太陽光発電のCO2排出は天然ガス火力の半分もあるとする論文

2023年07月27日 06:50
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

JaCZhou/iStock

太陽光発電のCO2排出量は実はかなり多い、という論文が2023年7月4日付で無料公開された。(論文解説記事)。イタリアの研究者、エンリコ・マリウッティ(Enrico Mariutti)によるもので、タイトルは「太陽光発電産業の汚れた秘密(The Dirty Secret of the Solar Industry)」。

太陽光発電に関するライフサイクルCO2排出量評価(発電設備の建設、運転、廃棄に至るまでの全体におけるCO2排出量の評価)において、IEA、IPCCを含めて既存の文献は著しい過小評価になっている、としている。

過小評価になっている技術的な理由は、

  • 中国製の製品なので、製造時には石炭を多用しているはずだが、それを考慮しておらず、世界平均の発電時CO2原単位を用いている
  • 中国では石炭採掘時のメタン発生も多いはずで、その温室効果をCO2の量に換算する必要があるが、それが考慮されていない
  • 太陽光発電の為に建設される送電網の整備時に発生するCO2排出を考慮していない
  • 太陽光発電の為に設置されるバッテリーの製造時に発生するCO2排出を考慮していない
  • 太陽光パネルを設置することで、太陽光反射が減少する。この分をCO2排出量に換算する必要があるが、考慮されていない。

といったことである。全て合計すると、イタリアにおける太陽光発電のCO2排出原単位は、最悪の場合kWhあたり245gCO2に達するという。(図1)

図1 マッティ論文より

図中、一番左は、一定の前提の下での、太陽光パネル製造のための電力の発電に伴うCO2発生量であり、それにさまざまな補正を施すと、一番右にあるトータルのCO2排出量となる。その値は245となっている。

この1kWhあたり245グラムという推計はとても多い。いま国内でよく事業者によって参照されている数値は、日本の電気事業連合会が2016年の電力中央研究所報告に基づいて公表している値で、kWhあたり38グラムである(図2)。桁一つ違う。

もっとも大きな違いはパネル製造時のCO2排出量に関する想定によるものだ。近年になって世界における太陽光パネルの9割が中国で製造されるようになり、それが主に石炭火力発電によって賄われるようになったことが、この電気事業連合会の数値にはまだ反映されていない。

1kWhあたり245グラムもCO2を排出しているとなると、これはまったく無視できる量ではない。2022年に運転開始した上越火力発電所1号機のように、日本の最先端の液化天然ガス(LNG)火力発電であれば、CO2排出原単位は1kWhあたり320から360グラムと推計されている(図3)。

こうなると太陽光発電のことを「ゼロエミッション」と呼ぶことなど到底できない。せいぜい、排出を半分にする、というぐらいである。

マウリッティは、この太陽光発電のCO2排出に関するライフサイクル分析という分野全体が、太陽光発電を推進するという特定の目的に奉仕するようになり、科学的な検証を拒絶してきた、詳しく証拠を挙げて批判している。全て取り上げるとかなり長くなるので、以下、その結論だけになるが、紹介しよう。

自動車メーカーが燃焼エンジンの排ガスを自己認証することを信用するだろうか? 製薬会社が製品の安全性を自己認証することを信用するだろうか? 重工業が工場周辺の空気の質を自己認証することを信用するだろうか? 絶対に違う。

なぜか人々は、「グリーン」な技術について語るときには、利害関係者が「科学的コンセンサス」を操作するかもしれない、ということを忘れてしまう。

私たちは、太陽光発電に莫大な金額を投資しているが、それが本当にCO2排出削減に結びついているのか、太陽光発電事業者の提出するデータを監督する政府や国際的機関が存在しない。

この「無条件の信頼」の陰で、太陽光発電のライフサイクル評価という分野は、データの実証的検証を疎外する「エコーチェンバー」と化してきた。この分野の研究者は、データやモデルの質の低さに目をつぶり、結束して共犯してきた。

彼らの目的は、科学的・技術的な分析ではなく、太陽光発電エネルギーの炭素強度が非常に低いということを主張したいだけではないか、という疑念がある。

太陽光発電のライフサイクル評価という分野は “紙の上の知識 “に基づいているが、20年間、誰も何も検証していない。彼らは、太陽光発電でCO2が大幅に減るという、おそらく史上最大の憶測を煽ってきた。

この批判がどこまで当たっているかは議論の余地があるだろう。

中国製の太陽光パネルを使用すればライフサイクルでのCO2排出量は大幅に増大することは以前書いた通りだ。事業者はそれを透明性の高い形で正確に評価する必要があるし、政府は補助金などの支援を実施するにあたっては、その実態をよく把握すべきだ。

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 昨年10月に公開された東京電力社内のテレビ会議の模様を見た。福島第一原発免震重要棟緊急対策室本部と本店非常災害対策室とのやりとりを中心に、時々福島オフサイトセンターを含めたコミュニケーションの様子の所々を、5時間余り分ピックアップして、音声入りの動画を公開したものだ。また、その後11月末にも追加の画像公開がなされている。
  • 2025年7月2日NHKニュースによると、柏崎市の桜井市長は、柏崎刈羽原子力発電所の7号機の早期の再稼働が難しくなったことを受け、再稼働の条件としている1~5号機の廃炉の方針について、改めて東京電力と協議して小早川社長に
  • 英国気象庁の気温測定局のほぼ3つに1つ(29.2%)は、国際的に定義された誤差が最大5℃もある。また、380の観測所のうち48.7%は最大2℃も誤差がある。NGOデイリースケプティックのクリス・モリソンが報告している。
  • 4月3日は、台風並みの暴風雨が全国的に吹き荒れた。交通機関などの混乱にとどまらず、全国で死者3人、けが人は300人を超える被害を引き起こしている。東京電力のウェブサイトによれば、23時現在、同社サービスエリア内で約2100軒が停電中という。電気が止まってしまったご家庭はさぞ心細い思いをされているだろうと心配しつつ、同時に、嵐の中で必死に復旧作業にあたっているであろう、かつての同僚の顔が目に浮かぶ。私は昨年末まで同社に勤めていた。
  • 小泉元首相の講演の内容がハフィントンポストに出ている。この問題は、これまで最初から立場が決まっていることが多かったが、彼はまじめに勉強した結果、意見を変えたらしい。それなりに筋は通っているが、ほとんどはよくある錯覚だ。彼は再生可能エネルギーに希望を託しているようだが、「直感の人」だから数字に弱い。
  • 広島高裁は、四国電力の伊方原発3号機の再稼動差し止めを命じる仮処分決定を出した。これは2015年11月8日「池田信夫blog」の記事の再掲。 いま再稼動が話題になっている伊方原発は、私がNHKに入った初任地の愛媛県にあり
  • マイクロソフト社会長であるビル・ゲイツ氏は「ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団」を運営し、地球規模の社会問題の解決のための活動をしています。
  • 菅首相が10月26日の所信表明演説で、「2050年までにCO2などの温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目指す」旨を宣言した。 1 なぜ宣言するに至ったか? このような「2050年ゼロ宣言」は、近年になって、西欧諸国

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑