北朝鮮7回目核実験の危機を直視せよ

2022年10月31日 07:00
アバター画像
東京工業大学原子炉工学研究所助教 工学博士

6回目の核実験で核先進国に追いついた

日・米・韓の外務次官会合が26日都内で開催され、もし仮に北朝鮮が7回目の核実験を強行すれば『比類ない規模の対応』をすると警告を発した。

北朝鮮は、2017年9月3日正午過ぎに同国の核実験場である豊渓里(プンゲリ)で、第6回目の核実験を実施した。この時の核爆発規模は、広島に落下された原爆の約10倍の威力である160キロトン程度と推定された

この実験によって北朝鮮当局は『ICBMに搭載可能な小型の水爆実験に成功した』旨の発表をした。これは米・露・中などの核先進国に北朝鮮が技術の面で追いついたことを示唆する。

©️Reuters

どんぶり勘定の核

当時私は新聞やTVなどのメディアにおいて、北朝鮮は爆発威力を可変式に調節できる小型軽量の〝ブースト型核爆弾〟に成功したと断じた。また、科学的技術的にみて、もうこれ以上実験をする必要はない。今後はさらなるスリム化と高性能化に磨きをかけるとともに一気に量産化と実戦配備に進むであろうと論じた。

スリム化のポイントは、ICBMの弾頭部分に複数(8体程度以上)の核弾頭を装着する小型軽量化であり、高性能化のポイントは可変式の爆発威力を最大500キロトン程度にまで高めることである。これらは技術的課題なので比較的ハードルは低い――要するに実験によって原理を検証する必要性はない。また量産化の第一段階の目標は数百体の核弾頭を製造し配備することにある。こうすれば一応ザックリと米国に対抗できる態勢が整う。

これは〝どんぶり勘定〟状態の核保有である。量産化の次の目標は数千体の核弾頭であり、そうなれば米国の核と拮抗できる。さらにいえば最終目標はその一桁上にいある。中国に比肩する核強国の実現である。

量産化は可能なのか

北朝鮮は核開発技術をフルセットで保有している。核爆弾の製造に必要な高濃縮ウラン、プルトニウム、そしてトリチウム(三重水素)のいずれもを製造するノウハウと装置を保有している。主なものはウランの濃縮施設であり、プルトニウムを製造する原子炉である。

破壊した北朝鮮・寧辺の核施設冷却塔
©️共同通信

この原子炉は、かつての非核化交渉の中で、2008年に冷却塔が自主的に爆破されプルトニウムの製造ができなくなることを装ったが、原子炉本体や主要施設は温存された挙句とうの昔に再稼働している。

北朝鮮は最初の核実験を行った2006年当時でさえ核爆弾を数個から10個程度製造できるプルトニウム量を保有すると推定されていた。プルトニウム製造も高濃縮ウラン製造も一時的には施設の破壊や放棄に追い込まれたかに見られたが、厳然として継続していたとみるべきだろう。

最初の核実験から15年以上の歳月が経っている。2017年からは5年が過ぎた。どんぶり勘定の核製造には十分な時間だとみる。ただし、どんぶり勘定から最終的な核強国への道には相当量のプルトニウム製造が必須であり、現在ある寧波の原子炉(黒鉛減速型5MW、プルトニウム製造炉)では力不足の感は否めない。しかしそれも時間の問題とも言える。

7回目の核実験の意義

7回目の核実験は、科学的技術的観点からはもはや必要ないと見て良いのではないか? では一体どのような意義があるのだろうか。

もはや皆さんのご記憶にはないかもしれないが、2017年の6回目の核実験後に北朝鮮は世界からの怒涛の批判にさらされ、経済制裁がより一層強化された。その挙句、北朝鮮の政府高官が国連の場で、北太平洋上空での核弾頭ミサイルの実戦さながらの爆破実験をする用意があるとほのめかしたことがある。超高軌道(ロフテッド軌道)における高高度核爆発実験である。こうなれば強力な電磁パルスが発生し日本の中枢機能は破壊され社会インフラが機能不全に陥り、多くの人命が失われると議論を呼んだ。

今次、同様の事態に陥れば7回目の核実験も絵空事ではなくなるかもしれない。ロシアとウクライナの戦争はますます混迷を深めているが、一部メディアで北朝鮮がロシア相手に兵器取引を行っているのではないかとの疑惑が持ち上がっている。これは新たな火種であり、ことの成り行きによっては北朝鮮の常軌を逸した行動の引き金ともなりかねない。

私たち国民も日本国政府もこのような事態にもっと真摯に向き合い、まっとうな危機意識を持つべきだと思う。

This page as PDF
アバター画像
東京工業大学原子炉工学研究所助教 工学博士

関連記事

  • 日本では殆どの新聞に載っていませんが、6月10日にスウェーデンの与党(社会民主党、緑の党)、野党(穏健党、中央党、キリスト教民主党)の5党が、「原子力発電に掛けていた高額な税金を廃止して、原子力発電の継続を支える」ことに合意しました。
  • CO2濃度が増加すると海洋が「酸性化」してサンゴ礁が被害を受けるという意見があり、しばしば報道されている。 サンゴは生き物で、貝のように殻を作って成長するが、海水中のCO2濃度が高まって酸性化してpHが低くなると、その殻
  • 電力料金の総括原価方式について、最近広がる電力自由化論の中で、問題になっている。これは電力料金の決定で用いられる考え方で、料金をその提供に必要な原価をまかなう水準に設定する値決め方式だ。戦後の電力改革(1951年)以来導入され、電力会社は経産省の認可を受けなければ料金を設定できない。日本の電力供給体制では、電力会社の地域独占、供給義務とともに、それを特徴づける制度だ。
  • サナエあれば、憂いなし 日米首脳会談は友好的な雰囲気の中で始まった。日米双方にとって憂いなき日米関係の強靭化のはじまり。 〝サナエあれば、憂いなし〟の幕開けである。 28日、迎賓館での首脳会談の開始前。双方の側近たちの交
  • CO2を多く排出するとして、ここのところ先進国ではバッシングを受けている石炭事業だが、世界には多くの炭鉱開発計画がある。 最近出た環境団体グローバル・エナジー・モニターの報告によると、世界で提案されている新しい炭鉱開発事
  • 「ポスト福島の原子力」。英国原子力公社の名誉会長のバーバラ・ジャッジ氏から、今年6月に日本原子力産業協会の総会で行った講演について、掲載の許可をいただきました。GEPR編集部はジャッジ氏、ならびに同協会に感謝を申し上げます。
  • GEPRフェロー 諸葛宗男 はじめに 米国の核の傘があてにならないから、日本は核武装すべきだとの意見がある。米国トランプ大統領は、日本は米国の核の傘を当てにして大丈夫だと言いつつ日本の核武装を肯定している。国内でも核武装
  • 政府「クリーンエネルギー戦略」中間整理が公表された。岸田首相の肝いりで検討されてきたものだ。 紆余曲折の末、木に竹をつなぐ もともと、この「クリーンエネルギー戦略」は、脱炭素の投資を進めるべく構想されたものだった。これは

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑