ったレーニンの言だ。
いま北京政府はこの言葉を思い出し、笑いが止まらないだろう。
■
関連記事
-
調達価格算定委員会で平成30年度以降の固定価格買取制度(FIT)の見直しに関する議論が始まった。今年は特に輸入材を利用したバイオマス発電に関する制度見直しが主要なテーマとなりそうだ。 議論のはじめにエネルギーミックスにお
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。毎週月曜日更新ですが、編集の事情で今回水曜日としたことをお詫びします。
-
経済産業省で12月12日に再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会(以下単に「委員会」)が開催され、中間とりまとめ案が提示された(現在パブリックコメント中)。なお「中間とりまとめ」は役所言葉では報告書とほぼ同義と考え
-
2014年12月4日、東商ホール(東京・千代田区)で、原子力国民会議とエネルギーと経済・環境を考える会が主催する、第2回原子力国民会議・東京大会が、約550名の参加を得て開催された。
-
全原発を止めて電力料金の高騰を招いた田中私案 電力料金は高騰し続けている。その一方でかつて9電力と言われた大手電力会社は軒並み大赤字である。 わが国のエネルギー安定供給の要は原子力発電所であることは、大規模停電と常に隣り
-
NSのタイムラインに流れてきたので何気なく開いてみたら、たまたま先日指摘した日経エネルギーNextさんの特集の第2回でした。 こちらも残念かつ大変分かりにくい内容でしたので、読者諸兄が分かりやすいよう僭越ながら補足いたし
-
「我々は手術台の上の患者(ドイツの産業)が死にかけていることを認識しなければいけない。」 これは去る7月3日に、エネルギー多消費産業である鉄鋼、化学産業の代表格であるアルセロール・ミッタルEisenhuttenstadt
-
チャーミー大島先生との巡り会い 大島教授に最初にお会いしたのは、彼が立命館大学教授になって数年、岩波の〝赤本〟『原発のコスト』をもって華々しく論壇に登壇した直後の頃だった。原発の反対・推進が相まみえるパネル討論会でのこと
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間
















