「太陽任せ」よりもさらに頼りにならない「風任せ」

BirgerNiss/iStock
1. 洋上風力発電は再エネ発電の救世主だったはず??
図1は、東北電力エリア内の2025年1月31日の太陽光発電と風力発電の実績値(30分間隔)です。横軸は24時間、縦軸は発電量(MW)です。太陽光発電の発電量は赤線で示します。太陽の光の強さに応じて発電しますから、晴れの日は大体、図1と同じカーブを描きます。
日本中の太陽光発電が同じカーブを描きますから始末に悪いわけです。電気の使う量に関係なく、このカーブでしか発電しません。太陽が出ていない16:00ころから翌朝の6:00ころまでは、全く発電しません。曇りや雨の日は日中も発電しません。

図1 東北電力エリア太陽光発電と風力発電の実績(2025年1月31日)
それに対して、風力発電は青い線で示しましたが、太陽の位置には関係なく風の強さに応じて発電するため、風が1日中安定して吹いた場合は図1のように1日中安定して発電してくれます。夜間に発電量が落ち込むということはありません。設備の利用率は84%を超えます(利用率は資源エネルギー庁 電力調査統計表から算出)。
この利用率の数字を経済産業省のお役人様が見たら、目がハートマークになってしまい「これからは風力発電だ。しかも陸上の風力発電は、低周波騒音の問題とかいろいろあるから、人が住んでいない所に立地する洋上風力がいい。これからは太陽光なんて相手にほしないで洋上風力の導入だ。洋上風力こそが脱炭素の切り札だ」と考えたくなります。
しかし、このグラフは1年に数日しかない非常に理想的な日なのです。
2. 実は風力発電はもっと頼りにならない
今度は、図2に同じ東北電力管内の風力発電の実績ですが、横軸を1年間にして、縦軸を1日の発電日量(MWh)2023年度の実績をグラフを示します。
風力発電の利用率が100%になる値を(※1)に、80%になる値を(※2)に示します。80%を超える日は4日間しかありません。年度の前半である4月~10月の間は半分も行かない日がほとんどです。

図2 東北電力エリア太陽光発電と風力発電の実績(2023年度)
年度の後半である10月~3月の間は、日本海側の北西の季節風によって、それなりに利用率は高くなりますが、それでも平均の利用率は35%にしかなりません。最も利用率が高い日でも84%止まりです。上半期である4月~9月の利用率は18%、年間平均すると26%止まりです。年間平均で利用率は1/4しかないのです。
※1)本文中の設備利用率は、1日の発電電力量(MWh)が、設備容量(2,002MW)×24時間=48,048MWh を利用率100%、として計算した。
3. これだけの変動を吸収する発電は火力発電しかない
資源エネルギー庁の資料で洋上風力発電の売電収入のシミュレーションでは、陸上風力発電所の利用率は28%、洋上風力発電所は39.3%となっています。
利用率の低さは織り込み済みという人がいるかも知れません。しかし、風力事業者の収支ばかり検討していますが、何のための風力発電なのか、最大の目的は電気を供給するために発電しているのです。
利用率26%というと26%くらいのほぼ一定の出力で発電するイメージを持ってしまうかもしれませんが、実際には図2のように0~80%くらいまで大きく変動してしまいます。当然この電気は風任せの出力です。電気を使う量にあわせて発電する、なんてことはできません。
現在はまだ発電量全体に対する比率が小さいので火力発電で変動量を吸収していますが、風力発電の比率が上がってきたら、火力発電では吸収できなくなります。再生可能エネルギーだけでは電気の供給はできない、再エネを増やすほど火力発電が必要になることを理解していただきたいと思います。

関連記事
-
東京電力福島第一原発の事故処理で、汚染水問題が騒がれている。このコラムで私は問題を考えるための図を2つ示し、以下の結論を示したい。
-
池田信夫アゴラ研究所所長の映像コラム。日本原電の敦賀2号機に活断層があると認定した原子力規制委員会の行動を批判。
-
四国電力の伊方原発3号機の運転差し止めを求めた仮処分の抗告審で、広島高裁は16日、運転の差し止めを認める決定をした。決定の理由の一つは、2017年の広島高裁決定と同じく「9万年前に阿蘇山の約160キロ先に火砕流が到達した
-
前回に続き、最近日本語では滅多にお目にかからない、エネルギー問題を真正面から直視した論文「燃焼やエンジン燃焼の研究は終わりなのか?終わらせるべきなのか?」を紹介する。 (前回:「ネットゼロなど不可能だぜ」と主張する真っ当
-
麻生副総裁の「温暖化でコメはうまくなった」という発言が波紋を呼び、岸田首相は陳謝したが、陳謝する必要はない。「農家のおかげですか。農協の力ですか。違います」というのはおかしいが、地球温暖化にはメリットもあるという趣旨は正
-
東京電力に寄せられたスマートメーターの仕様に関する意見がウェブ上でオープンにされている。また、この話題については、ネット上でもITに明るい有識者を中心に様々な指摘・批判がやり取りされている。そのような中の一つに、現在予定されている、電気料金決済に必要な30分ごとの電力消費量の計測だけでは、機能として不十分であり、もっと粒度の高い(例えば5分ごと)計測が必要だという批判があった。電力関係者とIT関係者の視点や動機の違いが、最も端的に現れているのが、この点だ。今回はこれについて少し考察してみたい。
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンク、GEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
-
東日本大震災で事故を起こした東京電力福島第一原子力発電所を5月24日に取材した。危機的な状況との印象が社会に広がったままだ。ところが今では現地は片付けられ放射線量も低下して、平日は6000人が粛々と安全に働く巨大な工事現場となっていた。「危機対応」という修羅場から、計画を立ててそれを実行する「平常作業」の場に移りつつある。そして放射性物質がさらに拡散する可能性は減っている。大きな危機は去ったのだ。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間