福島第二原発を再稼動せよ
世界的に化石燃料の値上がりで、原子力の見直しが始まっている。米ミシガン州では、いったん廃炉が決まった原子炉を再稼動させることが決まった。
米国 閉鎖済み原子炉を再稼働方針https://t.co/LILraoNBVB
米国のホルテック・インターナショナル社は、MI州で2022年に永久閉鎖となったパリセード原子力発電所を再稼働させるため、子会社を通じて、同発電所が発電する電力をウルバリン電力協同組合に長期にわたり販売する契約を締結しました。
— 原子力産業新聞 (@atomic_journal) September 15, 2023
アメリカではシェールガスの価格が下がったため、原子力の競争力がなくなったが、ウクライナ戦争以降の化石燃料の値上がりで、ミシガン州は原発を動かす方針に転換した。今回はこれを受けて、いったん廃止されたパリセード原発(出力85.7万kW)を再稼働し、その電力を地元の発電組合に売ることが決まったものだ。
世界最大のストレステストに耐えた福島第二原発
日本では原子力規制委員会の審査を受けないまま廃炉になった原子炉が24基、未申請を含めると33基もある。その原因は新規制基準に適合させるコストが高すぎたためだが、LNGの価格が大幅に上がった今、その採算性も見直す必要がある。

資源エネルギー庁の資料
特に問題なのは、2013年に廃炉が決まった福島第二原発の1~4号機(合計440万kW)である。これは福島第一と同時に地震と津波の被害を受け、同じく非常用電源が使えなくなったが、作業員の決死の作業で電源が復旧し、冷温停止した。いわば世界最大のストレステストに合格したわけだ。
ところが地元市町村から「第一・第二原発はすべて廃炉にしろ」という要望が出たため、東電は廃炉を決めた。政府から廃炉にしろという命令が出たわけではないが、地元の「お気持ち」に配慮して東電経営陣が決めたのだ。
福島第二の売電収入を福島第一の廃炉費用に
しかし状況は変わった。LNGのスポット価格は10年前の2~5倍になり、東電の電気代はウクライナ戦争前の1.5倍になった。動かせる原発を止める機会費用が、当時より大きくなったのだ。原子力規制委員会の審査コストより、今後の経費節減効果のほうがはるかに大きい。
当時もう一つ問題になったのは、40年ルールだった。福島第二の1号機の運転開始は1982年なので、2022年には満40年だ。規制委員会がOKすれば運転を延長できるが、当時の空気ではそれが見通せなかった。「再稼動に投資するには不確定要因が大きすぎる」というのが東電経営陣の判断だった。
これも岸田政権が40年ルールを改正して、不確実性はなくなった。少なくとも耐震性については、1000年に1度の震災で実証ずみである。予備電源を浸水しない高さに設置すれば、同じような事故が起こることはありえない。

福島第二原発の廃炉作業(東電ウェブサイトより)
廃炉の作業はすでに始まっているが、まだ汚染を除去している段階で、パリセード原発のように再稼動することは、技術的には容易である。これによって地元にも雇用が生まれ、発展の余地ができる。その売電収入を福島第一の廃炉費用にあててはどうだろうか。
他にも技術的には十分運転できるのに、審査適合費用が大きすぎて廃炉が決まった原子炉が多い。脱炭素化を進めるには、これを再稼動するのがコスト最小である。エネルギー政策の正常化は、岸田政権の数少ない功績だ。今後は安倍政権の負の遺産を取り戻してほしい。

関連記事
-
国際エネルギー機関(IEA)が「2050年にネットゼロ」シナリオを発表した。英国政府の要請で作成されたものだ。急速な技術進歩によって、世界全体で2050年までにCO2の実質ゼロ、日本の流行りの言葉で言えば「脱炭素」を達成
-
先日、東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)、エネルギー研究機関ネットワーク(ERIN)、フィリピンエネルギー省共催の東アジアエネルギーフォーラムに参加する機会を得た。近年、欧米のエネルギー関連セミナーでは温暖
-
朝日新聞に「基幹送電線、利用率2割 大手電力10社の平均」という記事が出ているが、送電線は8割も余っているのだろうか。 ここで安田陽氏(風力発電の専門家)が計算している「利用率」なる数字は「1年間に送電線に流せる電気の最
-
G7では態度表明せず トランプ政権はイタリアのG7サミットまでにはパリ協定に対する態度を決めると言われていたが、結論はG7後に持ち越されることになった。5月26-27日のG7タオルミーナサミットのコミュニケでは「米国は気
-
米国バイデン政権は24日、ウイグルでの強制労働に関与した制裁として、中国企業5社の製品の輸入を禁止すると発表した(ホワイトハウス発表)。 対象となったのは、 (A)Hoshine Silicon Industry (Sh
-
石炭火力に対する逆風がますます強まっている。環境団体はパリ協定の2℃目標を達成するため、石炭関連資産からの資本引き上げを唱道し、世界の石炭資源の88%は使わずに地中に留めておくべきだと主張している。COP24では議長国ポ
-
(前回:COP29の結果と課題①) 新資金目標に対する途上国の強い不満 ここでは2035年において「少なくとも1.3兆ドル」(パラグラフ7)と「少なくとも3000億ドル」(パラグラフ8)という2つの金額が示されている。
-
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 IPCC報告では地球温暖化はCO2等の温室効果(とエアロ
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間