政府がCO2ゼロで経済成長という試算の捏造を注文

NicoElNino/iStock
前回書いたように、11月25日に、政府は第7次エネルギー基本計画におけるCO2削減目標を2035年に60%減、2040年に73%減、という案を提示した(2013年比)。
この数字は、いずれも、2050年にCO2をゼロにするよう、2013年から直線を引っ張って決めただけだ。こんな出鱈目なことで、日本のエネルギー政策を決めようとしている。
12月3日には、政府は「総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会(第66回会合)」を開催し、そこで複数のシンクタンクが、「シナリオ分析」として試算を発表しているが、これがまた酷い。
みな、「2050年CO2ゼロを達成するエネルギー需給の姿」をお絵描きしているだけだ。
太陽・風力、CO2回収貯留(CCS)とか、アンモニア発電とか、こういったものを大量導入してCO2をゼロにするという。どれもこれも、そのような大量導入が技術的に出来るとも思えないが、仮に出来たとしても、経済的に猛烈にコストのかかる話ばかりである。
それなのに、どのシンクタンクも、産業空洞化も起きなければ、経済破綻もしない、「経済成長しながらCO2ゼロが達成できる」、などと主張している。
実はこの試算、みな「結論ありき」なのだ。政府によるシナリオ分析の依頼内容を見ると、こう書いてある。
「専門機関への依頼内容・・・(中略)・・・以下の点について合致するよう分析を要請した。・・・(中略)・・・ 安定供給、経済成⻑、脱炭素を同時に実現するという我が国のGXの基本的理念に基づき、経済活動量を過度に損なわないこと」
つまりは、「CO2をゼロにしても経済は崩壊しない」ことを「前提」にしてシナリオ分析をしろ、と。
それで、ホイホイとその通りのシナリオをシンクタンクは書いたわけだ。注文する方も腐っているが、それに応じるほうも腐っている。
これではまるで、「戦争には負けないことを前提にして戦争計画を建てろ」と言っているようなものだ。
政府は年内に第7次エネルギー基本計画をまとめるとしているが、こんな無謀なCO2数値目標を書きいれることは止めるべきだ。パリ協定への数値目標の提出も見送るべきだ。
■

関連記事
-
経済産業省で11月18日に再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会(以下単に「委員会」)が開催された。 同委員会では例によってポストFITの制度のあり方について幅広い論点が議論されたわけだが、今回は実務に大きな影響を
-
今年も3・11がやってきた。アゴラでは8年前から原発をめぐる動きを追跡してきたが、予想できたことと意外だったことがある。予想できたのは、福島第一原発事故の被害が実際よりはるかに大きく報道され、人々がパニックに陥ることだ。
-
9月5日、韓国の科学技術情報通信省は、東電福島第一原発サイトで増え続けている「トリチウム水」(放射性のトリチウムを含んだ処理水)の問題に関し、「隣国として、海洋放出の可能性とこれに伴う潜在的な環境への影響に深刻な憂慮があ
-
2月25日にFIT法を改正する内容を含む「強靭かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」が閣議決定された。 条文を読み込んだところ、前々からアナウンスされていたように今回の法改正案の
-
田中 雄三 国際エネルギー機関(IEA)が公表した、世界のCO2排出量を実質ゼロとするIEAロードマップ(以下IEA-NZEと略)は高い関心を集めています。しかし、必要なのは世界のロードマップではなく、日本のロードマップ
-
今回も嘆かわしい報道をいくつか取り上げる。 いずれも、筆者から見ると、科学・技術の基本法則を無視した「おとぎ話」としか受け取れない。 1. 排ガスは資源 CO2から化学原料を直接合成、実証めざす 排ガスは資源 CO2か
-
筆者は、三陸大津波は、いつかは分からないが必ず来ると思い、ときどき現地に赴いて調べていた。また原子力発電は安全だというが、皆の注意が集まらないところが根本原因となって大事故が起こる可能性が強いと考え、いろいろな原発を見学し議論してきた。正にその通りのことが起こってしまったのが今回の東日本大震災である。続きを読む
-
福島における原発事故の発生以来、世界中で原発の是非についての議論が盛んになっている。その中で、実は「原発と金融セクターとの関係性」についても活発に議論がなされているのだが、我が国では紹介される機会は少ない。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間