EVには莫大な鉱物資源が必要になる

2023年07月03日 06:30
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

PhonlamaiPhoto/iStock

前回に続いてルパート・ダーウオールらによる国際エネルギー機関(IEA)の脱炭素シナリオ(Net Zero Scenario, NZE)批判の論文からの紹介。

A Critical Assessment of the IEA’s Net Zero Scenario, ESG, and the Cessation of Investment in New Oil and Gas Fields.

脱炭素のためとしてEVを大量導入するにはバッテリー製造のための金属原料が大量に必要になる。下図は2020年から2040年までの20年間でどれだけ供給量が増えなければならないかを示したもの。バッテリー材料であるリチウムは4089%の伸び、つまり40倍増となっている。他にも、グラファイト、コバルト、ニッケルは軒並み20倍増程度となっている。

現在のEV用のバッテリーは金属資源の塊である。下図は、バッテリーのタイプごとに、それぞれの金属が何キログラム必要か、60kWhのリチウムイオン電池について示したもの。これだけで150ないし200キログラムに達することが分かる。

ここ1年、EVが欧州や中国などで導入されるようになった結果、原料とくにリチウムの価格が高騰した。この結果、テスラのバッテリーのコストは1台あたり7000ドル近くに達した。日本円でいえば100万円以上である。今後、ますますEVが大量導入されるとなると、このコストはどこまで高くなるのだろうか。

EVのバッテリーが大きくて重いのは、性能が低いためだ。下図は、化石燃料とリチウムイオン電池のエネルギー密度(リットル当たりメガジュール、縦軸)と重量あたりエネルギー(キログラムあたりメガジュール)を示したもの。ガソリンはリチウムイオン電池よりも100倍もエネルギー密度が高い。

以上、バッテリーの現在の実力はこの程度だ。

先日、トヨタが革命的な全個体電池自動車を2027年に市場に投入するというアナウンスがあった。急速充電で10分以下(充電率:10%→80%)、航続距離1200km超を目指して2027~2028年の実用化を目指すという。まだバッテリーにはさまざまな技術的可能性がある。

政府は、今ある電気自動車(往々にして中国製、とくにバッテリーやその材料は)を補助金漬けで性急に大量に導入するよりも、基礎的な研究開発を支援したほうがよいのではないか。

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • “ドイツのソフトな全体主義化”。陰謀論だと言われることは承知の上で、随分前からこの問題に言及してきた。ドイツで起きる出来事を真剣に定点観測するようになってすでに20年あまり、政治や世論の転換前の兆候として、メディアで使わ
  • 12月4日~14日、例年同様、ドバイで開催される気候変動枠組み条約締約国会合(COP28)に出席する。COP6に初参加して以来、中抜け期間はあるが、通算、17回目のCOPである。その事前の見立てを考えてみたい。 グローバ
  • 「2050年のカーボンニュートラル実現には程遠い」 現実感のあるシナリオが発表された。日本エネルギー経済研究所による「IEEJ アウトルック 2023」だ。(プレスリリース、本文) 何しろここ数年、2050年のカーボンニ
  • 英国イングランド銀行が、このままでは気候変動で53兆円の損失が出るとの試算を公表した。日本でも日経新聞が以下のように報道している。 英金融界、気候変動で損失53兆円も 初のストレステスト(日本経済新聞) 英イングランド銀
  • 米国はメディアも民主党と共和党で真っ二つだ。民主党はCNNを信頼してFOXニュースなどを否定するが、共和党は真逆で、CNNは最も信用できないメディアだとする。日本の報道はだいたいCNNなど民主党系メディアの垂れ流しが多い
  • 元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 5月22日に放映されたNHK・ETVの「サイエンスZERO」では、脱炭素社会の切り札として水素を取り上げていたが、筆者の目からは、サイエンス的思考がほとんど感じられない内容だっ
  • こうした環境変化に対応して原子力事業を国内に維持するには、個別施策の積み重ねではなく、総合的なパッケージとなる解決策を示す必要がある。その解決策として出した提案の柱の第一は、民間主導でのリプレースが行われることであり、そのための資金調達が可能となる事業環境整備である。
  • アゴラ研究所の運営するインターネット放送「言論アリーナ」。4月21日の放送では「温暖化交渉、日本はどうする?」をテーマに、放送を行った。出演は杉山大志(電力中央研究所上席研究員・IPCC第5次報告書統括執筆責任者)、竹内純子(国際環境経済研究所理事・主席研究員)、司会は池田信夫(アゴラ研究所所長)の各氏だった。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑