豪雨は温暖化のせいではない
今年も例年同様、豪雨で災害が起きる度に、「地球温暖化の影響だ」とする報道が多発する。だがこの根拠は殆ど無い。フェイクニュースと言ってよい。
よくある報道のパターンは、水害の状況を映像で見せて、温暖化のせいで「前例のない豪雨が降った」「豪雨の降り方が変わった」などと論評するものだ。だが、本当に前例が無いのか、何か変わったのかといったことは、幾ら事例を並べ立てても科学的な根拠とは言えない。大事なのは統計で確認することだ。
「豪雨の増加」と統計からは言えない
だが環境白書を見ても、根拠として示されている統計データと言えば、図1ぐらいである。
図中、緑色の棒は、全国の51観測地点の1か所あたりの、100mm以上の豪雨日数である。青い線は前後5年間の移動平均、赤い線は回帰直線である。なおこの数値データは気象庁ホームページから入手できる。
環境白書は、この赤い直線に基づいて「日本では豪雨が増えてきた」としている。
だがここで、じっと目を凝らして図1を見てほしい。たしかに全体としては右肩上がりだが、よく見ると、1901年-1940年までは低く、1940年-1970年までは高く、1970年-1990年は低く、1990年-2018年は高い、というように振動しているようにも見える。
特に、1940年-1970年ごろは、最近とあまり変わらないぐらい豪雨の日数が多い年が幾つもあった。図中で、特に豪雨の多かった年として、年1.5日を超えている年を挙げると、1998年以降に合計4回あるが、他方で1945年、1961年、1965年、1972年にも合計4回あった。
1940年-1970年のころは、まだ人間のCO2排出は少なかったし、それによるとされる地球温暖化も殆ど起きていなかったから、この間の豪雨の増加はCO2排出によるものではない。だとすると、近年の豪雨の増加も、CO2排出によるものとは限らないのではないか? あるいはCO2排出の寄与があったとしても、それ以外の理由による変動、例えば数十年規模の気候の自然変動の影響も大きかったのではないか? このように、豪雨が近年になって増えているといっても、それが地球温暖化と因果関係があるとは言い切れない。
のみならず、じつは近年に豪雨が本当に多いのかもよく分からない。というのは、この図が右肩上がりになっている理由には、あと2つが考えられるからだ。
第1は、都市化の影響である。東京やその周辺では、都市があることによって降水量が1~2割増えた、という試算もある。都市化によって降水が増加するメカニズムとしては、1)ヒートアイランドによって上昇気流が生じ、都市上空へ水蒸気が入りこみ、雲が発達すること、更には、2)高層建築物が障壁になって上昇気流を作り出し雲ができること、等が指摘されている。
第2は、計測の誤差である。雨量観測の装置が時代によって変更されてきたので、1970年以前の降水量は少なめに観測されている、との指摘がある。
本当に豪雨が増えたか否かを知るためには、以上も合わせて検討する必要がある。それをせずに、大雑把に直線を引いて豪雨が増えたとするのは不適切である。
防災能力の向上で死者数は大幅に減った
豪雨の増加に伴って「災害が激甚化している」などとも報道されている。しかし実際には、第二次世界大戦の後、日本では水害による死者数は大幅に減少してきた。
仮にこの間、「豪雨が増えており、それが地球温暖化に起因するものであった」としても(上述したようにこの仮説を筆者は否定するが)、防災能力の向上のペースの方が、それを遥かに上回ってきたのである。
今後も治水事業は進み、天気予報・警報技術は向上し、SNS等による情報提供も進歩するだろう。これは、地球温暖化がどうであれ、自然災害への備えとして重要なことである。
他方で、造るべき堤防やダムを造らなければ、昨年の多摩川や今年の球磨川のような水害が起きる。必要なことは、地球温暖化のせいにすることではなく、適切な防災対策を講じることである。
なお本稿について更に詳しい議論は、筆者によるワーキングペーパーを参照されたい。
関連記事
-
私は太陽光発電が好きだ。 もともと自然が大好きであり、昨年末まで勤めた東京電力でも長く尾瀬の保護活動に取り組んでいたこともあるだろう。太陽の恵みでエネルギーをまかなうことに憧れを持っていた。いわゆる「太陽信仰」だ。 そのため、一昨年自宅を新築した際には、迷うことなく太陽光発電を導入した。初期投資額の大きさ(工事費込み304万円)には少々尻込みしたが、東京都と区から合わせて約100万円の補助金を受けられると聞いたこと、そして何より「環境に良い」と思って決断した。正確に言えば、思考停止してしまった。
-
キマイラ大学 もしかするとそういう名称になるかもしれない。しかしそれだけはやめといたほうが良いと思ってきた。東京科学大学のことである。東京工業医科歯科大学の方がよほどマシではないか。 そもそもが生い立ちの異なる大学を無理
-
半世紀ほど前から原子力を推進することを仕事としていたが、引退したとたんに自分自身が原発事故で避難しなくてはならなくなった。なんとも皮肉な話だ。
-
河野太郎氏の出馬会見はまるで中身がなかったが、きょうのテレビ番組で彼は「巨額の費用がかかる核燃料サイクル政策はきちんと止めるべきだ」と指摘し、「そろそろ核のゴミをどうするか、テーブルに載せて議論しなければいけない」と強調
-
英国のEU離脱後の原子力の建設で、厳しすぎるEUの基準から外れる可能性、ビジネスの不透明性の両面の問題が出ているという指摘。
-
18世紀半ばから始まった産業革命以降、まずは西欧社会から次第に全世界へ、技術革新と社会構造の変革が進行した。最初は石炭、後には石油・天然ガスを含む化石燃料が安く大量に供給され、それが1960年代以降の急速な経済成長を支え
-
筆者は先月、「COP26はパリ協定の「終わりの始まり」」と題する本サイトに寄稿をしたが、COP26の会議・イベントが進められている中、視点を変えたPart2を論じてみたい。 今回のCOPは、国連の公式発表によれば、交渉官
-
前回に続いて、環境影響(impact)を取り扱っている第2部会報告を読む。 今回は朗報。衛星観測などによると、アフリカの森林、草地、低木地の面積は10年あたり2.4%で増えている。 この理由には、森林火災の減少、放牧の減
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間