無限に説明を求めるマスコミが政治を劣化させる
福島の「処理水」の問題は「決められない日本」を象徴する病理現象である。福島第一原発にある100万トンの水のほとんどは飲料水の水質基準を満たすので、そのまま流してもかまわない。トリチウムは技術的に除去できないので、薄めて流すしかない。一部に環境基準を上回る水があるが、それは二次処理して流せばよい。
科学的には、これで終わりである。ところが「リスクをゼロにしろ」と騒ぐマスコミが、問題の処理を遅らせてきた。きのうのアベマプライムでは、テレビ朝日の足立政治部長がこんなことをいっている。
原田さんは大臣を1年やって、事情を分かった上で”これが最善の選択肢だ”と、捨て石になってもいいという覚悟でおっしゃったのは理解できる。しかし、やはりちょっと唐突ではあった。海洋に放出した方がましだ、ということも含めて説明がないので、漁業関係者はびっくりしてしまったと思う。経産省も含め、こういう状況だということを国民に説明した上で”こうするのがベストな選択肢だが、どうか”と言わないといけなかったと思う。

アベマTVサイトより
「唐突」とか「びっくり」という言葉が、マスコミから出てきたのには驚いた。この問題については、かねてから原子力規制委員会が「海洋放出しかない」と勧告している。たとえば2016年3月の記者会見で、田中委員長はこう答えている。
再処理工場なんかで、フランスとかイギリス、もうイギリスは今動いてはいませんけれども、福島のトリチウムから見るとはるかに桁違いに多いトリチウムが毎年、海に排出されているというような状況がありますので、やはりこれはトリチウムは、残念ながら希釈廃棄する以外は方法がないのだということを申しています。
田中委員長は2014年から同じ趣旨の発言をしており、更田委員長も「希釈廃棄しかない」と明言している。それに対して福島県漁連はずっと「風評被害」を理由にして反対しているのだから、「漁業関係者がびっくり」するはずがない。
足立政治部長は「経産省も含め、こういう状況だということを国民に説明」しろというが、経産省のトリチウム水タスクフォースは、2016年11月に「海洋放出しかない」という報告書を出した。その処理を妨害してきたのは、テレビ朝日を初めとするマスコミである。
こうして問題をこじらせて、海洋放出以外の方法がないとわかると、今度は「唐突だ」とか「国民に説明が必要だ」とかいう決まり文句で引き延ばしをはかる。安保法制のときも、最後はこれだった。
3年前に発表したことが唐突なら、何年説明すればいいのか。このように果てしなく「国民への説明」を求めるマスコミが、決められない政治の元凶である。小泉純一郎氏はそういう政治をぶっ壊したが、進次郎氏は古いコンセンサスに戻ってしまった。

関連記事
-
はじめに ひところは世界の原発建設は日本がリードしていた。しかし、原発の事故後は雲行きがおかしい。米国、リトアニア、トルコで日本企業が手掛けていた原発が、いずれも中止や撤退になっているからだ。順調に進んでいると見られてい
-
日本経済新聞 5月18日公開。中国電力は17日、島根原子力発電所(松江市)1号機の廃炉計画を巡り、周辺自治体への説明会を松江市で開いた。
-
一般社団法人「原子力の安全と利用を促進する会」は、日本原子力発電の敦賀発電所の敷地内断層(2号炉原子炉建屋直下を通るD-1破砕帯)に関して、促進会の中に専門家による「地震:津波分科会」を設けて検討を重ね、原子力規制委員会の判断「D?1破砕帯は、耐震指針における「耐震設計上考慮する活断層」であると考える」は見直す必要がある」との結論に至った。(報告書)
-
わが国の原子力事業はバックエンドも含めて主に民間事業者が担ってきた。しかし、原子力事業は立地の困難さもさることながら、核物質管理やエネルギー安全保障など、国家レベルでの政策全体の中で考えなければならない複雑さを有しているため、事業の推進には政府の指導・支援、規制が必要と考えられてきた。
-
私は東京23区の西側、稲城市という所に住んでいる。この土地は震災前から現在に到るまで空間線量率に目立った変化は無いので、現在の科学的知見に照らし合わせる限りにおいて、この土地での育児において福島原発事故に由来するリスクは、子供たちを取り巻く様々なリスクの中ではごく小さなものと私は考えている。
-
2018年4月8日正午ごろ、九州電力管内での太陽光発電の出力が電力需要の8割にまで達した。九州は全国でも大規模太陽光発電所、いわゆるメガソーラーの開発が最も盛んな地域の一つであり、必然的に送配電網に自然変動電源が与える影
-
カリフォルニア州でディアブロ・キャニオン原発が2025年までに停止することになった。これをめぐって、米国でさまざまな意見が出ている。
-
福島原発事故は、現場から遠く離れた場所においても、人々の心を傷つけ、社会に混乱を広げてきた。放射能について現在の日本で健康被害の可能性は極小であるにもかかわらず、不安からパニックに陥った人がいる。こうした人々は自らと家族や子供を不幸にする被害者であるが、同時に被災地に対する風評被害や差別を行う加害者になりかねない。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間