米国も途上国も猛反対のEUの国境炭素関税CBAMは骨抜きの運命にある

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EUは2026年1月1日から、輸入品の炭素含有量に事実上の関税を課する「炭素国境調整(CBAM)」を本格導入するとしている。目的は、域内の排出量取引制度(EU ETS)に属するEU企業と、域外の輸出企業との競争条件をそろえ、いわゆる「カーボンリーケージ」を防ぐこととされている。
しかし現実には、EUの理念は地政学・経済学の壁に突き当たり、制度は弱体化と空洞化の道を辿る他ないだろう。理由は以下の通りだ。
CBAMは「気候クラブ」の発想に立つ。気候政策に熱心なクラブが、クラブ外にはペナルティを課することで、クラブの輪を広げよう、というものだ。ところが、クラブが成立するためには、同じ理念を共有し費用を負担する参加国が必要だ。ところがこれには新興国が参加していない。
新興国は、安価な化石燃料は成長に必須だと当然知っている。インドの財務相は欧州のCBAMを「道義に反するもので、植民地支配の再来だ」と批判している。2025年7月のBRICS首脳会議でも、CBAMは「一方的・差別的な保護主義」であるとして、それがWTOに違反している疑いがあると指摘した。欧州は「公正な競争条件」だと言うが、途上国にとっては、体の良い市場参入制限にしか見えていない。
それから、大西洋を挟む米国との対立がある。2025年1月20日、米国はパリ協定からの離脱を通告した。そして米国のクリス・ライトエネルギー長官は「EUの2050年ネットゼロは政策の大惨事であり、関税・貿易交渉のすべても台無しにしかねない」と公然と批判している。この後合意された8月の米EUの新たな通商枠組みでは、EUはCBAMにおいて米側への「柔軟性」を検討すると言う文言が挿入された。
関税・貿易交渉で日本同様に米国の猛攻に合っているEUが、米国に本気でCBAMをかけるとは考えにくい。するとCBAMは強い相手には及び腰、弱い相手にだけ厳しいというものになるのだろうか。そうなると、不公正だ、という途上国からの批判はますます強くなるだろう。
言うまでも無く、ウクライナ戦争後のエネルギー価格高騰で、欧州経済は疲弊している。安価なロシア産ガスの供給を失ったため、高値で米国等からLNGを買っており、家計も産業も重荷にあえいでいる。
各国で気候政策への反発が強まる中、CBAMが世界の気候を救済する切り札になるとは考えられない。むしろ、欧州企業には更なる負担となり(CBAMは関税同様に欧州経済を最も傷つける)、新興国との関係を損なう可能性が高い。
EUの政策エリートの思惑とは裏腹に、CBAMは地球規模の排出削減を左右する決定打にはなりそうにない。米国との対立(というより米国への屈服)、新興国の反発、疲弊しきった欧州内の政治的・経済的現実を前にすると、運用が骨抜きになったり先延ばしになったりする、というのがありそうな将来であろう。
日本はこの「CBAM対策として」排出量取引制度を導入するとして、排出権の割り当て方法の審議などをいま進めている。まるで幽霊に怯えて外にも出られず引きこもっている子供のようだ。
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