COP28 「化石燃料からの脱却に合意」とは本当か

2023年12月19日 06:50
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

yudhistirama/iStock

NHKニュースを見るとCOP28では化石燃料からの脱却、と書いてあった。

COP28 化石燃料から「脱却を進める」で合意

だが、これはほぼフェイクニュースだ。こう書いてあると、さもCOP28において、全ての国が化石燃料から脱却する、と合意したように読める。

実際に決定したことは、「この会議(COP28)は、締約国に対し、化石燃料からトランジション・アウェイすることを呼び掛ける」というだけだ。

だからNHKの見出しは正確に書き直すと「COP28が参加国に化石燃料からの移行を呼び掛けた」である。

中国も米国も、どこの国も、「呼び掛けられた」だけで、「脱却に合意」などしていない。

しかも、いろいろ但し書きが付けてある。まずは合意文書の該当箇所をお見せして、ポイントを説明しよう。

【ポイント】

  • calls on Parties ⇒ COPが締約国に呼び掛ける。つまり締約国の義務ではない。
  • contribute to the following global efforts ⇒ 世界規模での行動への寄与。つまり個々の国の義務などではない。
  • in a nationally determined manner ⇒ 国別決定に従って。つまり何をするのかを決めるのはあくまで個々の国であって国連ではない。
  • different national circumstances,.., in a just, orderly and equitable manner ⇒ 国ごとの状況に応じて、..、正義に適う、秩序あり、公平な方法で。つまり、経済開発が優先な国(中国など!)であれば別に何もしなくてよい。
  • accelerating action in this critical decade ⇒この重要な2020年代における行動を加速して。この加速の意味は、どうとでもとれる。意味の無い文言。

このような合意があったからといって、中国は、今後数年で建設する予定の300ギガワットの石炭火力発電所(日本の全ての石炭火力発電所合計の6倍もある!)の建設計画を変える必要を微塵も感じないだろう。インドの石炭利用拡大も、ブラジルの石油生産拡大も、同じことだ。

これが実態であるにも関わらず、NHKだけでなく、欧米のメディアの多くも、このようなフェイクニュースまがいを懸命に流している。なぜか?

それは、バイデン政権や欧州の指導者らは、これをもって、自国民に対し、化石燃料を廃止するのは自分たちだけではない、と信じさせ、コストのかかる対策を押し付けようとしているからだ。だが実際のところは、中国も、インドも、ブラジルも、今回の合意によって何も化石燃料に関する行動を変えることは無いだろう。

米国の新聞ウオールストリートジャーナルの社説はこれを見抜いている。共和党が下院の過半数を占める米国も、今回の合意で何も変わらないだろう。

その一方で、今回の合意で、全く報道されていないことがある。

開発途上国側は、先進国の支援を脱炭素の前提としている。その勘定書きはどんどんエスカレートしている。今回の合意文書にも、2030年までには年間約1兆ドル(正確な文言は米ドルで2030年までの累積で5.8-5.9兆ドル)、2050年までには年間5兆ドルが必要だ、と書きこまれている:

1兆ドルの1割を日本が支払うとしたら、150兆円の1割だから年間15兆円だ。こんな法外な金額は絶対に払えない。だがそうなると、途上国は、2030年の約束を守らなくてよいことになる。

毎年恒例のCOPは、壮大な茶番劇になっている。

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 有馬純東京大学公共政策大学院教授の論考です。有馬さんは、経産官僚出身で、地球環境・気候変動問題の首席交渉官でした。日本の現状と技術力という強みを活かした対策の必要性を訴えています。有馬さんが出演する言論アリーナを10月1日午後8時から放送します。
  • IPCCの第6次報告書(AR6)は「1.5℃上昇の危機」を強調した2018年の特別報告書に比べると、おさえたトーンになっているが、ひとつ気になったのは右の図の「2300年までの海面上昇」の予測である。 これによると何もし
  • EUタクソノミーとは 欧州はグリーンディールの掛け声のもと、脱炭素経済つまりゼロカーボンエコノミーに今や邁進している。とりわけ投資の世界ではファイナンスの対象がグリーンでなければならないという倫理観が幅を効かせている。
  • 岸田首相肝いりの経済対策で、エネルギーについては何を書いてあるかと見てみたら、 物価高から国民生活を守る エネルギーコスト上昇への耐性強化 企業の省エネ設備導入を複数年度支援▽中小企業の省エネ診断を推進▽断熱窓の改修や高
  • 前回の上巻・歴史編の続き。脱炭素ブームの未来を、サブプライムローンの歴史と対比して予測してみよう。 なお、以下文中の青いボックス内記述がサブプライムローンの話、緑のボックス内記述が脱炭素の話になっている。 <下巻・未来編
  • (見解は2016年11月18日時点。筆者は元経産省官房審議官(国際エネルギー・気候変動担当)) (IEEI版) 米大統領選当選でドナルド・トランプ氏が当選したことは世界中を驚かせた。そのマグニチュードは本年6月の英国のE
  • トランプ政権は、バイデン政権時代の脱炭素を最優先する「グリーンニューディール」というエネルギー政策を全否定し、豊富で安価な化石燃料の供給によって経済成長と安全保障を達成するというエネルギードミナンス(優勢)を築く方向に大
  • 関西電力は、6月21日に「関西電力管外の大口のお客さまを対象としたネガワット取引について」というプレスリリースを行った。詳細は、関西電力のホームページで、プレスリリースそのものを読んでいただきたいが、その主旨は、関西電力が、5月28日に発表していた、関西電力管内での「ネガワットプラン」と称する「ネガワット取引」と同様の取引を関西電力管外の60Hz(ヘルツ)地域の一部である、中部電力、北陸電力、中国電力の管内にまで拡大するということである。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑