今週のアップデート― 食品による内部被曝をめぐる議論(2012年2月6日)

2012年02月06日 19:00

今週のコラム・論文

1)福島の原発事故以来、放射能への健康への影響、とくに飲食による内部被曝に不安を訴える人が増えています。現状では、ほとんど問題にする必要はありません。

松田裕之横浜国立大学教授(環境リスク学、生態学、水産学)にコラム「食品の厳しい基準値は被災農漁家への新たな人災」を寄稿いただきました。松田教授は、厳格な放射能安全性の基準を適用しようとする厚生労働省の政策を疑問視しています。

なぜならそれを厳格に適用することによって、福島での農業、水産業が成り立たなくなる可能性があるためです。内部被曝による健康リスクの可能性はほとんどありません。「行政がさらなる規制をかけることは、害よりも益が多い場合に被曝を受容するという公正化原則に反する行為であり、被災農漁家と消費者を結ぶ絆を断ちきる行為と言える」と、松田教授は訴えています。

2)日本では今年7月に太陽光発電など再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)を導入します。この導入に際して、エネルギー関連の雇用「グリーンジョブ」の増加という経済的な効果を、期待する意見がありました。

GEPR編集部は、「グリーンジョブは補助金で生まれない ― 固定価格買取制度の幻想」を提供します。

この制度の導入したドイツでは、2010年1年間だけで総額136億ユーロ(約1兆3600億円)、一世帯あたりの月額負担額は10.3ユーロ(約1000円)、これは電気料金の15%に相当する巨額の負担が発生しています。

さらに輸出競争力の増加も起こっていません。全国的にFITを導入していないアメリカでもオバマ政権のてこ入れで「グリーンジョブ」の増加努力が行われました。しかし、増加はうまくいっていません。

この結果は補助金頼りの再生可能エネルギーの振興策が、機能しないことを示しています。

3)PHP研究所から2012年2月15日に発売されるアゴラ研究所代表の池田信夫の著書『原発「危険神話」の崩壊』 (PHP研究所)から、「第2章 放射能はどこまで恐いのか」を公開します。現在の福島と東日本で問題になっている低線量被曝など、放射能と人体の影響について、科学的な知見を分かりやすく解説します。

今週のニュース、資料

1) 福島県は東京電力福島第一原発事故を受け、県民の健康管理調査を実施しています。
内閣府「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ」の「資料
によれば、昨年12月までに、原発近隣地域の住民1589人を分析。昨年3月11日から7月11日までの4か月間で、最高値は 14.5mSv、全体の 97.4%が 5mSv未満となっています。福島県は「放射線による健康被害は考えにくい」状況と評価しています。

2) 事故を起こした福島第1原発から約20〜50キロメートル離れている福島県南相馬市では市民への健康被害調査を行っています。内部被曝検診の結果について2月3日に公表しています。(資料
50年間の預託線量で1mSv以下、また小児被曝の内部被曝はほぼないと推定されています。

3) 朝日新聞は1月19日の記事「福島の食事、1日4ベクレル 被曝、国基準の40分の1」で被曝の可能性はほぼないことを伝えています。福島県では3食で4.01ベクレル、関東地方で0.35ベクレル、西日本でほとんど検出されない状況で、「福島の水準の食事を1年間食べた場合、人体の内部被曝(ひばく)線量は、4月から適用される国の新基準で超えないよう定められた年間被曝線量の40分の1にとどまっていた」としています。

4)内閣府の「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ」の「報告書」では、福島県民の被曝状況の推計が掲載されています。今後は、食品を通じた内部被曝が懸念されるものの、それは年間0.1mSv(中央値)程度で、健康被害の可能性は少ないとしています。

This page as PDF

関連記事

  • (GEPR編集部より)この論文は、国際環境経済研究所のサイト掲載の記事から転載をさせていただいた。許可をいただいた有馬純氏、同研究所に感謝を申し上げる。(全5回)移り行く中心軸ロンドンに駐在して3年が過ぎたが、この間、欧州のエネルギー環境政策は大きく揺れ動き、現在もそれが続いている。これから数回にわたって最近数年間の欧州エネルギー環境政策の風景感を綴ってみたい。最近の動向を一言で要約すれば「地球温暖化問題偏重からエネルギー安全保障、競争力重視へのリバランシング」である。
  • 新しい日銀総裁候補は、経済学者の中で「データを基に、論理的に考える」ことを特徴とする、と言う紹介記事を読んで、筆者はビックリした。なぜ、こんなことが学者の「特徴」になるのか? と。 筆者の専門である工学の世界では、データ
  • 日本の核武装 ロシアのウクライナ侵攻で、一時日本の核共有の可能性や、非核三原則を二原則と変更すべきだとの論議が盛り上がった。 ロシアのプーチン大統領はかつて、北朝鮮の核実験が世界のメディアを賑わしている最中にこう言い放っ
  • 日本、欧州、米国で相次いで熱波が発生したとのことで、日本でも連日報道されていて、まるで地球全体が暑くなったかのようだが、じつはそんなことはない。 メイン大学のホームページにある米国の分析結果を見ると、7月21日の地上2メ
  • WEF(世界経済フォーラム)や国連が主導し、我が国などでも目標としている「2050年脱炭素社会」は、一体どういう世界になるのだろうか? 脱炭素社会を表すキーワードとして、カーボンニュートラルやゼロ・エミッションなどがある
  • アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
  • 東京電力に寄せられたスマートメーターの仕様に関する意見がウェブ上でオープンにされている。また、この話題については、ネット上でもITに明るい有識者を中心に様々な指摘・批判がやり取りされている。そのような中の一つに、現在予定されている、電気料金決済に必要な30分ごとの電力消費量の計測だけでは、機能として不十分であり、もっと粒度の高い(例えば5分ごと)計測が必要だという批判があった。電力関係者とIT関係者の視点や動機の違いが、最も端的に現れているのが、この点だ。今回はこれについて少し考察してみたい。
  • IPCCの報告が昨年8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 以前、ハリケーン等(ハリケーン、台風、サイクロンの合計)

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑