気候カルテルの構図はまるで下請け孫請けいじめ

2025年02月06日 07:00

Thx4Stock/iStock

昨年10月のアゴラ記事で、2024年6月11日に米下院司法委員会が公表した気候カルテルに関する調査報告書のサマリーを紹介しました。

米下院司法委が大手金融機関と左翼活動家の気候カルテルを暴く

サマリーでは具体性がなくESGの実態や悪質性が伝わらないため、報告書本編の内容も紹介します。日本国内ではまったく報じられないことがたくさん記述されていました。ぜひ日本企業の皆さまにも知っていただきたい内容です。盛りだくさんなので複数回に分けてお届けします。今回は気候カルテルの構図について。

New Report Reveals Evidence of ESG Collusion Among Left-Wing Activists and Major Financial Institutions

4つの最も過激な犯罪者は、投資先の企業が脱炭素に取り組むよう要求する集団であるClimate Action 100+、その共同設立者である環境非営利団体Ceres、カリフォルニア州公務員退職年金制度(CalPERS)、アクティビスト投資家Arjuna Capital, LLC(Arjuna)である。

Climate Action 100+やCalPERSなどは日本企業向けのESGセミナー等でもよく目にしますが、米国司法省の報告書で「最も過激な犯罪者(most radical offenders)」と指摘されています。特に以下の章ではClimate Action 100+やCeresの行動が詳述されており、気候カルテルの構図が暴かれています。

Climate Action 100+は、企業経営陣との交渉から、株主決議を提出し、反対票を投じ、取締役を交代させることまで、(ネット・ゼロなどの)急進的な要求に対して遅れているとみなした重要企業への関与をエスカレートさせる。

(中略)

Climate Action 100+は、どの企業が気候問題の歴史において正しい側、どの企業が間違った側にいるかを特定するという使命を自負しているのだ。

Climate Action 100+は資産運用会社を脅迫し、顧客を武器化して気候カルテルに参加させ従わせる。

(中略)

2019年に資産運用会社であるブラックロック、バンガードがClimate Action 100+の支持する米国の株主提案すべてに反対票を投じた後、Ceresはブラックロック、ステート・ストリート、フィデリティを含む世界最大の資産運用会社数社に圧力をかけるキャンペーンを開始した。Ceresは資産運用会社の顧客を集め、顧客を通して資産運用会社に対して「気候変動への野心とリーダーシップを強化」することを強制した。

実際、ブラックロックが Climate Action 100+に参加したのは、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がブラックロックから500億ドルをシフトしたためであり、ロイズ・バンキング・グループの子会社であるスコティッシュ・ウィドウズがブラックロックとの資産運用契約に(Climate Action 100+を)盛り込むよう主張したためである。

他のカルテルと同様に、Climate Action 100+は「署名者の説明義務」を高めることでこの共謀からの離脱を見破り阻止する。

委員会による反競争的談合調査の開始を受けて、ブラックロック、ステート・ストリート、J.P.モルガン・アセット・マネジメントの世界最大級の資産運用会社3社が約14兆ドルの総資産を引き揚げClimate Action 100+メンバーから外れた。

これを読んで筆者は自身の不明を恥じました。ここ数年、ブラックロックなどの資産運用会社こそが世界中にESGを普及させてきた頭目であり、傘下の金融機関のESG部門と結託して企業に中身のないESG対応を強要し、通常の投資商品と構成銘柄はほとんど変わらないのにESGファンドと称することで割高な手数料ビジネスを展開してきたのだと思い込んでいましたが、実態は違ったようです。

彼らの背景にはClimate Action 100+などの気候カルテルが存在しブラックロックらも半ば脅迫されていたのでした。

そして気候カルテルから脅迫されたビッグスリーなどの資産運用大手がさらに立場の弱い金融機関やアセットマネジャーに圧力をかけ、その結果金融機関から企業に対して過激なESG要求が行われてきた、ということのようです。

これではまるで下請けいじめ孫請けいじめ。どうりでいくらESG評価基準について質しても明確な回答が得られないわけです。ESGには理論的な裏付けも、理念も信念もないのですから。

よく爽やかなプロフィール写真付きでレターやESGセミナーの案内メールを受け取りますが、実は皆さんご苦労されているようです。

なお、このClimate Action 100+には残念ながら多くの日本企業も名を連ねています。皆さん米国連邦議会の下院から過激な犯罪者と指摘された組織だというご認識をお持ちなのでしょうか。筆者が担当者だったら即刻脱退します。

This page as PDF

関連記事

  • 今年も例年同様、豪雨で災害が起きる度に、「地球温暖化の影響だ」とする報道が多発する。だがこの根拠は殆ど無い。フェイクニュースと言ってよい。 よくある報道のパターンは、水害の状況を映像で見せて、温暖化のせいで「前例のない豪
  • 6月1日、ドイツでは、たったの9ユーロ(1ユーロ130円換算で1200円弱)で、1ヶ月間、全国どこでも鉄道乗り放題という前代未聞のキャンペーンが始まった! 特急や急行以外の鉄道と、バス、市電、何でもOK。キャンペーンの期
  • 2011年3月11日に東日本大震災が起こり、福島第一原子力発電所の事故が発生した。この事故により、原子炉内の核分裂生成物である放射性物質が大気中に飛散し、広域汚染がおこった。
  • IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 北極振動によって日本に異常気象が発生することはよく知られ
  • 福島の「処理水」の問題は「決められない日本」を象徴する病理現象である。福島第一原発にある100万トンの水のほとんどは飲料水の水質基準を満たすので、そのまま流してもかまわない。トリチウムは技術的に除去できないので、薄めて流
  • 政府「クリーンエネルギー戦略」中間整理が公表された。岸田首相の肝いりで検討されてきたものだ。 紆余曲折の末、木に竹をつなぐ もともと、この「クリーンエネルギー戦略」は、脱炭素の投資を進めるべく構想されたものだった。これは
  • 9月25日、NHK日曜討論に出演する機会を得た。テーマは「1.5℃の約束―脱炭素社会をどう実現?」である。 その10日ほど前、NHKの担当ディレクターから電話でバックグラウンド取材を受け、出演依頼が来たのは木曜日である。
  • 英国はCOP26においてパリ協定の温度目標(産業革命以降の温度上昇を2℃を十分下回るレベル、できれば1.5℃を目指す)を実質的に1.5℃安定化目標に強化し、2050年全球カーボンニュートラルをデファクト・スタンダード化し

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑