サマータイムでエネルギー消費は増える
森喜朗氏が安倍首相に提案したサマータイム(夏時間)の導入が、本気で検討されているようだ。産経新聞によると、議員立法で東京オリンピック対策として2019年と2020年だけ導入するというが、こんな変則的な夏時間は混乱のもとになる。
森氏は「夏時間で2時間早めたら、午前7時スタートのマラソンが午前5時スタートとなり、日が高くなる前にレースを終えることができる」というが、5時スタートにすればいいだけの話だ。他の仕事も、勤務シフトを変えればいい。時計を変える必要はない。
日本には異なる標準時という習慣がないので、時計を変更したら大混乱になる。アナログ時計なら1時間進めればいいが、コンピュータのクロックはすべての電子機器の基準になっており、ソフトウェアや半導体の時刻の変更は大変だ。同期が狂うと交通機関などのシステムが混乱し、事故が起こる可能性もある。
それより問題は、夏時間がエネルギー節約になるかどうかだ。これは英語ではdaylight saving time、つまり明るいうちに仕事を終えて、夜の照明を節約する習慣だ。これを提唱したのはベンジャミン・フランクリンだといわれるが、いま夏に最大のエネルギーを消費するのは冷房である。
アメリカのインディアナ州では、一部の郡しか夏時間をとっていなかったが、2006年に全州で夏時間が導入された。新たに夏時間を採用した郡でエネルギー消費を調査した経済学者の実証研究によれば、電力消費は平均1%増え、ピーク時には4%も増えた。夏時間で朝早くから活動すると照明の利用は減るが、冷房の利用は増えるからだ。
日本でも1948年から行われた夏時間は、残業が増えて4年で廃止された。1996年に夏時間を採用したEUでも、スイスやフィンランドなどで、夏時間の廃止を求める国民投票の動きがある。ロシアでは2011年に廃止された。生活を混乱させ、エネルギーを浪費する時代錯誤の夏時間は、百害あって一利なしである。

関連記事
-
米国21州にて、金融機関を標的とする反ESG運動が始まっていることは、以下の記事で説明しました。 米国21州で金融機関を標的とする反ESG運動、さて日本は? ESG投資をめぐる米国の州と金融機関の争いは沈静化することなく
-
「必要なエネルギーを安く、大量に、安全に使えるようにするにはどうすればよいのか」。エネルギー問題では、このような全体像を考える問いが必要だ。それなのに論点の一つにすぎない原発の是非にばかり関心が向く。そして原子力規制委員会は原発の安全を考える際に、考慮の対象の一つにすぎない活断層のみに注目する規制を進めている。部分ごとしか見ない、最近のエネルギー政策の議論の姿は適切なのだろうか。
-
ウクライナ戦争以前から始まっていた世界的な脱炭素の流れで原油高になっているのに、CO2排出量の2030年46%削減を掲げている政府が補助金を出して価格抑制に走るというのは理解に苦しみます。 ガソリン価格、172円維持 岸
-
IPCCの気候モデルによるシミュレーションは、観測値と比較して温暖化を過大評価していることは以前にも何回か述べてきた。過大評価の程度は、地域・期間・高度などによって異なるが、米国の元NOAAのロイ・スペンサーが、特に酷い
-
河野太郎衆議院議員(自民党)は電力業界と原子力・エネルギー政策への激しい批判を繰り返す。そして国民的な人気を集める議員だ。その意見に関係者には反論もあるだろう。しかし過激な主張の裏には、「筋を通せ」という、ある程度の正当
-
米国エネルギー長官に就任したクリス・ライトが、Powering Africa(アフリカにエネルギーを)と題した会議で講演をした。全文(英語)が米国マリ大使館ホームページに掲載されている。 アフリカの開発のためには、天然ガ
-
現在、エジプトのシャルムエルシェイクで国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)が開催されています。連日様々なニュースが流れてきますが、企業で環境・CSR業務に携わる筆者は以下の記事が気になりました。 企業の
-
未来の電力システムの根幹を担う「スマートメーター」。電力の使用情報を通信によって伝えてスマートグリッド(賢い電力網)を機能させ、需給調整や電力自由化に役立てるなど、さまざまな用途が期待されている。国の意向を受けて東京電力はそれを今年度300万台、今後5年で1700万台も大量発注することを計画している。世界で類例のない規模で、適切に行えれば、日本は世界に先駆けてスマートグリッドを使った電力供給システムを作り出すことができる。(東京電力ホームページ)
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間