世界各国で開発が進むSMRのアキレス腱

onepony/iStock
今SMR(Small Modular Reactor: SMR)が熱い。
しかし、SMRの概念図を見て最初に思ったのは、「これって〝共通要因〟に致命的に弱いのではないか」ということだ。
SMRは小型の原子炉を多数(10基程度)同一の建屋内に配備する。
共通要因とは、共通の原因で故障や事故に至ることをいう。SMRは同じ型のものを工場で多量に生産する。設計や製造でどこかに不備が潜り込んでいれば、その不備はどの原子炉にも共有される。
自動車で時々リコールが起こるが、まあそういうことである。
図はNuScale社が提案するSMRのポンチ絵であるが、共通の入れ物である建屋そして巨大なプールの中に同じモジュール炉(出力7.7万kW)が、4基(30.8万kW)、6基(46.2万kW)、12基(92.4万kW)、という3つのオプションが用意されている。小型といっても1モジュールは高さ23mで直径は4.5m、重さは800トンもある。結構デカイのである。
ちなみに福島第一原子力発電所の原子炉6基の総出力は469.6万kWであったので、このSMRだと61基が必要になる。
なぜ、巨大なプール(10m x 100m x 25m程度)が必要なのかといえば、万が一、炉心の冷却剤がなくなった場合に、過熱して溶けそうになった炉心を冷やす水を供給するためである。それによってシビアアクシデントを防止する。
福島第一原子力発電所のシビアアクシデントは、想定外の大きな津波という自然の現象つまり〝共通要因事象〟によって引き起こされ、複数基の原子炉が全電源喪失という同じ事態に陥ってほぼ同様の事故に進展していった。
SMRの場合は例えばこの巨大なプールは安全の要諦である〝止める・冷やす・閉じ込める〟の最後の砦のような役目を担っている。巨大なプールに蓄えられた水は、炉心が溶けるといったシビアアクシデントが起こるような事態に及んだ際に、過熱した炉心をひたすために各モジュール内に冷却水を注入するためにある。
しかし、プールが巨大地震などで破損するという“単一の故障”でプール水がなくなれば、すべてのモジュールが冷却できなくなる―――単一の故障が共通の要因となって複数の原子炉に同じ事故をもたらすのである。つまり、この最後の砦が致命的な事態を引き起こす共通要因にもなりうるということである。
ただし、この見方には異論もある。そもそもSMRのモジュールを含む巨大プールは全体が地下に埋め込まれるので地震の揺れの影響を受けにくくプールの大規模破損は起こりにくいという。その一方で、大規模破損は起こらないとしても、地震による長周期振動でプール水には〝スロッシング(液体の表面が大きくうねる現象)〟が発生し、大量のプール水を失う可能性があるという見方もある。
いずれにしても、巨大地震や巨大津波に襲われればこの砦自体が機能を失って、果ては崩壊しかねないという危機を孕んでいる。
重大な事故はいつも想定外のことを原因として起こってきた。

関連記事
-
福島原発事故の結果、現時点でも約16万人が避難しました。そして約650人の方が亡くなりました。自殺、精神的なダメージによって災害死として認定されています。
-
前回、環境白書の示すデータでは、豪雨が増えているとは言えない、述べたところ、いくつかコメントがあり、データや論文も寄せられた(心より感謝します)。 その中で、「気温が上昇するほど飽和水蒸気量が増加し、そのために降水量が増
-
はじめに 日立の英国原発凍結問題を機に原子力発電所の輸出問題が話題になることが多いので原発輸出問題を論考した。 原発輸出の歴史 原子力発電所の輸出国は図1の通りである。最初は英国のガス炉(GCR)が日本、イタリアに導入さ
-
リウマチの疫学を学ぼう、と公衆衛生大学院への留学を目指していた私の元に、インペリアルカレッジ・ロンドンから合格通知が届いたのは2011年2月28日。その時は、まさかそのわずか11日後に起こる事件のために自分の進路が大きく変わるとは、想像もしていませんでした。
-
メタンはCO2に次ぐ温室効果ガスとして知られている。IPCC報告を見ると、過去、CO2による温暖化が約0.8℃だったのに対してメタンは約0.5℃の温暖化を引き起こした、としている(下図の左から2番目のMethane)。
-
言論アリーナ「エネルギー問題の先送りはもうやめよう」を公開しました。 ほかの番組はこちらから。 新潟県知事選挙では与党推薦の花角候補が辛勝し、柏崎刈羽原発の再稼動に道が開けました。しかし原子力には積み残した問題が多く、前
-
東京電力福島第一原子力発電所の事故から早2年が過ぎようとしている。私は、原子力関連の会社に籍を置いた人間でもあり、事故当時は本当に心を痛めTVにかじりついていたことを思い出す。
-
第6次エネルギー基本計画は9月末にも閣議決定される予定だ。それに対して多くの批判が出ているが、総合エネルギー調査会の基本政策分科会に提出された内閣府の再生可能エネルギー規制総点検タスクフォースの提言は「事実誤認だらけだ」
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間