ゼロエミッション住宅(ZEH)は本当に家計に優しいのか

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政府は、2030年度以降の新築住宅について、ZEH水準の省エネ性能を達成するとしている。
ZEHとは、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスのことである。断熱性能を高め、高効率設備を導入し、エネルギー消費を減らす。さらに太陽光発電などを組み合わせれば、年間のエネルギー収支をおおむねゼロに近づけることができる、という考え方である。
以下、本稿では、太陽光発電設備を設置しない「ZEH水準の省エネ住宅」の費用対効果について検討する。
政府の説明では、よい話に聞こえる。「省エネ住宅にすれば光熱費が下がる。長く住めば元が取れる」。そのように説明されている。
だが、本当にそうだろうか。
結論から言えば、ZEH水準化が経済的に得かどうかは、地域と住まい方によって大きく異なる。冷暖房や給湯を多く使う世帯では、一定の便益があるだろう。しかし、冷暖房をあまり使わない世帯、単身世帯、日中不在の世帯、温暖地域の世帯では、光熱費削減によって追加費用を回収することは極めて難しい。
つまり、ZEHは誰にとっても「お得」なのではない。
むしろ、多くの国民にとって、住宅価格の上昇による負担にしかならない、と思われる。
政府による説明では「経済的にもお得」
まず、政府自身の説明を確認しよう。
国土交通省の資料では、現在の省エネ住宅からZEH水準の省エネ住宅へ性能を上げるための追加の費用(政府の用語ではかかり増し費用)は、40万~70万円とされている。これは、現在の省エネ住宅からZEH水準の省エネ住宅への省エネ性能の向上に係るかかり増し費用についての、複数の事業者へのヒアリング調査に基づく数字である。
また同じ資料では、ZEH水準化による年間光熱費の削減額について、東京都23区等の例で4.6万円、札幌市等の例で9.6万円と示している。
この数字だけを見ると、たしかに悪くないように見える。追加費用が40万~70万円で、東京都23区等で年4.6万円削減できるなら、単純回収はおよそ9年から15年である。札幌市等で年9.6万円削減できるなら、およそ4年から7年で回収できる。
政府は、このようなモデル計算を示して、ZEH水準住宅は「経済的にもお得」と説明している。
だが、ここに落とし穴がある。
これはあくまでモデル住宅・モデル使用条件による試算である。現実の世帯では、冷暖房や給湯の使い方は大きく違う。もともとエネルギー使用量が少ない世帯では、削減できる金額も小さい。
省エネ投資は、たくさんエネルギーを使う人ほど回収しやすい。だが逆に、もともと節約している人ほど回収しにくい。
実測統計で計算すると、全国平均でも回収は20年から34年
そこで、環境省の「家庭部門のCO2排出実態統計調査」を使って、家庭のエネルギー消費量を用いて検討しよう。
令和5年度の全国平均では、家庭の年間エネルギー消費量は27.8GJ、年間エネルギー支払額は17.4万円である。ここから、電気・都市ガス・LPガス・灯油を合わせた平均単価は6.27円/MJとされている。
環境省統計には、用途別のエネルギー消費量も掲載されている。住宅の省エネ性能と直接関係が深い暖房・冷房・給湯について見ると、全国平均では、暖房は6.1GJ、冷房は1.3GJ、給湯は8.9GJである。合計すると16.3GJである。
ZEH水準は、制度上、省エネ基準に比べて一次エネルギー消費量を20%以上削減する水準である。国交省資料でも、住宅性能表示制度の一次エネルギー消費量等級6がZEH水準相当、すなわちBEI≦0.8とされている。
ただし、この20%削減は、標準的な使用条件に基づく設計上の一次エネルギー消費量の削減であって、すべての家庭で実際の光熱費が20%下がることを意味しない。現実には、冷暖房をあまり使わない世帯では、削減できる絶対量が小さい。
そこで本稿では、ZEH水準の制度基準に合わせて、暖房・冷房・給湯のエネルギー消費量が20%削減される場合を試算する。環境省の実測統計を用い、世帯類型別・地域別に、20%削減しても年間何円程度の効果にしかならないのかを見る。
ここでは、ZEH水準の制度基準に対応させるため、暖房・冷房・給湯の実使用ベースのエネルギー消費量が20%削減されるケースとして計算する。全国平均では、削減量は3.26GJである。これを平均単価6.27円/MJで金額換算すると、年間削減額は約2.0万円にすぎないことが分かる。
そうすると、ZEH水準化の追加費用40万~70万円の回収年数は、次のようになる。
| 対象 | 暖房・冷房・給湯の消費量 | 20%削減時の年間節約額 | 40万円の回収年数 | 70万円の回収年数 |
|---|---|---|---|---|
| 全国平均 | 16.3GJ/年 | 約2.0万円/年 | 約20年 | 約34年 |
政府資料の東京都23区等のモデルでは年4.6万円削減とされているが、実測統計から暖房・冷房・給湯に絞って見ると、全国平均では年2万円程度である。
もちろん、これは簡易計算である。以下に見るように、実際の削減額は、住宅の仕様、家族構成、在宅時間、暖房方式、給湯方式、電気・ガス・灯油の単価によって変わる。
集合住宅では回収に50年かかることもある
建て方別に見ると、差はさらに大きい。
環境省統計では、戸建住宅の暖房・冷房・給湯の合計は20.7GJである。一方、集合住宅では11.1GJである。集合住宅は戸建住宅に比べて、そもそものエネルギー消費量が小さい。
同じように、暖房・冷房・給湯が20%削減されるとして計算すると、次のようになる。
| 建て方 | 暖房 | 冷房 | 給湯 | 合計 | 20%削減時の年間節約額 | 40万円の回収年数 | 70万円の回収年数 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 戸建 | 8.9GJ | 1.4GJ | 10.4GJ | 20.7GJ | 約2.6万円/年 | 約15年 | 約27年 |
| 集合 | 2.9GJ | 1.0GJ | 7.2GJ | 11.1GJ | 約1.4万円/年 | 約29年 | 約50年 |
| 全体 | 6.1GJ | 1.3GJ | 8.9GJ | 16.3GJ | 約2.0万円/年 | 約20年 | 約34年 |
戸建住宅では、まだ比較的回収しやすい。とはいえ、70万円の追加費用なら回収には約27年かかる。
集合住宅では、40万円でも約29年、70万円なら約50年である。これはもはや、普通の住宅購入者にとって「お得」とは言いがたい。
単身世帯では回収に70年以上かかる
世帯類型別に見ると、さらに問題がある。
環境省統計では、単身・若中年世帯の暖房・冷房・給湯の合計は7.6GJである。20%削減しても、年間節約額は約1.0万円にとどまる。
この場合、40万円の追加費用を回収するには約42年、70万円なら約73年かかる。
| 世帯類型 | 暖房・冷房・給湯の消費量 | 20%削減時の年間節約額 | 40万円の回収年数 | 70万円の回収年数 |
|---|---|---|---|---|
| 単身・若中年 | 7.6GJ/年 | 約1.0万円/年 | 約42年 | 約73年 |
| 単身・高齢 | 9.8GJ/年 | 約1.2万円/年 | 約33年 | 約57年 |
| 夫婦・若中年 | 16.7GJ/年 | 約2.1万円/年 | 約19年 | 約33年 |
| 夫婦・高齢 | 18.9GJ/年 | 約2.4万円/年 | 約17年 | 約30年 |
| 夫婦と子・若中年 | 22.2GJ/年 | 約2.8万円/年 | 約14年 | 約25年 |
| 三世代 | 32.0GJ/年 | 約4.0万円/年 | 約10年 | 約17年 |
| 全国平均 | 16.3GJ/年 | 約2.0万円/年 | 約20年 | 約34年 |
三世代世帯のように、人数が多く、エネルギー使用量が大きい世帯では、回収年数は比較的短くなる。それでも70万円の追加費用なら約17年である。
一方、単身世帯では回収は極めて困難である。単身・若中年世帯では、40万円でも約42年、70万円なら約73年である。
これは、住宅の通常の居住期間や設備更新のサイクルを考えれば、回収不能な投資である。
温暖地ではさらに厳しい
地域差も大きい。
北海道のように暖房需要が大きい地域では、省エネ投資の便益は比較的大きい。環境省統計では、北海道の暖房・冷房・給湯の合計は33.8GJである。20%削減できれば、年間節約額は約4.2万円となる。
一方、九州では11.8GJ、沖縄では7.3GJにとどまる。
| 地域 | 暖房・冷房・給湯の消費量 | 20%削減時の年間節約額 | 40万円の回収年数 | 70万円の回収年数 |
|---|---|---|---|---|
| 北海道 | 33.8GJ/年 | 約4.2万円/年 | 約9年 | 約17年 |
| 東北 | 25.4GJ/年 | 約3.2万円/年 | 約13年 | 約22年 |
| 関東甲信 | 14.9GJ/年 | 約1.9万円/年 | 約21年 | 約37年 |
| 近畿 | 14.8GJ/年 | 約1.9万円/年 | 約22年 | 約38年 |
| 九州 | 11.8GJ/年 | 約1.5万円/年 | 約27年 | 約47年 |
| 沖縄 | 7.3GJ/年 | 約0.9万円/年 | 約44年 | 約76年 |
| 全国平均 | 16.3GJ/年 | 約2.0万円/年 | 約20年 | 約34年 |
北海道では、40万円なら約9年、70万円なら約17年で回収できる。これはまだ現実的である。だが、九州では40万円でも約27年、70万円なら約47年である。沖縄では、40万円でも約44年、70万円なら約76年である。
これを見れば、一律にZEH水準化を進めることが、すべての国民にとって合理的とは到底言えない。
太陽光パネルも国民負担となる
さらに注意すべき点がある。
国交省資料で示されている40万~70万円という追加費用は、現在の省エネ住宅からZEH水準の省エネ住宅へ性能を上げる費用である。太陽光パネルの費用ではない。
同じ国交省資料では、太陽光発電設備の導入コストについて、5kWで140万円程度とされている。
つまり、太陽光パネルまで載せるなら、費用は別に大きく膨らむ。
もちろん、太陽光パネルを導入すれば、自家消費分の電気代は減る。売電収入が得られる場合もある。だが、パネル本体、施工費、パワーコンディショナー交換、保守点検、屋根補修、撤去、廃棄・リサイクル費用まで考える必要がある。
加えて、太陽光発電が増えれば、電力系統全体では、配電網増強、出力制御、蓄電池、調整力、バックアップ電源などの「電力系統統合コスト」も発生する。これらは最終的に電気料金や税金に転嫁され、導入規模が大きくなれば国民負担も膨らむ。
「太陽光パネルを載せればZEHはお得」という単純な話ではない。
補助金で安く見せても、国民負担は消えない
政府資料では、補助金や住宅ローン減税などによって、ZEH水準住宅はさらに「お得」になると説明されている。
しかし、補助金は天から降ってくるものではない。原資は税金や国債である。住宅ローン減税も、財政上の負担を伴う。フラット35の金利優遇も、制度上のコストを伴う。
つまり、補助金で個々の住宅購入者の負担を軽く見せても、社会全体の費用が消えるわけではない。負担が住宅購入者から納税者へ移るだけである。
政策評価で見るべきなのは、補助金込みで個人が得をするかどうかではない。住宅価格、税負担、電気料金、行政コストを含めた国民全体の負担である。
省エネ投資は「人による」
寒冷地で暖房需要が大きい住宅、高齢者が長時間在宅する住宅、冷暖房をよく使う住宅では、断熱性能の向上には意味がある。健康面や快適性の便益もあるだろう。
しかし、それは本来、住宅購入者が、自分の地域、住まい方、予算、健康状態、期待する便益を考えて選択すべきことである。
問題は、政府が一律に基準を引き上げ、すべての新築住宅に高い省エネ性能を求める場合である。
その場合、冷暖房をあまり使わない人、もともと節約して暮らしている人、単身世帯、温暖地域の人にも、住宅価格上昇という負担がかかる。
省エネ投資の便益は、エネルギーを多く使う世帯ほど大きいが、逆に、もともとエネルギーをあまり使わない世帯ほど小さい。にもかかわらず、追加建築費は全員にかかる。
省エネ義務化は、もともと節約している人ほど、不利な制度になり得る。
平均モデルだけで政策判断すべきではない
政府は「長期的には光熱費削減で得になる」と説明するかもしれない。だが、平均モデルだけでは不十分である。現実の家庭では、世帯人数、在宅時間、地域、所得、住宅規模、冷暖房の使い方がまったく違う。単身世帯と三世代世帯では、エネルギー使用量が違う。北海道と沖縄では、暖房需要が違う。在宅時間の長い世帯と日中不在の世帯では、冷暖房の使い方が違う。
それを無視して「ZEHはお得」と言うのは、国民に誤解を与えることになる。
政府がいまの方針どおり2030年に向けて新築住宅のZEH水準化を進めるなら、少なくとも以下を明らかにすべきである。
第一に、ZEH水準化によって住宅価格は一戸当たりいくら上がるのか。
第二に、その追加費用は、光熱費削減によって何年で回収できるのか。
第三に、その試算は、平均世帯だけでなく、単身世帯、高齢世帯、子育て世帯、寒冷地、温暖地、日中不在世帯などに分けて行われているのか。
第四に、便益が小さい世帯にも一律負担を求めることについて、政府はどう考えているのか。
ZEHは「お得」とは限らない
今回の試算では、国交省が示すZEH水準化の追加費用40万~70万円を使った。
そして、環境省の実測統計に基づき、暖房・冷房・給湯のエネルギー消費量を20%削減できると仮定して、投資回収年数を試算した。
結果は、全国平均で約20~34年、集合住宅で約29~50年、単身・若中年世帯で約42~73年、沖縄では約44~76年であった。
寒冷地や多人数世帯では一定の便益がある。だが、温暖地、単身世帯、集合住宅、日中不在世帯、冷暖房を控える世帯では、光熱費削減で追加費用を回収することは極めて難しい。
住宅の寿命や家族構成の変化などを考えれば、20年以上も投資回収に時間がかかる省エネをしたい家庭は稀なのではないか。
しかも、太陽光パネルを導入するなら、その費用は別途発生し、導入規模が大きくなれば国民負担も膨らむ。
省エネ住宅を選びたい人が選ぶことはよい。だが、それを一律の規制で国民全体に押し付ければ、住宅価格を押し上げ、住宅取得を難しくし、特にエネルギー消費の少ない世帯に重い負担を課すことになる。
※ 本稿の試算では、生活者の光熱費削減効果の推計において、環境省統計の用途別エネルギー消費量のうち、暖房・冷房・給湯に絞った。ZEH水準の制度上の一次エネルギー計算では換気・照明等も関係するが、環境省統計では照明が「照明・家電製品等」と一括されているため、換気・照明を切り分けることはしなかった。また、金額換算は、令和5年度の電気・都市ガス・LPガス・灯油の4種総合平均単価6.27円/MJを用いた概算である。
【参考文献】
- 国土交通省「待って!家選びの基準変わります」(ZEH水準の省エネ住宅に関する消費者向け資料、PDF)。本文で用いた40万~70万円、東京都23区等4.6万円、札幌市等9.6万円、太陽光発電設備5kWで140万円程度の出典。
- 国土交通省「住宅性能表示制度の見直しについて」資料6(社会資本整備審議会建築分科会建築環境部会、PDF)。一次エネルギー消費量等級6がZEH水準相当、BEI≦0.8であることの出典。
- 内閣府 政策課題分析シリーズ23「省エネ住宅(ZEH)の選択に係る要因とその普及促進による経済効果分析」(PDF)。ZEH水準化の掛かり増し費用40~70万円、太陽光・蓄電池費用等について国交省資料等を引用して整理。
- 環境省「令和5年度 家庭部門のCO2排出実態統計調査結果について(確報値)」(PDF)。全国平均の年間エネルギー消費量27.80GJ、年間支払金額17.42万円、4種総合平均単価6.27円/MJの出典。
- 環境省「令和5年度 家庭部門のCO2排出実態統計調査 資料編(確報値)」(PDF)。建て方別、世帯類型別、地方別の年間用途別エネルギー消費量の出典。
- 環境省「家庭部門のCO2排出実態統計調査(家庭CO2統計)」。家庭CO2統計の公表ページ。
- e-Stat「家庭部門のCO2排出実態統計調査 令和5年度」。表7-1-1など、用途別エネルギー消費量の統計表の公表ページ。
- 資源エネルギー庁 発電コスト検証ワーキンググループ「発電コスト検証に関するとりまとめ」(令和7年2月6日、PDF)。太陽光・風力等の変動電源の比率が増えると電力システム全体で生じるコストも増加する、という電力系統統合コストの出典。
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