エセ科学に基く脱炭素はサブプライムローンに似る(下)

2021年07月05日 06:50
杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

前回の上巻・歴史編の続き。脱炭素ブームの未来を、サブプライムローンの歴史と対比して予測してみよう。

Lemon_tm/iStock

なお、以下文中の青いボックス内記述がサブプライムローンの話、緑のボックス内記述が脱炭素の話になっている。

<下巻・未来編>

5. 現実の壁に跳ね返されてバブルが崩壊する

サブプライムローンは当然のことながら多くの焦げ付きを起こして破綻した。もともと返済能力の無い人に無理に高い買い物をさせていたのだから、当たり前だ。

いまは脱炭素などと言っているが、脱炭素とは石油もガスも石炭も禁止するということだから、そもそも出来るはずがない。2050年まであと29年しかないので猶更だ。強引に目指すと莫大な費用がかかるので庶民の抵抗に遭い、そのような政策は現実には導入できない。

いまコロナ後の金融緩和を受けて「グリーンな企業」の株も高値で買われているが、このグリーンな企業の持つ技術は未熟で高価なものばかりであり、政府の補助金や規制がないと事業性が無い。したがって政策が導入されないと分かったとき、いま膨れ上がっている脱炭素バブルは崩壊する。

6. ツケは全て庶民に回す

リーマン・ブラザースは破綻したが、他の多くの投資銀行や証券会社は金融システム全体への影響が懸念されたことから「大きすぎて潰せない」として政府が救済した。庶民の巨額の税金がこのために使われた。

既にぼろ儲けをしてお金を貯めこんだ人々がそれを返したという話は聞いたことがない。

サブプライムローンを借りた人々の多くは巨額の借金を抱えたり、自己破産したりして、生活は苦しくなり、マイホームの夢は断たれてしまった。

庶民はすでに再生可能エネルギーや電気自動車への補助金、エネルギーへの課税などで巨額の負担をしている。

この負担額はこれからうなぎ上りに増えてゆく。

耐えかねた庶民の反対によって税や規制の導入が止まると、今度はグリーンバブルが崩壊して、また投資銀行や証券会社が救済の対象になるのかもしれない。

脱炭素バブルの害毒を逃れる方法は

いまのところ、ESG投資ファンドといってもその中身(銘柄の選択)は普通の投資ファンドとあまり変わらず金儲け優先であって(藤枝氏記事)、つまり切れ味が悪いので害毒は少ない。またグリーンボンドといってもボンド(債権)市場の2%程度と、ごく一部に過ぎない(藤井良広著、前掲)。

けれども金融機関は民間・公的を問わずCO2の規制強化や炭素税の導入を政府に要求しており、グリーンバブルがいよいよ本格化するかもしれない。

この「未来編」のごとき悪夢の様なシナリオを避けるにはどうすればよいか。直ちに脱炭素バブルの正体を白日の下に晒し、早々にそれを崩壊させることだ。膨らめば膨らむほどにバブルは危険なものになる。バブル拡大の過程で儲けを貯めこむ少数の人もいるが、やがてそのツケは圧倒的多数の庶民が背負うことになる。

クリックするとリンクに飛びます。

「脱炭素」は嘘だらけ

This page as PDF
杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 英国で2007年に発表されたスターン氏による「スターン・レビュー」と言う報告書は、地球温暖化による損害と温暖化対策としてのCO2削減の費用を比較した結果、損害が費用を上回るので、急進的な温暖化対策が必要だと訴えた。 当時
  • 2022年にノーベル物理学賞を受賞したジョン・F・クラウザー博士が、「気候危機」を否定したことで話題になっている。 騒ぎの発端となったのは韓国で行われた短い講演だが、あまりビュー数は多くない。改めて見てみると、とても良い
  • IAEA(国際原子力機関)の策定する安全基準の一つに「政府、法律および規制の安全に対する枠組み」という文書がある。タイトルからもわかるように、国の安全規制の在り方を決める重要文書で、「GSR Part1」という略称で呼ばれることもある。
  • 先日、日本の原子力関連産業が集合する原産会議の年次大会が催され、そのうちの一つのセッションで次のようなスピーチをしてきた。官民の原子力コミュニティの住人が、原子力の必要性の陰に隠れて、福島事故がもたらした原因を真剣に究明せず、対策もおざなりのまま行動パターンがまるで変化せず、では原子力技術に対する信頼回復は望むべくもない、という内容だ。
  • 東日本大震災、福島原発事故で、困難に直面している方への心からのお見舞い、また現地で復旧活動にかかわる方々への敬意と感謝を申し上げたい。
  • ロイター
    4月13日 ロイター。講演の中で橘川教授は「日本のエネルギー政策を決めているのは首相官邸で、次の選挙のことだけを考えている」と表明。その結果、長期的視点にたったエネルギー政策の行方について、深い議論が行われていないとの見解を示した。
  • 長期停止により批判に直面してきた日本原子力研究開発機構(JAEA)の高速増殖炉の原型炉「もんじゅ」が、事業の存続か断念かの瀬戸際に立っている。原子力規制委員会は11月13日、JAEAが、「実施主体として不適当」として、今後半年をめどに、所管官庁である文部科学省が代わりの運営主体を決めるよう勧告した。
  • 北朝鮮の1月の核実験、そして弾道ミサイルの開発実験がさまざまな波紋を広げている。その一つが韓国国内での核武装論の台頭だ。韓国は国際協定を破って核兵器の開発をした過去があり、日本に対して慰安婦問題を始めさまざまな問題で強硬な姿勢をとり続ける。その核は実現すれば当然、北だけではなく、南の日本にも向けられるだろう。この議論が力を持つ前に、問題の存在を認識し、早期に取り除いていかなければならない。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑