国際的な茶番にすぎない奇妙な化石賞

2022年12月19日 07:00
アバター画像
東京大学大学院教授

化石賞というのはCOP期間中、国際環境NGOが温暖化防止に後ろ向きな主張、行動をした国をCOP期間中、毎日選定し、不名誉な意味で「表彰」するイベントである。

「化石賞」の授賞式は、毎日夜6時頃、会場の一角で行われる。会場には恐竜の化石のぬいぐるみが歩き回り、時間になると骸骨のコスチュームをきた覆面姿の男性が現れ、当日の「受賞国」を発表する。

COP25で日本が受賞した時、イベントを見に行ったが、小泉進次郎環境大臣(当時)のスピーチを取り上げ、日本が温室効果ガス削減の目標値を引き上げなかった、脱石炭に積極的な姿勢を示さなかったとの「罪状」を読み上げ、「日本に化石賞第1位を授与する」と宣言すると日本の環境NGOの女性が壇上にあがり、石炭を模した黒い塊の入ったバケツを持たされ、周囲の国際NGOの人たちが「恥を知れ、日本!」と言いながら黒い塊を彼女に投げつける。

高校の文化祭のレベルにも達しないようなくだらないイベントだが、翌日の新聞では「日本、2度目の化石賞受賞」との見出しが躍った。もともと自虐傾向の強い日本のメディアは日本が化石賞を受賞すると小躍りして大々的に報道する。国際環境NGOもそこをよくわかっているので、日本は化石賞受賞の常連である。

COP27においても11月9日に日本が会期中最初の受賞者となった。受賞理由は「化石燃料に対する公的融資が最も多い。化石燃料の利用を長引かせるソリューションの輸出を企図している」というものだった。例によって日本のメディアは大々的に報道していたが、良識を期待されるべきNHKまで嬉々としてそれに乗ったことを残念に思った。

NHKより

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221110/k10013886821000.html

COP27期間中の化石賞受賞国のリストおよび受賞理由(カッコ内)は以下の通りである。

  • 11月9日 日本(化石燃料に対する公的融資が最大。化石燃料の利用を長引かせるソリューション輸出を企図)
  • 11月10日 エジプト(ソーシャルメディアに関する活動家の権利制限、水、食べ物、トイレの不足、ぼったくりのホテル価格)
  • 11月11日 UAE/エジプト:ガス輸出国フォーラム(GECFのミーティングをホスト)、米国(Energy Transition Acceleratorで全球排出削減につながらない炭素市場を拡大)、ロシア(予算が化石燃料に依存)
  • 11月12日 米国(ロスダメ資金に反対)
  • 11月14日 ニュージーランド(ロスダメ資金の決定を2024年に延期するとの提案を支持)
  • 11月15日 トルコ(2030年BAU比削減目標を引き上げたが、実際は30%の排出増)
  • 11月16日 ロシア(1年を通じて悪いことばかりしている)
  • 11月17日 イスラエル(パビリオンにおいて紛争地域の成功事例を紹介)
  • 11月18日 米国(他の先進国(EU)が歩み寄りを示しているのにロスダメに賛成しないのでColossal Fossil 賞を授与)

受賞理由を一瞥すると、比較的クリーンとされる天然ガスも敵視していること、ロスダメに反対する国は片端から血祭に挙げていること等の傾向が見て取れる。また主催国エジプトが会場設営上の問題点やNGO活動の制約等で受賞しているのも面白い。COP26でも主催国英国が化石賞をもらっている。

毎度のことながら、世界最大の石炭消費国・石炭火力輸出国である中国は化石賞を受けていない。グラスゴー気候合意やG7サミットでは中国等を念頭にNDCの引き上げをエンカレッジしているが、中国はそれに応じていないどころか、COP27では解振華副主任が石炭火力の必要性を強調している。それでも中国は特別扱いをされているかの如くである。

知り合いのNGOの方に聞いたところ、化石賞は毎日、各国NGOが協議の上、コンセンサスで決めており、中国の名前があがったこともあるが、全員一致にはならないという。中国を批判するようなことをすると中国での活動が難しくなるとのジレンマもあるらしい。

各国NGOには中国のNGOも参加しているはずだが、そもそも全体主義国家、中国において真の意味でNGOなど存在するのか。彼らが反対に回り、最大の排出国中国はずっと化石賞の圏外におり、日本は常連受賞国でそれをメディアが大げさに取り上げる。

やはり化石賞は国際的な茶番劇でしかない。

This page as PDF

関連記事

  • けさの日経新聞の1面に「米、日本にプルトニウム削減要求 」という記事が出ている。内容は7月に期限が切れる日米原子力協定の「自動延長」に際して、アメリカが余剰プルトニウムを消費するよう求めてきたという話で、これ自体はニュー
  • (前回:再生可能エネルギーの出力制御はなぜ必要か) 火力をさらに減らせば再生可能エネルギーを増やせるのか 再生可能エネルギーが出力制御をしている時間帯も一定量の火力が稼働しており、それを減らすことができれば、その分再エネ
  • エジプトで開催されていたCOP27が終了した。報道を見ると、どれも「途上国を支援する基金が出来た」となっている。 COP27閉幕 “画期的合意” 被害の途上国支援の基金創設へ(NHK) けれども、事の重大さを全く分かって
  • また出ました。今度はオーストラリアの旅行会社イントレピッド・トラベル社。カーボンオフセット中止、脱炭素目標撤回、SBTi離脱を表明しました。 Our Climate Action Plan Is Changing. He
  • 米国では発送電分離による電力自由化が進展している上に、スマートメーターやデマンドレスポンスの技術が普及するなどスマートグリッド化が進展しており、それに比べると日本の電力システムは立ち遅れている、あるいは日本では電力会社がガラバゴス的な電力システムを作りあげているなどの報道をよく耳にする。しかし米国内の事情通に聞くと、必ずしもそうではないようだ。実際のところはどうなのだろうか。今回は米国在住の若手電気系エンジニアからの報告を掲載する。
  • 日本では福島原発事故、先進国では市民の敬遠によって、原発の新規設置は難しくなっています。また使用済み核燃料と、棄物の問題は現在の技術では解決されていません。しかし世界全体で見れば、エネルギー不足の解消のために、途上国を中心に原発の利用や新設が検討されています。
  • 福島原発の事故により、事故直前(2010年度)に、国内電力供給の25% を占めていた原発電力の殆どが一時的に供給を停止している。現在、安全性の確認後の原発がどの程度、再稼動を許可されるかは不明であるが、現状の日本経済の窮状を考えるとき、いままで、国民の生活と産業を支えてきた原発電力の代替として輸入される化石燃料は、できるだけ安価なものが選ばれなければならない。
  • エネルギー・環境問題を観察すると「正しい情報が政策決定者に伝わっていない」という感想を抱く場面が多い。あらゆる問題で「政治主導」という言葉が使われ、実際に日本の行政機構が政治の意向を尊重する方向に変りつつある。しかし、それは適切に行われているのだろうか。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑