パリ協定って何?
アメリカは11月4日に、地球温暖化についてのパリ協定から離脱しました。これはオバマ大統領の時代に決まり、アメリカ議会も承認したのですが、去年11月にトランプ大統領が脱退すると国連に通告し、その予定どおり離脱したものです。
でも来年1月にはバイデン大統領になるので、またアメリカがパリ協定に復帰することは確実です。日本でも菅首相が「2050年に温室効果ガス排出実質ゼロ」というパリ協定の長期目標を超える野心的な目標を約束しましたが、これはなぜそんなに大きな問題なのでしょうか。
Q. パリ協定って何ですか?
パリ協定は2015年にパリで開かれた国連の気候変動枠組条約締約国会議(COP15)で結ばれた条約で、世界各国が協調して温室効果ガスの排出量を減らすものです。アメリカは「2025年までに温室効果ガス排出量を2005年に比べて26%減らす」と約束し、日本は「2030年までに2013年に比べて26%減らす」と約束しました。
地球の平均気温が上がっている原因は温室効果ガス、特にCO2(二酸化炭素)だと考えられています。パリ協定の目標は世界のCO2排出量を大幅に減らし、2100年までに地球の平均気温を産業革命前(1850~1900年の平均)に比べて2℃上昇で安定させることです。
Q. なぜ2℃が目標なんですか?
国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)はいろいろなシナリオを想定して、2100年に平均気温が今より0.3℃~4.8℃上がると予想しています。最小のRCP2.6シナリオの中央値は1℃ですが、今までに産業革命前から1℃上がっているので、これが2℃目標です。

2100年までの地球の平均気温上昇の予測(IPCC)
でも2℃を超えたら急に何かが起こるわけではなく、超えなければ何も起こらないわけではありません。2℃というのは、これぐらいなら多くの国が合意できるだろうという理由で政治的に決まった科学的根拠のない努力目標なのです。
Q. 2℃目標はパリ協定で実現できるんですか?
残念ながらできません。それを実現するには、IPCCの計算では2050年にCO2排出量を今より40~70%減らさないといけませんが、パリ協定の目標は2030年に30%ぐらい減らすだけなので、それを完全実施しても2℃目標は実現できないのです。
そこで「2050年にCO2排出ゼロ」という長期目標が出てきたわけですが、これを実現するには火力発電とガソリン車を廃止しないといけません。(原発なしだと)再生可能エネルギー100%で発電して蓄電し、電気自動車100%にすることはできるんでしょうか。
Q. なぜ温暖化を止めないといけないんですか?
ゆるやかに気温が上がることは大した問題ではありません。たとえば東京の平均気温は20世紀に3℃上がりました(そのうち2℃はヒートアイランド現象)が、誰も気づかなかった。あと80年で1℃上がっても、空調のある先進国では生活に影響はありません。
気温が上がると熱射病が増えますが、凍死が減ります。日本では死因の約10%が寒冷死(風邪や凍死など)ですが、高温による病気(熱射病など)は約0.2%です。暖かくなると死者は減るのです。シベリアは人が住めるようになり、農産物の収穫も増えます。

気温変化による死者の比率(The Lancet)
Q. 温暖化で誰が困るんですか?
温暖化で異常気象が増えるといわれていますが、今のところ大きな増加はみられません。熱帯ではハリケーンやサイクロンの人的被害が増えていますが、この最大の原因は都市に人口が集中したことですから、堤防をつくれば防げます。
確実に起こるのは海面上昇です。IPCCは今後、毎年1cmぐらい海面が上がると予想しています。これも堤防をつくればいいので、先進国では大した問題ではありませんが、インフラの貧弱な途上国では困ります。

2300年までの海面上昇の予測(IPCC)
いま途上国に必要なのは豊かになること
地球温暖化は人類の普遍的な問題ではなく、発展途上国のインフラ問題です。だから「途上国クラブ」の国連が熱心なのはわかりますが、先進国ではほとんど意味がありません。もちろん温暖化しないほうがいいのですが、日本でそれを防ぐコストは非常に高いので、割に合わないのです。
CO2排出が急激に増えているのも途上国です。日本の省エネ技術は1970年代の石油危機から蓄積され、世界最高の水準なので、無理してCO2を減らすより、途上国に技術援助をしたほうがいいのです。大気汚染も減り、経済成長にも貢献するでしょう。堤防などのインフラ整備は、CO2削減より今すぐ直接の効果があります。
地球温暖化が起こっていることは事実ですが、それは先進国では小さな問題です。途上国にとっては長期的には大きな問題ですが、いま緊急の問題は感染症や食糧不足であり、その原因は貧しさです。大事なのは100年後の気温を下げることではなく、いま豊かになることなのです。

関連記事
-
東北電力についでBWR2例目の原発再稼動 2024年12月23日、中国電力の唯一の原子力発電所である島根原子力発電所2号機(82万kW)が発電を再開しました(再稼働)。その後、2025年1月10日に営業運転を開始しました
-
田中 雄三 温暖化は確かに進行していると考えます。また、限りある化石燃料をいつまでも使い続けることはできませんから、再生可能エネルギーへの転換が必要と思います。しかし、日本が実質ゼロを達成するには、5つの大きな障害があり
-
COP26が閉幕した。最終文書は「パリ協定の2℃目標と1.5℃の努力目標を再確認する」という表現になり、それほど大きく変わらなかった。1日延長された原因は、土壇場で「石炭火力を”phase out”
-
GPIFがサステナ投資方針を月末公表へ、ESGの姿勢明確化―関係者 ブルームバーグ 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、サステナビリティー(持続可能性)投資に関する方針を初めて策定し、次期基本ポートフォリオ(資
-
バイデン政権は温暖化防止を政権の重要政策と位置づけ、発足直後には主要国40ヵ国の首脳による気候サミットを開催し、参加国に2050年カーボンニュートラルへのコミットや、それと整合的な形での2030年目標の引き上げを迫ってき
-
英国ではボリス・ジョンソン保守党政権が脱炭素(ネット・ゼロ)政策を進めている。だが、家庭用のガス使用禁止やガソリン自動車の禁止等の具体的な政策が明らかになるにつれ、その莫大な経済負担を巡って、与党内からも異論が噴出してい
-
なぜ、公共メディアも主要メディアも沈黙を保っているのか? 憲法擁護庁という名のいわば国内向けの秘密警察が、目障りで強力な政敵であるAfDを“合法的”に片付けてしまおうとしているのに、エリートメディアのジャーナリストたちは
-
地球が将来100億人以上の人の住まいとなるならば、私たちが環境を扱う方法は著しく変わらなければならない。少なくとも有権者の一部でも基礎的な科学を知るように教育が適切に改善されない限り、「社会で何が行われるべきか」とか、「どのようにそれをすべきか」などが分からない。これは単に興味が持たれる科学を、メディアを通して広めるということではなく、私たちが自らの財政や家計を審査する際と同様に、正しい数値と自信を持って基礎教育を築く必要がある。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間