EUタクソノミーのその後:ドイツの欺瞞

2022年01月30日 07:10
アバター画像
東京工業大学原子炉工学研究所助教 工学博士

MarioGuti/iStock

最大の争点

EUタクソノミーの最大の争点は、原子力発電を善とするか悪とするかの判定にある。

善すなわちグリーンと認定されれば、ESG投資を呼び込むことが可能になる。悪となれば民間投資は原子力には向かわない。その最終判定に圧力をかけているのがドイツ始めEU加盟5カ国(スペイン、オーストリアなど)の反原発連盟にあることは、すでに本論のシリーズで解説した。

欧州委員会の裁定―原子力は準グリーン

2021年末が一つの瀬戸際であった。

欧州委員会(EC)は2022年1月1日にその裁定を発表した。ECはタクソノミーにおいてその技術がグリーンとみなされるかどうかを規定する『委任法令(Delegated Act:DA)』において、一定条件下で原子力と天然ガスの利用をグリーン認定する方向で検討を開始したと発表した。一定条件下でグリーン、つまり〝準グリーン〟との裁定である。ECはEUの執行機関であるので、ECの発布するDAは法律であるから、EU諸国にはその遵守が求められる。

原子力の場合、この一定条件とは、原子力発電は低炭素であり気候変動の緩和に効果があるものの、核のごみつまり放射性廃棄物の管理ないしは処分において問題ありとされており、適格性に問題ありとされている。

放射性破棄物の処分場はスエーデン、フィンランド、フランスなどでは計画が進んでいるが、ドイツなどは全く先が見えないという問題がある。もっともドイツで先を見えなくしたのは、グリーン勢力であるのだが。

ドイツの欺瞞

この中途半端な準グリーンというDA裁定にはウラがある。

ドイツは5カ国連盟をバックし、原子力を準グリーンカテゴリに入れる条件として天然ガス火力も準グリーン認定せよというバーターを強く押し出してきた。つまり、原子力発電と天然ガス火力発電を〝抱き合わせにする〟商法だ。これはドイツにとって大きなメリットがある。

この抱き合わせ商売の結果、ドイツは今後も原子力発電および火力発電を使い続けられる道を開いたのである。お為ごかしと言うほかない。ズル賢いドイツ人の欺瞞に満ちたやり方である。

ドイツの世論〜ウクライナが鍵

最近の世論調査によれば、ドイツの原発継続vs原発廃止の世論調査結果は、双方ほぼ43%で拮抗している。今後ドイツの若者や右派中心に原発継続派が伸びる可能性がある。

なぜなら、ドイツはEU諸国の中でも最も多量のCO2を大気中に垂れ流し続けてきた。その主要因は、自国で大量に採掘される褐炭を利用した火力発電である。褐炭は石炭の一種だが、褐色なのでそう呼ばれる。品質は石炭に劣る。

前のメルケル政権は、原子力も石炭・褐炭もやめると宣言した。原子力はともかくも、石炭や褐炭を止める分は天然ガスに置き換えざるを得ない。石炭と褐炭による発電は、全体の23.4%にも達している。天然ガスは現状で16%である。これが近々40%にもなる。

とするどこから天然ガスを調達するのか?

それは言わずと知れたロシアしかない。ロシアは今ウクライナ侵攻を狙っている。天然ガスパイプラインはウクライナを経由してヨーロッパに届く。

これらの事情が、国家セキュリティの観点からドイツの世論に重くのしかかることは間違ないだろう。

This page as PDF
アバター画像
東京工業大学原子炉工学研究所助教 工学博士

関連記事

  • 電力自由化は、送電・配電のネットワークを共通インフラとして第三者に開放し、発電・小売部門への新規参入を促す、という形態が一般的な進め方だ。電気の発電・小売事業を行うには、送配電ネットワークの利用が不可欠であるので、規制者は、送配電ネットワークを保有する事業者に「全ての事業者に同条件で送配電ネットワーク利用を可能とすること」を義務付けるとともに、これが貫徹するよう規制を運用することとなる。これがいわゆる発送電分離である。一口に発送電分離と言ってもいくつかの形態があるが、経産省の電力システム改革専門委員会では、以下の4類型に大別している。
  • 元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 今年6月2日に発表された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(案)」から読み取れる諸問題について述べる。 全155頁の大部の資料で、さまざまなことが書かれてい
  • 3月18日、「新型コロナウィルスと地球温暖化問題」と題する小文を国際環境経済研究所のサイトに投稿した。 状況は改善に兆しをみせておらず、新型コロナ封じ込めのため、欧米では外出禁止令が出され、行動制限はアジアにも波及してい
  • 「もんじゅ」以降まったく不透明なまま 2016年12月に原子力に関する関係閣僚会議で、高速原型炉「もんじゅ」の廃止が決定された。それ以来、日本の高速炉開発はきわめて不透明なまま今に至っている。 この関係閣僚会議の決定では
  • 昨年10月のアゴラ記事で、2024年6月11日に米下院司法委員会が公表した気候カルテルに関する調査報告書のサマリーを紹介しました。 米下院司法委が大手金融機関と左翼活動家の気候カルテルを暴く サマリーでは具体性がなくES
  • 世のマスメディアは「シェールガス革命」とか「安いシェールガス」、「新型エネルギー資源」などと呼んで米国のシェールガスやシェールオイルを世界の潮流を変えるものと唱えているが、果たしてそうであろうか?
  • 3月10日から久しぶりに米国ニューヨーク・ワシントンを訪れてきた。トランプ政権2.0が起動してから50日余りがたち、次々と繰り出される関税を含む極端な大統領令に沸く(翻弄される)米国の様子について、訪問先の企業関係者や政
  • 東日本大震災で発生した災害廃棄物(がれき)の広域処理が進んでいない。現在受け入れているのは東京都と山形県だけで、検討を表明した自治体は、福島第1原発事故に伴う放射性物質が一緒に持ち込まれると懸念する住民の強い反発が生じた。放射能の影響はありえないが、東日本大震災からの復興を遅らせかねない。混乱した現状を紹介する。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑