「1%=1兆円」― CO2を1%減らすためには1兆円掛かる

MicroStockHub/iStock
日本は「固定価格買取制度」によって太陽光発電等の再生可能エネルギーの大量導入をしてきた。
同制度では、割高な太陽光発電等を買い取るために、電気料金に「賦課金」を上乗せして徴収してきた(図1)。
この賦課金は年間2.4兆円に達している。他方で同制度によるCO2の削減量は日本全体の2.5%である。
つまり、1%のCO2削減のために1兆円が掛かっている。
「1%イコール1兆円」というのは覚えやすいので、ぜひ記憶して頂きたい。
以下、詳しく計算を紹介しよう。

図 1 再生可能エネルギー発電促進賦課金の推移
出典:資源エネルギー庁 (注1)
固定価格買取制度では幾ら費用が掛かり、どれだけのCO2削減効果があったか計算してみよう。
まず費用であるが、賦課金は図1のように、年間2.4兆円に上っている。
この賦課金を用いて、同制度のもとで大幅に再生可能エネルギーの発電設備容量は増加した(図2)。

図 2 固定価格買取制度による太陽光発電等の導入量
出典:資源エネルギー庁 (注2)
以下では、これによるCO2削減効果を計算する。
2012年から2019年までの再エネ発電量の増加を全て固定価格買取制度によるものとみなそう。
2012年から2019年までの再エネ(水力、太陽光、風力、地熱、バイオマス)発電電力量の増分は778億kWhで、これは2019年の日本の発電電力量の7.60%を占めていた注3)。
もしもこの再生可能エネルギーの導入がなければ他の発電が比例的に増えていたと考えると、固定価格買取制度は日本の発電部門のCO2を7.60%だけ削減したことになる。
では、これは日本の温室効果ガス排出量をどれだけ減らしたのだろうか。
日本の温室効果ガス排出量は2019年に12.12億トンだった注4)。
これに対して、発電部門のCO2排出量は3.96億トンで、日本の温室効果ガス排出量の32.6%だった注5)。
以上から、固定価格買取制度によるCO2削減量は、日本全体の温室効果ガス排出量のうち7.60%×32.6%=2.48%だった、という計算になる。
2.4兆円の賦課金で2.48%のCO2削減なので、1%の削減あたり約1兆円がかかっている、と言う計算になる。
なお、以上の計算についてさらに詳しくは別途「研究ノート」にまとめてあるので参照されたい注6)。
注1)経済産業省 資源エネルギー庁 日本のエネルギー 2020年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」、広報パンフレット
https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2020/002/#section3
注2)経済産業省 資源エネルギー庁 日本のエネルギー 2020年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」、広報パンフレット
https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2020/002/#section3
注3)発電電力量の推移。令和元年度(2019年度)におけるエネルギー需給実績(確報) 令和3年4月資源エネルギー庁総務課戦略企画室
https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/total_energy/pdf/honbun2019fyr2.pdf
注4)国立環境研究所 2019年度(令和元年度)の温室効果ガス排出量(確報値)について
https://www.nies.go.jp/whatsnew/20210413/20210413.html
注5)国立環境研究所 日本の温室効果ガス排出量データ(部分)
https://www.nies.go.jp/gio/aboutghg/index.html
注6)杉山大志、「研究ノート 1%=1兆円――固定価格買取制度の費用対効果」
https://cigs.canon/article/20210707_6021.html
■

関連記事
-
米朝首脳会談の直前に、アメリカが「プルトニウム削減」を要求したという報道が出たことは偶然とは思えない。北朝鮮の非核化を進める上でも、日本の核武装を牽制する必要があったのだろう。しかし日本は核武装できるのだろうか。 もちろ
-
調達価格算定委員会で平成30年度以降の固定価格買取制度(FIT)の見直しに関する議論が始まった。今年は特に輸入材を利用したバイオマス発電に関する制度見直しが主要なテーマとなりそうだ。 議論のはじめにエネルギーミックスにお
-
新聞は「不偏不党、中立公正」を掲げていたが、原子力報道を見ると、すっかり変わった。朝日、毎日は反対、読売、産経は推進姿勢が固定した。
-
杉山大志氏の2023年2月4日付アゴラ記事で、電力会社別の原子力比率と電気料金の相関が出ていました。原子力比率の高い九州電力、関西電力の電気料金が相対的に抑えられているとのことです。 この記事を読みながら、その一週間前に
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクであるGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。(2013年12月2日)
-
経産省は高レベル核廃棄物の最終処分に関する作業部会で、使用ずみ核燃料を再処理せずに地中に埋める直接処分の調査研究を開始することを決めた。これは今までの「全量再処理」の方針を変更する一歩前進である。
-
元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 エネルギー問題を議論する際には、しばしば供給側から語られる場合が多い。脱炭素社会論でも、もっぱら再エネをどれだけ導入すればCO2が何%減らせるか、といった論調が多い。しかし、そ
-
世界はカーボンニュートラル実現に向けて動き出している。一昨年、英グラスゴーで開催されたCOP26終了時点で、期限付きでカーボンニュートラル宣言を掲げた国・地域は154にのぼり、これらを合わせると世界のGDPの約90%を占
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間