あなたの常識を奪う「正義」と戦え! 常識を考えるための2冊

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ニュースの内容が真実かどうかということは、極めてわかりにくい。火事のニュースは、それが自分の家の近所なら正しいとわかるが、火災の原因となると、果たして報道が正しいのかどうか? 自分で内容の真偽を確かめられるニュースなど、ごくわずかだ。
昨今は世界のあちこちで大規模な山火事がある。山が燃えていることは映像もあるので本当だろうが、ただ、それを気候温暖化と結びつける報道は信じるに足るのか。
杉山大志氏の著書『気候変動問題のホントとウソ』(電気書院)には、そもそも山火事は異常事態ではなく、自然界では定期的に起こっていたと書いてある。だからこそこれまでは、延焼を防ぐために森の木を切って防火帯を作ったり、定期的に火入れをして燃える材料を減らしてたりしてきた。
ところが昨今では、環境保護の名目などでそれらが行われず、山に燃料が溜まり放題。だから、火はなかなか消えない。さらに人間の住処が森の近くにまで拡大したことで、失火や漏電による火災も増えた。
これまでは、山火事と気候温暖化を何が何でもリンクさせてきたドイツの公共メディアだったが、この頃は流石にそれだけでは通用しなくなったのか、原因として放火の可能性も挙げ始めた。実は、独立系のメディアがもう20年も前から言っていたことだ。
当時はギリシャなどでよく、そのままでは自然保護法などに縛られて宅地開発ができない土地が燃えた。しかし、燃えた後は建設用地として開放されることが多いため、悪徳不動産業者や投機筋が裏から山火事の糸を引いていたという話だ。そして、こういう国では当局もグルだったりする。
杉山氏の『気候変動問題のホントとウソ』では、これまで気候について言われていた多くのことが否定、あるいは証拠不十分で断罪されている。しかも、氏の主張はイデオロギーではなく、ファクトに基づいているから、読者が目覚める良いきっかけになる。
例えば、台風は激甚化しておらず、ホッキョクグマは増えており、太陽光発電や風力発電は電気代を押し上げる。そして、気候が温暖化すると死亡率は下がる。暑さもうんざりだが、人間にとって本当に過酷なのは寒さなのだ。
さらに重要なのは、グリーントランスフォーメーションで経済成長はありえないということ。どれもこれも政治家やメディアや“研究者”が言っていることとは正反対。本の題名は『気候変動問題のウソとウソ』に変えた方がいい。
Weltwocheのオンライン版(6月29日)によれば、イーロン・マスク氏がXに次のような数字を投稿したという。中国の電気需要は過去25年で10倍になり、現在、年間1万TW(テラワット)。米国の需要は同じ期間にほぼ横ばいで、年間4000TW。一方、ドイツは600TWから500TWに減少した。ドイツの政治家とメディアはこれを、節電の成果だと自負している。そして、マスク氏は「これらの数字を覚えておいてください」と書いている(アクセス数6月29日の時点で2500万)。
そもそも、この25年間でどの国が一番経済成長したかは一目瞭然だ。電気の需要と経済発展は正比例する。だからこそ中国は、化石燃料も再エネも原発も、とにかく全ての電源を駆使してガンガン発電している。要は、どうすれば安い電気を安定的に供給できるか。
ところが、ドイツだけが逆方向に前のめり。EUの目標である2050年をさらに5年も早めて、45年までに脱炭素を完成するつもりだ。そのため10年間で150兆円を投資し、再エネを大量に導入する。しかし、太陽と風だけでは二進も三進もいかないことも承知なので、水素やアンモニアの燃料化、あるいはCO2の回収・貯留などを大々的に謳い、あたかも他の先進国より一歩先を進んでいるように見せかけている。
ただ、実際にはどれも高価で、実用には程遠く、本当にCO2を減らすには産業を縮小するしかない。要するに、「脱炭素で経済成長」は真っ赤なウソで、そんなことぐらい、普通の人なら常識でわかる。
そう思っていた矢先、ズバリ、『常識』(ハート出版)というタイトルの本を手にした。宮崎正弘著で、副題が「コモンセンスで取り戻す日本の未来」。トランプ米大統領が就任時に挙げたスローガンと同じだ。「グローバリズムとは、マルクス主義の隠れ蓑だとトランプ政権は考えている」と宮崎氏の解説。マルクス主義は既存の常識を覆すところから始まる。
わかりやすかったのは次の話だ。
「2025年1月、法政大学のキャンパスで授業中に韓国人女子留学生が金槌で学生を殴り怪我を負わせた。驚いたのは、なぜ男子学生は闘わずに、すぐに警察を呼んだのかということだった」という件(くだり)。「人間として非常識である」と宮崎氏。
氏は、「男なら男らしく振る舞え!」と言いたかったのだろうが、そんなことを口にしようものなら、あらぬ嫌疑をかけられるのが、すでにマルクス主義に席巻された現在のドイツだ。男は長年、ちゃんとルールのあるスポーツの場でしか「男らしさ」を発揮してこなかったから、もはや金槌という武器には対応できない。
宮崎氏は続ける。
「この新型マルクス・ウイルスの策源地の一つはダボス会議である」。
「常識では各々の国は主権をもつが、リーダーが変わると法律が変わることがあり、多国籍企業にとっては都合が悪い。すなわちグローバリズムとは(略)彼らの都合の良いルールを取り決めて、その価値観を押し付けること」。
「ポリコレとキャンセル・カルチャーとは、まさしくコモンセンスの枠をぶちこわした左翼運動だった」。
まさに同感。その左翼運動の表舞台が、国連であり、EUだ。そして、最も熱心に常識を潰した貢献者に与えられる勲章が、ノーベル平和賞。そう見れば、脱炭素も、LGBTQも、移民・難民という名の民族移動も全て同根であることがわかってくる。
そして、それら官製の価値観が大手を振り、しかも不幸なことに、メディアがそれを「正義」として強力にフォローするため、国民はその状態に次第に慣れ親しんでいく。これは日本でも同じで、公共放送や一流新聞は本当のことしか報じないと信じている素直な人が、真っ先に洗脳されてしまった。これを打ち破らなければ、常識は戻ってこない。
ただ、ドイツでは、政府の「正義」に逆らった人たちは、すぐさま差別主義者や反民主主義者のレッテルを押される。それどころか、SNSに政府批判を書き込めば、誹謗、中傷、時には民衆煽動罪で訴えられて裁判所に引き摺り出され、罰金刑と共に国家の権力を味わわされることになる。司法までが信用ならないと気づくと、国民は諦めて口を噤む。そう、東ドイツ化である。ドイツ政府は、どんな批判も受け付けない体質を年々強めている。
では、常識とは何か? 私は、「何かおかしい」という直感、それが常識だと思っている。多くの政治家は真面目な顔をして、子飼いにしたジャーナリストや、御用学者や、都合よく切り取った統計で国民をあらぬ方向に誘導しようとしたがるものだ。それに対して何か変だと感じたら、きっとそれは何か変なのだ。
私は盛り沢山のニュースよりも、その直感こそを大切にしたい。洗脳に対する免疫力強化。そのために、前述の2冊は極めて有効であった。
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