SDGsコンサルがなぜか言及しない世界最大の人権問題
日本のSDGsコンサルやESG投資の専門家の皆さんは、なぜかウイグル・チベット問題に対して触れたがりません。何年も前から折に触れて質問するのですがいつもはぐらかされます。近年で言えば香港や内モンゴルについても言及している人をほとんど見たことがありません。人権問題は、SDGsはもちろんのこと環境(E)・社会(S)・企業統治(G)のSで最重要テーマのはずですが。
新疆ウイグル自治区の人権抑圧に関しては、世界ウイグル会議や日本ウイグル協会からたびたび悲痛な発信が繰り返されており、日本でも新疆綿や太陽光パネルに関する強制労働の疑いが知られるようになりました。米国では、昨年12月にトランプ政権(当時)が綿製品を、バイデン政権になった今年も1月にトマト、6月には太陽光パネルを、それぞれ輸入禁止にしました。2021年6月のG7サミットでは国際サプライチェーンにおける強制労働の根絶へ連携を強化すると表明し、問題取引が多い分野として「農業、太陽光、衣料品」を挙げました(2021年6月15日付時事通信)。これらは現代における世界最大の人権抑圧に対抗する歴史的な動きと言っても過言ではありません。グレタさんを礼賛するSDGs/ESGコンサルの皆さんがこれらの行動に対して称賛の声を上げないのはなぜでしょうか。
![](https://agora-web.jp/cms/wp-content/uploads/2021/07/iStock-1167597021-660x440.jpg)
rweisswald/iStock
日頃は、人権やエシカル消費などと言って日本企業にサプライチェーン管理を強化するよう指導したり、女性の役員や管理職が少ないなどと指摘したり、あるいはSNS上でTBM社のLIMEXやJパワー社の火力発電、日本企業の生分解性プラスチックやCO2分離回収技術などを取り上げて「これはSDGsウォッシュじゃないか!」と指弾しているのに、強制労働による製品の輸入を禁止する米「ウイグル強制労働防止法案」を骨抜きにしようとロビー活動を展開したナイキ、アップル、コカ・コーラ等(2021年3月31日付ニューズウィーク日本版)を批判しないのは矛盾としか言いようがありません。いずれもウェブサイト上でSDGsやサプライチェーンにおける人権配慮などの方針を掲げています(ナイキ、アップル、コカ・コーラ)。
SDGs/ESG投資では環境問題、なかんずく気候変動こそが最重要であって人権問題は重要ではないとでもおっしゃるのでしょうか。企業のCSR/サステナビリティ担当や学生の皆さん、SDGs/ESGコンサルの矛盾に気が付いてください。ウイグル・チベット・香港・内モンゴル問題の解決なくして、2030年に持続可能な社会、誰一人取り残さない社会なんて実現できるわけがないのです。逆に、社会課題は残り続けた方がコンサルビジネスの持続可能性にとって都合がよいのかもしれません。
ところで、私たち日本人もほぼ確実に強制労働由来の衣類を利用しています。筆者はもう3年ほどファストファッションの2社からは購入しておらず、服を買うのは主に大型スーパーやショッピングモールです。どの店舗やメーカーであってもタグを見て中国製の綿製品を避け続けた結果、ほとんどが化繊の衣類で一部日本製の綿製品のみを着るようになりました。高価で辛いのですが、外国製の綿製品が強制労働によって安いのだとすれば買い物かごに入れることはできません。
下記は2019年12月のSNS投稿です。
毎年12月に東京ビッグサイトで開催されるエコプロダクツ展。昨年はコロナの影響でオンライン開催だったため化繊メーカーの皆さんとお話しすることができませんでした。2年前よりは認知度が上がっているはずですので、今後開催されればぜひ意見を交わしたいです。
我が家の家計のためにも日本の化繊メーカーにはがんばっていただきたいのですが、衣料品に限らず強制労働から生み出される安価な素材や製品に技術革新で対抗するのは競争条件としてあまりにも不利です。米国のように日本でもウイグル由来の製品を輸入禁止にすれば日本企業へ追い風になるはずですが、対中非難決議すらできない我が政府では望むべくもないのでしょうか。
![This page as PDF](https://www.gepr.org/wp-content/plugins/wp-mpdf/pdf.png)
関連記事
-
ドイツ・憲法裁判所の衝撃判決 11月15日、憲法裁判所(最高裁に相当)の第2法廷で、ドーリス・ケーニヒ裁判長は判決文を読み上げた。それによれば、2021年の2度目の補正予算は違法であり、「そのため、『気候とトランスフォー
-
EV補助金の打ち切り…その日は突然訪れた 12月17日、夜7時のニュースをつけたら、「EVの補助金は明日から中止されることになりました。あと5時間です」。 寝耳に水。まるでエイプリスフールだ。 政府はいくらお金がないとは
-
オックスフォード大学名誉教授のウェイド・アリソン氏らでつくる「放射線についての公的な理解を促進する科学者グループ」の小論を、アリソン氏から提供いただきました。
-
頭の悪い地方紙は、いまだに「原発新増設」がエネ基の争点だと思っているようだが、そんな時代はとっくに終わった。 311の原発事故がまるでなかったかのようである。 【原発推進派を集めて「エネルギー基本計画」議論スタート 「関
-
「気候変動についての発信を目指す」気象予報士ら44人が共同声明との記事が出た。 マスコミ報道では、しばしば「物事の単純化」が行われる。この記事自体が「地球温暖化による異常気象が深刻化する中」との前振りで始まっており、正確
-
「2020年までに地球温暖化で甚大な悪影響が起きる」とした不吉な予測は多くなされたが、大外れだらけだった。以下、米国でトランプ政権に仕えたスティーブ・ミロイが集めたランキング(平易な解説はこちら。但し、いずれも英文)から
-
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 今回は理系マニア向け。 「温室効果って、そもそも存在する
-
「福島後」に書かれたエネルギー問題の本としては、ヤーギンの『探求』と並んでもっともバランスが取れて包括的だ。著者はカリフォルニア大学バークレーの物理学の研究者なので、エネルギーの科学的な解説がくわしい。まえがきに主要な結論が列記してあるので、それを紹介しよう:
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間