脱炭素が妄想であることを示す図4選

2023年04月08日 07:00
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

HiddenCatch/iStock

米国マンハッタン研究所の公開論文「エネルギー転換は幻想だ」において、マーク・ミルズが分かり易い図を発表しているのでいくつか簡単に紹介しよう。

どの図も独自データではなく国際機関などの公開の文献に基づいている。

2050年に脱炭素なんて出来っこありません、ということを端的に示すものだ。

1. 太陽・風力は増えたといってもごく僅か

世界のエネルギー供給は増え続けている。太陽・風力が増えたといってもまだごくわずかだ(図の縦軸は10億石油等価トン/年)。世界は圧倒的に化石燃料に頼っている:

2. 所得上昇でエネルギーは増える

世界のエネルギー供給が増え続けているのは、所得が上昇するにつれて、一人当たりのエネルギー消費が増えるからだ。つまりこれからもどんどん増える。

世界中の多くの人々がより豊かになると、より良い医療から車や休暇まで、他の人々がすでに持っているものを欲しがるようになる。裕福な国に住む10億人は、世界の他の60億人に比べて、一人当たり5倍以上のエネルギーを使用している。裕福な国では、国民100人当たり80台の車が走っているが、他の地域では100人当たり数台しかない。世界人口の80%以上がまだ一度も飛行機に乗っていない。

3. シェール革命の方が太陽・風力より急激だった

太陽・風力発電が急激に拡大してきたとよく宣伝されるが、じつはシェールガス・オイルの拡大の方が急激で規模も大きかった。過去20年で革命が起きたのは再生可能エネルギーよりもむしろ化石燃料の方だった。

4. バッテリーは当分ガソリンに追いつけない

バッテリー未来予測として、半導体の「ムーアの法則」になぞらえて、指数関数的に性能が改善するようなことがよく言われるが、現実にはそんなことは起きていない。

図はバッテリーのエネルギー密度をガソリンと比べたもので、6%以下のところで停滞が続いている(なおこのエネルギー密度の比較は、電気自動車のモーターがガソリン自動車のエンジンよりも効率が高いことを考慮している。それでもこの程度、ということ):

キヤノングローバル戦略研究所_杉山 大志』のチャンネル登録をお願いします。

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 2年前の東日本大震災は地震と津波による災害と共に、もう一つの大きな災害をもたらした。福島第一原子力発電所の原子力事故である。この事故は近隣の市町村に放射能汚染をもたらし、多くの住人が2年経った現在もわが家に帰れないという悲劇をもたらしている。そして、廃炉に用する年月は40年ともいわれている。
  • 【要旨】過去30年間、米国政府のエネルギー技術革新への財政支援は、中国、ドイツ、そして日本などがクリーン・エネルギー技術への投資を劇的に増やしているにもかかわらず著しく減少した。政府のクリーン・エネルギー研究開発への大幅な支出を増やす場合に限って、米国は、エネルギー技術革新を先導する現在の特別の地位を占め続けられるはずだ。
  • アメリカのトランプ大統領が、COP(気候変動枠組条約締約国会議)のパリ協定から離脱すると発表した。これ自体は彼が選挙戦で言っていたことで、驚きはない。パリ協定には罰則もないので、わざわざ脱退する必要もなかったが、政治的ス
  • 前回に続いて、環境影響(impact)を取り扱っている第2部会報告を読む。 今回は朗報。衛星観測などによると、アフリカの森林、草地、低木地の面積は10年あたり2.4%で増えている。 この理由には、森林火災の減少、放牧の減
  • 先日、日本の原子力関連産業が集合する原産会議の年次大会が催され、そのうちの一つのセッションで次のようなスピーチをしてきた。官民の原子力コミュニティの住人が、原子力の必要性の陰に隠れて、福島事故がもたらした原因を真剣に究明せず、対策もおざなりのまま行動パターンがまるで変化せず、では原子力技術に対する信頼回復は望むべくもない、という内容だ。
  • IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 IPCC報告では、産業革命が始まる1850年ごろまでは、
  • 2004年、ドイツの環境相だったユルゲン・トリッティン氏は、再生可能エネルギー促進のための賦課金は「月額わずか1ユーロ、アイスクリーム一個の値段だ」と語った。 しかしそれから20年経った今、皮肉な事態が起きている。ドイツ
  • 東日本大震災と原発事故災害に伴う放射能汚染の問題は、真に国際的な問題の一つである。各国政府や国際機関に放射線をめぐる規制措置を勧告する民間団体である国際放射線防護委員会(ICRP)は、今回の原発事故の推移に重大な関心を持って見守り、時機を見て必要な勧告を行ってきた。本稿ではこの間の経緯を振り返りつつ、特に2012年2月25-26日に福島県伊達市で行われた第2回ICRPダイアログセミナーの概要と結論・勧告の方向性について紹介したい。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑