特重施設の遅れは誰のせいなのか
【概要】特重施設という耳慣れない施設がある。原発がテロリストに襲われた時に、中央操作室の機能を秘匿された室から操作して原子炉を冷却したりして事故を防止しようとするものである。この特重施設の建設が遅れているからと、原子力規制委員会は原発に運転停止命令を出す可能性があると報道されている。
しかし、調べたら特重施設の工期は規制委の審査遅れのせいで遅れているのである。それなのに、なぜ規制委は原発の運転を停止させて遅れのツケを市民生活に押し付けるのかが理解できない。本稿では特重施設の建設遅れの状況とその責任の所在と、改善方法を検討した。
川内1号機の特重施設の許認可実績
九州電力川内1号機の許認可の実績は図1の通りである。規制委のルールでは本体施設の第1回工認が認可されてから5年以内に建設しなければならないことになっている。その本体施設の第1回工認の認可は2015年3月15日である。だから2020年の3月17日に5年の期限がくる。ところが図1の下段を見て頂きたい。特重施設の設置許可変更申請が認可されたのは2017年4月5日である。この間約2年間、九電は特重施設の工事をしたくても規制委の設置許可が下りていないから工事できなかった。この後も工認が認可されるまで工事が出来ない状況が続いている。九電が制約なく工事が出来るようになったのは今年(2019年)の2月18日になってからなのである。建設遅れの原因は九電の怠慢ではなく規制委の審査遅れのせいだったのである。規制委が長々と審査していたから特重施設の建設が遅れたのである。
特重施設建設遅れで怠慢だったのは規制委
特重施設が遅れたのは電力会社の怠慢だといわれているが、最初に再稼働した九州電力の川内1号機の建設遅れの内訳を調べると、なんと建設遅れの78%は規制委の審査遅れによるものであった。九州電力の責任によるものは37%しかなかった。つまり川内1号機の特重施設が5年の経過措置期間に間に合わないとすれば、その責任の過半は規制委にあることになる。怠慢だと断じられた九電の責任は規制委の約半分であった。これでなぜ史上初の運転停止命令を受けることになるのかが、理解できない。
どうすれば良いのか
この問題が生じた原因は2つある。一つは特重施設の特殊性である。施設の性格の故、打ち合わせが非公開とされている。このため通常の審査は多くの人の目に晒されるが、密室での審査となる。もう一つは経過措置期間の基準を特重施設ではなく、本体施設にしている点である。
審査の密室性については改善しようがないが、後者については関係先と調整が必要になると思われるが、本体施設ではなく特重施設そのものの第1回工認の認可を基準に変更することが良い。そうすれば仮に特重施設の審査が長期化したとしても経過措置期間5年には影響せずに済む。

関連記事
-
環境教育とは、決して「環境運動家になるよう洗脳する教育」ではなく、「データをきちんと読んで自分で考える能力をつける教育」であるべきです。 その思いを込めて、「15歳からの地球温暖化」を刊行しました。1つの項目あたり見開き
-
山火事が地球温暖化のせいではないことは、筆者は以前にも「地球温暖化ファクトシート」に書いたが、今回は、分かり易いデータを入手したので、手短かに紹介しよう。(詳しくは英語の原典を参照されたい) まずカリフォルニアの山火事が
-
エネルギー政策をどのようにするのか、政府機関から政策提言が行われています。私たちが問題を適切に考えるために、必要な情報をGEPRは提供します。
-
2015年2月24日公開。澤田哲生氏(東京工業大学助教)、池田信夫氏(アゴラ研究所所長)が出演。司会は石井孝明氏(ジャーナリスト)。
-
米国のウィリアム・ハッパー博士(プリンストン大学物理学名誉教授)とリチャード・リンゼン博士(MIT大気科学名誉教授)が、広範なデータを引用しながら、大気中のCO2は ”heavily saturated”だとして、米国環
-
地球温暖化の予測に用いられる気候モデルであるが、複雑な地球についてのモデルであるため、過去についてすらロクに再現できない。 地球平均の地表の気温については過去を再現しているが、これは、再現するようにパラメーターをチューニ
-
電気自動車(EV)には陰に陽に様々な補助金が付けられている。それを合計すると幾らになるか。米国で試算が公表されたので紹介しよう(論文、解説記事) 2021年に販売されたEVを10年使うと、その間に支給される実質的な補助金
-
BLOGOS 3月10日記事。前衆議院議員/前横浜市長の中田宏氏のコラムです。原子力関係の企業や機関に就職を希望する大学生が激減している実態について、世界最高水準の安全性を求める原発があるからこそ技術は維持されるとの観点から、政治家が”原発ゼロ”を掲げることは無責任であると提言しています。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間