本当の「環境問題」とは何かを考える

2021年11月07日 07:00
松田 智
元静岡大学工学部化学バイオ工学科

元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智

現状、地球環境問題と言えば、まず「地球温暖化(気候変動)」であり、次に「資源の浪費」、「生態系の危機」となっている。

しかし、一昔前には、地球環境問題として定義されるものとして1)温暖化、2)酸性雨、3)オゾン層破壊、4)海洋汚染、5)廃棄物の越境移動、6)熱帯林の消失、7)沙漠化(土壌の喪失)、8)野生生物種の減少、9)発展途上国の環境汚染、の9種類が挙げられていた。

metamorworks/iStock

筆者が現役時代、「環境化学工学」の講義をする際は、初回にまずはこの内容を話していた。

その内容を整理すると1)〜3)は大気関連、4)〜5)は廃棄物系環境汚染、6)〜8)は生態系関連と言えて、9)だけが人間社会直接の問題だが「地球環境問題」の一つに挙げられていた。影響の範囲が広く、国際協力が必要な課題だったからである。

このうち、温暖化以外の諸問題は、現象が明確に把握され(=データの実在が確認されている)、その原因もほぼ確実に分かっているものばかりである。特に酸性雨は既に、原因物質がSOx・NOxと確定され、対策技術もほぼ確立されている。日本でもまだ酸性の雨は降るが、その主な原因は国内にはない。また、オゾン層破壊問題も、前稿で述べた通り、科学的な現象解明と対策立案が実を結び、緩やかながら改善傾向にある。4)〜9)は、いずれも解決への道のりは平坦ではないが、現象の実在そのものが疑われることはない(熱帯林は、少しずつ回復傾向にある)。

その意味では、温暖化問題は地球環境問題の中で特異な位置を占めると思う。そもそも「温暖化」が「急速に」進んでいるのか?に疑問があり、その原因はCO2であるのか?そのCO2排出源は人間活動が大きな割合を占めるのか?さえ、科学的に確定していないにも拘わらず、大きな政治経済的問題になり、地球環境問題のトップに位置している。このこと自体が、先入観なく事態を眺めるなら、不思議なことである。

COP26にあれだけの人間が集まって、誰一人「大気中CO2濃度変化には、なぜ人間活動の影響が現れないのか?」と聞く人がいないのが、これまた不思議千万である。脱炭素=CO2排出削減が主題であるなら、その「効き目」に注目しないのは理屈に合わない。「言葉でなく行動を」とか言うのなら、その行動の成果にこそ、注視すべきであろうに。筆者の意見では、少なくとも、会議の合意事項に「何年までには大気中CO2濃度を○○ppmにする」との項目を入れるべきである。守れなかったら「お仕置き」よ!と。CO2削減で気温が実際に下がるかどうかは未確定だが、少なくとも大気中CO2濃度に変化が現れなければ、気温への効き目もないはずだから当然の要求であろう。「カネよこせ、やだ・・」の議論ばかりでなく、もっと真面目に「効き目」を議論しろ、と言いたい。

もう一つ地上の話だが、COP26に集まって「化石燃料の使用を止めろ」とデモしている人たちは、石油や天然ガス価格がどんなに高騰しても、歓迎しこそすれ、文句を言ってはならないはずである。使わない(使ってはならない)燃料価格がいくら上がろうが、関係ないはずだから。脱炭素を叫びながら、一方で燃料価格の高騰や電力不足を嘆くのは、これも理屈に合わない。脱炭素を言うのなら、文句言うべからず。筆者などは、こうした現象に、温暖化対策の自滅的な性格が顕在していると思う。欧米や日本が脱炭素などにうつつを抜かしている間に、石油や天然ガス・石炭等の利権は中露に移りつつある。今回のCOP26に習近平もプーチンも欠席する意味を考えるが良い。

こうした、実在するかどうかさえ確定していない温暖化問題は別にして、今、改めて見つめるべき環境問題は何だろうと考えるに、やはり大気・水・土の3分野に分けて考えるのが分かりやすいだろう。もちろん、これらは全部繋がっているので、相互に関連するのであるが。

まず大気に関しては、日本国内では、かなりの問題が解決されている。一時問題になったPM2.5も、国内では環境基準の達成率が98%を越えた

国内大気中のSOx・NOx濃度もかなり低く、健康への影響はほぼない。ただし、光化学オキシダントだけは、環境基準をほとんど達成できていない。なお、被害届出人数は、昭和50(1975)年の最大4万6千人と比べて、令和元(2019)年は337人と、大幅に減少している。光化学オキシダントの生成原因と目されているのはNOxとNMHC(非メタン系炭化水素)であり、これらの排出源の大きなものは自動車排ガスと目されるので、自動車の電動化(非ガソリン化、非ディーゼル化)が進めば、少なくとも国内では解決されるだろう。

世界的には、大気汚染、特にPM2.5や酸性雨はまだ現実的な問題である。ヨーロッパでも酸性雨は解決していない。自動車排ガス・劣悪な石炭火力発電などが主要な原因と見られる(東欧などでは、石炭火力発電の比率と大気汚染状況がほぼ比例するとのデータがある)。日本では、発電量の30%以上が石炭火力であるが、大気汚染問題は起きていない。石炭火力を一律に悪者扱いするのではなく、劣悪なものと優秀なものをしっかり区別すべきである(CO2は大気汚染物質とは見なされない)。

水質汚濁問題は、現在の日本では問題にならないが、世界的にはまだまだ深刻な水環境汚染が残っている。人間が使えるきれいな「真水」自体が、世界的に見れば貴重品に属する。水道の蛇口をひねればいつでも綺麗な水が出てくる日本のような国は、世界の例外であり、使える水の質・量ともに人類の大きな課題であり続ける。なお、海洋の各種汚染問題も、未解決の課題である。

土の問題としては、各種土壌汚染の問題もあるが、土地利用の面から、今後人類が使える土地は多くないことを認識する必要がある。地上の全陸地のうち、植物が良く育つ地域(樹林気候域面積)は約55%、これを人口当たり面積で見ると、2000年代には1.5 ha/人 程度になっている。2050年にはこの値が1 ha/人以下になる可能性があり、この土地的制約が人類の存続に大きく影響すると考えるべきである。現実問題として、既に利用されている土地資源(普通耕地・永年作物・牧草地および森林)87.6億haは既に上記「樹林気候域面積」81.6億haを上回っており、これに民生用土地(都市など)約3億haが加わる。明らかに、人間は地球上の土地を利用しすぎている。

SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)が盛んに言われているが、土地利用の観点から見れば、持続的に「発展」することなど、ほとんどあり得ないことが分かるだろう。人類に出来ることがあるとすれば、上記「土地資源」の有効利用法や、乏しくなって行く資源を如何に節約するか、環境汚染を防いで使える土地を如何に保持できるか、などに知恵を絞るしかないだろう。廃棄物の処理処分、リサイクルなどは将来に渡っても重要問題であり続ける。

日本国内で言えば、耕作放棄地が28.4万haもあり、このうち再生利用可能は9.1万haしかないとのことである。国土の狭い、食料自給率の低い日本ならなおさら、以前には耕作地であった土地を利用しない手はないだろう。

化学的な側面で言えば、食料生産の基本的条件として窒素肥料の使用量があり、作物の単位面積当り収量は、窒素肥料消費量にほぼ比例する(ある一定量を越えると飽和するが)。故に、食料増産を目指すと窒素肥料消費量も増えることになるが、これは反面、土壌や水環境への窒素負荷の増大を招く。地球上の窒素循環に、人間活動の影響が炭素循環などとは比べ物にならないほど大きく響くことは以前にも指摘したが、この問題は、土地利用・食料供給の問題と不可分である。

こうして見ると、地球環境の問題としては、実在するかどうかさえ曖昧な「温暖化」などよりも、大気・水・土地に関わる「実在する重要環境問題」こそ、喫緊の課題として認識し、対策を話し合う議題だろうと思う。

この他に、本稿では触れなかったが「脱化石燃料」問題が存在する。「脱炭素」で大騒ぎするくらいなら、「脱化石燃料」を真面目に議論しましょう、と言うのが筆者の主張である。

化石燃料は、幸いにしてまだ100年以上は持ちそうなので、それまでに化石燃料なしで存続する社会を作れれば良い。「脱炭素」は「脱化石燃料」が実現できれば自動的に実現するが、逆は真ならず。「脱炭素」に動員されている方策の多く(水素・アンモニア・CCS・森林吸収・排出権取引等々)は、どれも「脱化石燃料」には役立たない。「脱化石燃料」に真に役立つ方策を選び、実現に向けた議論を始めるべきである。

松田 智
2020年3月まで静岡大学工学部勤務、同月定年退官。専門は化学環境工学。主な研究分野は、応用微生物工学(生ゴミ処理など)、バイオマスなど再生可能エネルギー利用関連。

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松田 智
元静岡大学工学部化学バイオ工学科

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