GX改正法案を否決せよ:政府が隠す排出量取引制度の本当のコスト

BBuilder/iStock
GX推進法の改正案が今国会に提出されている。目玉は、「排出量取引制度」と、「炭素に関する賦課金」の制度整備である。
気になる国民負担についての政府説明を見ると、「発電事業者への(政府による排出権売却の)有償化」および炭素に対する賦課金が発生するが、今後、再エネ賦課金が減少し、また、石油石炭税が減少するので、「負担の総額を中長期的に減少させていく中で導入する」となっている(図1)。
まず突っ込みたくなるのは、折角、国民負担が減るなら、なぜわざわざまた国民負担を増やさねばならないのか、ということだ。負担が減るなら、その分、光熱費を安くして国民に還元すべきだろう。
そしてそれ以上に重大なのは、図1は、排出量取引制度制度の本当のコストを著しく矮小化していることである。
排出量取引制度の本質は、排出量を事業者に割り当てて規制する、排出総量の規制である。
排出総量について、日本政府は、2013年から2050年まで直線的にCO2を削減するとして、2013年比で2030年に△46%、2035年に△60%、2040年に△73%という、極端すぎて実現不可能な数値目標を決定し、パリ協定事務局に提出した。
かかる国家目標が存在する状況において、排出量取引制度を導入すると、どうなるか。当然、その国家目標に整合的な排出総量を設定するよう、強い政治的圧力がかかる。
だがこれは、日本経済の破滅である。
経産省系シンクタンクであるRITEの2022年発表の試算(p6)では、2030年に△46%という目標を達成するためのGDP損失は年間約30兆円にも上る。
排出総量を抑制すると、エネルギーコストが上昇して消費が冷え込み、また、産業競争力が失われて輸出が減少するためだ。
つまり排出量取引制度の本当のコストは図2のようになる。政府が説明しているのはごく一部にすぎない。

図2 排出量取引制度の本当のコスト
現状で再エネ賦課金は2兆6500億円、石油石炭税は6500億円で、政府が説明しているカーボンプライシングの負担は累積で20兆円となっている。だが排出量取引制度の本当のコストは、2030年単年度だけで30兆円にもなるのだ。
30兆円というのは消費税20兆円の1.5倍にあたる莫大な金額だ。
もちろん、30兆円というのは、GX政策全体のコストであって、排出量取引制度のコストではない、と言う反論はあるだろう。だが、GX政策の中にあって、極端な排出総量規制を担うのが排出量取引制度である。ゆえに、この30兆円なるコストの大部分を排出量取引制度に帰着させるのは間違いではない。
この試算にしても、「米国が同様の対策を採る」「原子力再稼働が順調に進む」など、万事うまくいってもこれだけコストがかかる、というものだ。現実には、もっとコストは高くなるだろう。
そして、図2は2030年断面だが、2035年、2040年となると、もっとこのコストは嵩む。
以上の検討をまとめよう。
- 排出量取引制度の本質は、排出総量の規制である。
- 日本は極端な数値目標を掲げているため、それと整合的な排出量取引制度の引き起こすコストは破滅的になる。
- 政府はこのコストを国民に全く説明していない。
今国会は、GX改正法案を否決し、これ以上のGXの制度化を阻止すべきだ。そして、日本は、ほんとうに国民のためになる現実的なエネルギー政策とは何か、ゼロから再検討すべきだ。
■
関連記事
-
(前回:化石燃料は、風力・太陽光では置き換えられない!) 前回に続き、米国でプロフェッショナル・エンジニアとして活躍されるRonald Stein氏と共同で執筆しましたので、その概要をご紹介します。 はじめに 近年、世界
-
The Guardianは2月4日、気候変動の分野の指導的な研究者として知られるジェームズ・ハンセン教授(1988年にアメリカ議会で気候変動について初めて証言した)が「地球温暖化は加速している」と警告する論文を発表したと
-
筆者は数年前から「炭素クレジット・カーボンオフセットは本質的にグリーンウォッシュ」と主張してきました。具体的な問題点についてはこちらの動画で整理していますのでぜひご覧ください。 さて、ここ半年ほどESGコンサルや金融機関
-
「2020年までに地球温暖化で甚大な悪影響が起きる」とした不吉な予測は多くなされたが、大外れだらけだった。以下、米国でトランプ政権に仕えたスティーブ・ミロイが集めたランキング(平易な解説はこちら。但し、いずれも英文)から
-
この頃、10年も前にドイツで見た映画をよく思い出す。『In Time』(邦題『TIME/タイム』)。冒頭に荒れ果てた街の絶望的なシーン。人々はみすぼらしく、工場では産業革命時代のままのような錆び付いた機械がどうにかこうに
-
Caldeiraなど4人の気象学者が、地球温暖化による気候変動を防ぐためには原子力の開発が必要だという公開書簡を世界の政策担当者に出した。これに対して、世界各国から多くの反論が寄せられているが、日本の明日香壽川氏などの反論を見てみよう。
-
4月16日の日米首脳会談を皮切りに、11月の国連気候変動枠組み条約の会議(COP26)に至るまで、今年は温暖化に関する国際会議が目白押しになっている。 バイデン政権は温暖化対策に熱心だとされる。日本にも同調を求めてきてお
-
AIナノボット 近年のAIの発展は著しい。そのエポックとしては、2019年にニューラルネットワークを多層化することによって、AIの核心とも言える深層学習(deep learning)を飛躍的に発展させたジェフリー・ヒント
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間


















