COP28 「化石燃料からの脱却に合意」とは本当か

yudhistirama/iStock
NHKニュースを見るとCOP28では化石燃料からの脱却、と書いてあった。
だが、これはほぼフェイクニュースだ。こう書いてあると、さもCOP28において、全ての国が化石燃料から脱却する、と合意したように読める。
実際に決定したことは、「この会議(COP28)は、締約国に対し、化石燃料からトランジション・アウェイすることを呼び掛ける」というだけだ。
だからNHKの見出しは正確に書き直すと「COP28が参加国に化石燃料からの移行を呼び掛けた」である。
中国も米国も、どこの国も、「呼び掛けられた」だけで、「脱却に合意」などしていない。
しかも、いろいろ但し書きが付けてある。まずは合意文書の該当箇所をお見せして、ポイントを説明しよう。
【ポイント】
- calls on Parties ⇒ COPが締約国に呼び掛ける。つまり締約国の義務ではない。
- contribute to the following global efforts ⇒ 世界規模での行動への寄与。つまり個々の国の義務などではない。
- in a nationally determined manner ⇒ 国別決定に従って。つまり何をするのかを決めるのはあくまで個々の国であって国連ではない。
- different national circumstances,.., in a just, orderly and equitable manner ⇒ 国ごとの状況に応じて、..、正義に適う、秩序あり、公平な方法で。つまり、経済開発が優先な国(中国など!)であれば別に何もしなくてよい。
- accelerating action in this critical decade ⇒この重要な2020年代における行動を加速して。この加速の意味は、どうとでもとれる。意味の無い文言。
このような合意があったからといって、中国は、今後数年で建設する予定の300ギガワットの石炭火力発電所(日本の全ての石炭火力発電所合計の6倍もある!)の建設計画を変える必要を微塵も感じないだろう。インドの石炭利用拡大も、ブラジルの石油生産拡大も、同じことだ。
これが実態であるにも関わらず、NHKだけでなく、欧米のメディアの多くも、このようなフェイクニュースまがいを懸命に流している。なぜか?
それは、バイデン政権や欧州の指導者らは、これをもって、自国民に対し、化石燃料を廃止するのは自分たちだけではない、と信じさせ、コストのかかる対策を押し付けようとしているからだ。だが実際のところは、中国も、インドも、ブラジルも、今回の合意によって何も化石燃料に関する行動を変えることは無いだろう。
米国の新聞ウオールストリートジャーナルの社説はこれを見抜いている。共和党が下院の過半数を占める米国も、今回の合意で何も変わらないだろう。
その一方で、今回の合意で、全く報道されていないことがある。
開発途上国側は、先進国の支援を脱炭素の前提としている。その勘定書きはどんどんエスカレートしている。今回の合意文書にも、2030年までには年間約1兆ドル(正確な文言は米ドルで2030年までの累積で5.8-5.9兆ドル)、2050年までには年間5兆ドルが必要だ、と書きこまれている:
1兆ドルの1割を日本が支払うとしたら、150兆円の1割だから年間15兆円だ。こんな法外な金額は絶対に払えない。だがそうなると、途上国は、2030年の約束を守らなくてよいことになる。
毎年恒例のCOPは、壮大な茶番劇になっている。
■

関連記事
-
丸川珠代環境相は、除染の基準が「年間1ミリシーベルト以下」となっている点について、「何の科学的根拠もなく時の環境相(=民主党の細野豪志氏)が決めた」と発言したことを批判され、撤回と謝罪をしました。しかし、この発言は大きく間違っていません。除染をめぐるタブーの存在は危険です。
-
トランプ前大統領とハリス副大統領の討論会が9月10日に開催される。大統領選に向けた支持率調査によると、民主党の大統領候補であるハリス副大統領が42%、共和党候補のトランプ前大統領が37%で、ハリス氏がリードを広げていると
-
前回に続いてルパート・ダーウオールらによる国際エネルギー機関(IEA)の脱炭素シナリオ(Net Zero Scenario, NZE)批判の論文からの紹介。 A Critical Assessment of the IE
-
国際環境経済研究所(IEEI)版 新型コロナウイルスの緊急事態宣言が7都府県に発令されてから、およそ3週間が経ちました。様々な自粛要請がなされる中、宣言の解除予定である5月を心待ちにされている方もいらっしゃると思います。
-
米国トランプ政権は4月8日、「美しいクリーンな石炭産業の再活性化」というタイトルの大統領令を発し、石炭を国家安全保障と経済成長の柱に据え、その推進を阻害する連邦規制を見直すこと、国有地での鉱区の拡大、輸出の促進などを包括
-
需給改善指示実績に見る再生可能エネルギーの価値 ヨーロッパなどでは、再生可能エネルギーの発電が過剰になった時間帯で電力の市場価格がゼロやマイナスになる時間帯が発生しています。 これは市場原理が正常に機能した結果で、電力の
-
福島原発事故を受けて、放射能をめぐる不安は、根強く残ります。それは当然としても、過度な不安が社会残ることで、冷静な議論が行えないなどの弊害が残ります。
-
国際環境経済研究所(IEEI)版 衝撃的な離脱派の勝利 6月24日、英国のEU残留の是非を問う国民投票において、事前の予想を覆す「離脱」との結果が出た。これが英国自身のみならず、EU、世界に大きな衝撃を与え
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間