今週のアップデート — ビル・ゲイツ氏の指摘するアメリカのエネルギー政策の問題点(2012年1月30日)

2012年01月30日 16:00

今週のコラム

1)マイクロソフト会長のビル・ゲイツ氏は、世界の社会問題の解決のための活動をする中で、エネルギー問題へ関心を向けています。

GEPR編集部は、ゲイツ氏に要請し、同氏の見解をまとめたサイト「ゲイツ・ノート」からエネルギー関連記事「必要不可欠な米国のエネルギー研究」を転載する許諾をいただきました。もともとはサイエンス誌に掲載されたものです。エネルギーの新技術の開発では、成果を出すために必要な時間枠が長くなるため「ベンチャーキャピタルや従来型のエネルギー会社には大きすぎる先行投資が必要になってしまう」と指摘しています。効果的な政府の支援を行えば、外国の石油に1日10億ドルも支払うアメリカ社会の姿を変えることができると期待しています。

日本も、原発の停止によって、天然ガスなどの化石燃料を輸入したために、2011年には31年ぶりに貿易赤字になりました。政府によるクリーンエネルギーに関する研究支援によって化石燃料の使用を減らそうというゲイツ氏の意見は日本にとって参考になるでしょう。

2)新しいエネルギー関連技術の中で、スマートグリッドが注目されています。米グーグルの副社長、グーグルジャパン社長を務めた村上憲郎氏は「スマートグリッドが切り拓く新生スマートニッポン」の寄稿をしました。村上氏はグーグルジャパンの名誉会長当時から、スマートグリッドの推進を提唱し続けています。

村上氏はスマートグリッドによる社会変革を分かりやすく説明しました。またスマートグリッドがエネルギーをめぐる情報の交換を増やし、人と物、物と物のコミュニケーション(M2M2H:Machine to Machine to Human)を深めると指摘。さらに今の日本が直面する原発の停止による電力不足への有効な対応策になると期待しています。

今週の報告書の紹介

日本学術会議は2011年6月に金沢一郎議長(当時)による議長談話「放射線防護の対策を正しく理解するために」を公表しています。同団体は日本の人文・社会科学、自然科学全分野の科学者の意見をまとめ、国内外に対して発信する日本の代表機関で、東日本大震災以降は科学的な勧告を続けています。

その談話はICRP(国際放射線防護委員会)が定めた防護基準が妥当であるとの見解を示しています。また「今回のような緊急事態に対応する場合には、一方で基準の設定によって防止できる被害と、他方でそのことによって生じる他の不利益 (たとえば大量の集団避難による不利益、その過程で生じる心身の健康被害等)の両者を勘案して、リスクの総和が最も小さくなるように最適化した防護の基準をたてること」としています。

日本の現在打ち出される放射能防御の政策はこの文章を参考にしています。

今週のニュース

1)ドイツ、無計画な太陽光発電政策の再評価へ — 補助金制度の落とし穴
(2012年1月18日)
独シュピーゲル紙(英語版)が、ドイツの太陽光発電へのFIT制度が限界に来ており、縮小・廃止に向けた動きが政治的に顕在化してきていることを報道しています。
太陽光の駆け込み設置のため、2011年に設置されたパネルの発電量買い上げだけで毎年180億ユーロのコストを20年間、電力消費者に強いると紹介しています。また「太陽光はドイツの環境政策の歴史で最も高価な誤りになる可能性がある」とも指摘しています。

2)独、脱原発で30年までに1.7兆ユーロ(約170兆円)のコスト増 ― シーメンス試算
(2012年1月17日)
ロイター通信は、ドイツの脱原発政策コストは2030年までに1.7兆ユーロ(約170兆円)にのぼり、2011年のドイツのGDPの3分の2に上ると、独企業シーメンスが試算したという報道をしています。

3)Q&A:ビル・ゲイツ、世界のエネルギー危機について語る
(2011年8月5日)
ウェブメディアのWIREDはビル・ゲイツのエネルギーの未来についての考えを伝えています。彼は福島の原発事故は「多くの理由から避けることができた事故」と指摘しています。福島第一原発は1960年に作られた原発で、安全について不十分な点があったと彼は述べています。そして自然エネルギーだけで、気候変動などエネルギーをめぐるさまざまな問題を解決できないと指摘しています。

This page as PDF

関連記事

  • 「法則」志向の重要性 今回は、「ドーナツ経済」に触れながら、社会科学の一翼を占める経済学の性格について、ラワースのいう「法則の発展を目的としない」には異論があるという立場でコメントしよう。すなわち「法則科学か設計科学か」
  • 去る7月23日、我が国からも小泉環境大臣(当時)他が参加してイタリアのナポリでG20のエネルギー・気候大臣会合が開催された。その共同声明のとりまとめにあたっては、会期中に参加各国の合意が取り付けられず、異例の2日遅れとな
  • パリ協定については未だ明確なシグナルなし トランプ大統領は選挙期間中、「パリ協定のキャンセル」を公約しており、共和党のプラットフォームでも、「オバマ大統領の個人的な約束に過ぎないパリ協定を拒否する」としている。しかし、政
  • 学生たちが語り合う緊急シンポジウム「どうする日本!? 私たちの将来とエネルギー」(主催・日本エネルギー会議)が9月1日に東京工業大学(東京都目黒区)で開催された。学生たち10名が集い、立場の違いを超えて話し合った。柔らかな感性で未来を語り合う学生の姿から、社会でのエネルギーをめぐる合意形成のヒントを探る。
  • シェブロン、米石油ヘスを8兆円で買収 大型投資相次ぐ 石油メジャーの米シェブロンは23日、シェールオイルや海底油田の開発を手掛ける米ヘスを530億ドル(約8兆円)で買収すると発表した。 (中略) 再生可能エネルギーだけで
  • アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンク、GEPRはサイトを更新しました。 今週のアップデート 1)【アゴラシンポジウム】成長の可能性に満ちる農業 アゴラは12月に農業シンポジウムを行います。石破茂自民党
  •   日本の温室効果ガス排出は減少している。環境省はカーボンニュートラル実現について「一定の進捗が見られる」と書いている。 伊藤信太郎環境相は「日本は196カ国の中でまれに見るオントラックな削減をしている」と述べ
  • 米国マンハッタン研究所の公開論文「エネルギー転換は幻想だ」において、マーク・ミルズが分かり易い図を発表しているのでいくつか簡単に紹介しよう。 どの図も独自データではなく国際機関などの公開の文献に基づいている。 2050年

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑