揚水発電物語:夜に貯めて、昼間発電するは古いかも
先日3月22日の東京電力管内での「電力需給逼迫警報」で注目を浴びた「揚水発電」だが、ちょっと誤解している向きもあるので物語風に解説してみました。
【第一話】原子力発電と揚水発電
昔むかし、日本では原子力発電が盛んでした。原子力発電は出力の上げ下げが不得意なこと、設備費がコストの大半を占めるのでなるべく100%で動かすことが経済的なので、夜も昼もずっと100%出力で動かしていました。
しかし原子力発電の比率が大きくなると、原子力発電と最低限動かしていなければならない火力発電所を合わせると、需要が大きく下る「夜間に電気が余ってしまう」ことにもなるので電力会社は、①夜間の電気料金を下げて需要を喚起し、更に②揚水発電を活用しました。
揚水発電は、夜間電力を使って水をポンプで高い所にある池に上げて、昼間のピークの時に水を落として発電をするものです。
【第二話】突然原子力が全部無くなった!
ところが大きな災害が起こり、原子力発電所の運転がすごく難しくなりました。幾つかの電力会社では原子力の発電量が全く無くなる事態にまでなりました。
そうすると夜間には電気が余ることは無くなり、夜間でも昼間と同じように石炭や天然ガス、石油を燃やして発電しなければならなくなり、深夜電力を安くする意味もなくなるとともに揚水発電も経済的には苦しくなりました(もともと稼働率も低いですし)。ただ昼間のピーク時にはどうしても揚水発電も必要なのですが。
【第三話】太陽光がやってきた
さて地球温暖化などの環境問題で「日本でも自然エネルギーの大量導入!」が叫ばれましたが、なぜか太陽光が一番優遇されてとんでもないスピードで導入されました。
そうすると今度は夜間でなく、天気の良い昼間に太陽光によって「昼間に電気が余る」と言う逆の事象が起こってしまいました。こうなると揚水発電も全く逆に昼間の余った電気で水を上げて太陽光のなくなった夜に使うという場面も出てくることになります。
ただ太陽光はお天気次第なので、雨の時は発電量が酷く減り(ただしゼロにはならない)ますので昼間の電気が余るどころか足らなくなり、揚水発電も昼間の電気の需要にも対応する必要があります。
これが今回起こったことなのでした。
■
リチウムイオン充電池もやってくる?
さてさて、電気を貯める技術は揚水発電でなく、圧縮空気で貯めるとか水素で貯めるとかの技術も開発されていますが、今一番有力なのは電気自動車に使う「リチウム電池」に貯めることです。
ただ最初は、
- コストがべらぼうに高い
- 電池の劣化への不安
などで全然進まなかったのですが、電気バスへの大量導入などでコストも下がり、劣化に関するデーターもたくさん取れたので近年海外では大いに普及が始まりました。
揚水発電とリチウムイオン充電池はどちらが優秀?
今の所、後から出てきた技術のリチウムイオン電池が遥かに優秀です。
① コストが安い
これから作る場合はリチウムイオン電池の方が遥かに安いし、今後は更にコストは下るでしょう。
② 応答性能も遥かに優秀
応答速度も二桁ほどリチウムイオン充電池が高い。ただしリチウムイオン充電池は必要以上に性能が高いとも言われます。
③ 建設期間
これもリチウムイオン充電池が優秀、土地さえあれば数ヶ月で建設可能。もちろん既存の揚水発電所は長く使うべきですが、新たに建設するのはあまり現実的ではないでしょう。
家庭用充電池や電気自動車の充電池も使える?
ドイツでは家庭用の太陽光バネルの60%には充電池が併設されているようですし、普及が著しいEVの電池を積極的にグリッドに接続するV2Gも普及が始まっています。これらもグリッドの安定化や非常時対策に活用することが考えられます。
今回の電力供給の危機は「揚水発電」の重要性を認識させるとともに、今後の充電池の活用への議論を活性化させるでしょう。もちろん「蓄電」には揚水やリチウム電池以外の技術開発動向にも注目すべきです。
関連記事
-
私は翻訳を仕事にしている主婦だ。そうした「普通の人」がはじめた取り組み「福島おうえん勉強会・ふくしまの話を聞こう」第一回、第二回を紹介したい。
-
2022年の年初、毎年世界のトレンドを予想することで有名なシンクタンク、ユーラシアグループが発表した「Top Risks 2022」で、2022年の世界のトップ10リスクの7番目に気候変動対策を挙げ、「三歩進んで二歩下が
-
オーストラリアは、1998年に公営の電気事業を発電・送電・小売に分割民営化し、電力市場を導入した。ここで言う電力市場は、全ての発電・小売会社が参加を強制される、強制プールモデルと言われるものである。電気を売りたい発電事業者は、前日の12時30分までに卸電力市場に入札することが求められ、翌日の想定需要に応じて、入札価格の安い順に落札電源が決定する。このとき、最後に落札した電源の入札価格が卸電力市場価格(電力プール価格)となる。(正確に言うと、需給直前まで一旦入札した内容を変更することもできるが、その際は変更理由も付すことが求められ、公正取引委員会が事後検証を行う。)
-
ここ数回、本コラムではポストFIT時代の太陽光発電産業の行方について論考してきたが、今回は商業施設開発における自家発太陽光発電利用の経済性について考えていきたい。 私はスポットコンサルティングのプラットフォームにいくつか
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクであるGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
-
電力料金の総括原価方式について、最近広がる電力自由化論の中で、問題になっている。これは電力料金の決定で用いられる考え方で、料金をその提供に必要な原価をまかなう水準に設定する値決め方式だ。戦後の電力改革(1951年)以来導入され、電力会社は経産省の認可を受けなければ料金を設定できない。日本の電力供給体制では、電力会社の地域独占、供給義務とともに、それを特徴づける制度だ。
-
Caldeiraなど4人の気象学者が、地球温暖化による気候変動を防ぐためには原子力の開発が必要だという公開書簡を世界の政策担当者に出した。これに対して、世界各国から多くの反論が寄せられているが、日本の明日香壽川氏などの反論を見てみよう。
-
日経新聞によると、経済産業省はフランスと共同開発している高速炉ASTRIDの開発を断念したようだ。こうなることは高速増殖炉(FBR)の原型炉「もんじゅ」を廃炉にしたときからわかっていた。 原子力開発の60年は、人類史を変
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間