無限に説明を求めるマスコミが政治を劣化させる

2019年09月16日 13:00
アバター画像
アゴラ研究所所長

福島の「処理水」の問題は「決められない日本」を象徴する病理現象である。福島第一原発にある100万トンの水のほとんどは飲料水の水質基準を満たすので、そのまま流してもかまわない。トリチウムは技術的に除去できないので、薄めて流すしかない。一部に環境基準を上回る水があるが、それは二次処理して流せばよい。

科学的には、これで終わりである。ところが「リスクをゼロにしろ」と騒ぐマスコミが、問題の処理を遅らせてきた。きのうのアベマプライムでは、テレビ朝日の足立政治部長がこんなことをいっている。

原田さんは大臣を1年やって、事情を分かった上で”これが最善の選択肢だ”と、捨て石になってもいいという覚悟でおっしゃったのは理解できる。しかし、やはりちょっと唐突ではあった。海洋に放出した方がましだ、ということも含めて説明がないので、漁業関係者はびっくりしてしまったと思う。経産省も含め、こういう状況だということを国民に説明した上で”こうするのがベストな選択肢だが、どうか”と言わないといけなかったと思う。

アベマTVサイトより

アベマTVサイトより

「唐突」とか「びっくり」という言葉が、マスコミから出てきたのには驚いた。この問題については、かねてから原子力規制委員会が「海洋放出しかない」と勧告している。たとえば2016年3月の記者会見で、田中委員長はこう答えている。

再処理工場なんかで、フランスとかイギリス、もうイギリスは今動いてはいませんけれども、福島のトリチウムから見るとはるかに桁違いに多いトリチウムが毎年、海に排出されているというような状況がありますので、やはりこれはトリチウムは、残念ながら希釈廃棄する以外は方法がないのだということを申しています。

田中委員長は2014年から同じ趣旨の発言をしており、更田委員長も「希釈廃棄しかない」と明言している。それに対して福島県漁連はずっと「風評被害」を理由にして反対しているのだから、「漁業関係者がびっくり」するはずがない。

足立政治部長は「経産省も含め、こういう状況だということを国民に説明」しろというが、経産省のトリチウム水タスクフォースは、2016年11月に「海洋放出しかない」という報告書を出した。その処理を妨害してきたのは、テレビ朝日を初めとするマスコミである。

こうして問題をこじらせて、海洋放出以外の方法がないとわかると、今度は「唐突だ」とか「国民に説明が必要だ」とかいう決まり文句で引き延ばしをはかる。安保法制のときも、最後はこれだった。

3年前に発表したことが唐突なら、何年説明すればいいのか。このように果てしなく「国民への説明」を求めるマスコミが、決められない政治の元凶である。小泉純一郎氏はそういう政治をぶっ壊したが、進次郎氏は古いコンセンサスに戻ってしまった。

This page as PDF

関連記事

  • 元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 先日、NHKのBS世界のドキュメンタリーで「地球温暖化はウソ?世論動かす“プロ”の暗躍」と言う番組が放送された。番組の概要にはこうある。 世界的な潮流に反してアメリカの保守派に
  • IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 IPCC報告では地球温暖化はCO2等の温室効果(とエアロ
  • 四国電力の伊方原発2号機の廃炉が決まった。これは民主党政権の決めた「運転開始40年で廃炉にする」という(科学的根拠のない)ルールによるもので、新規制基準の施行後すでに6基の廃炉が決まった。残る原発は42基だが、今後10年
  • エネルギー関係者の間で、原子力規制委員会の活動への疑問が高まっています。原子力の事業者や学会と対話せず、機材の購入などを命じ、原発の稼動が止まっています。そして「安全性」の名の下に、活断層を認定して、原発プラントの破棄を求めるような状況です。
  • 最新鋭の「第3世代原子炉」が、中国で相次いで世界初の送電に成功した。中国核工業集団(CNNC)は、浙江省三門原発で稼働した米ウェスチングハウス(WH)社のAP1000(125万kW)が送電網に接続したと発表した。他方、広
  • 今年7月からはじまる再生可能エネルギーの振興策である買取制度(FIT)が批判を集めています。太陽光などで発電された電気を電力会社に強制的に買い取らせ、それを国民が負担するものです。政府案では、太陽光発電の買取額が1kWh当たり42円と高額で、国民の負担が増加することが懸念されています。
  • 「再エネ100%で製造しています」という(非化石証書などの)表示について考察する3本目です。本来は企業が順守しなければならないのに、抵触または違反していることとして景表法の精神、環境表示ガイドラインの2点を指摘しました。
  • 米国はメディアも民主党と共和党で真っ二つだ。民主党はCNNを信頼してFOXニュースなどを否定するが、共和党は真逆で、CNNは最も信用できないメディアだとする。日本の報道はだいたいCNNなど民主党系メディアの垂れ流しが多い

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑