国の46%削減=電力のCO2排出係数46%減ではない

Olivier Le Moal/iStock
各社のカーボンニュートラル宣言のリリース文を見ていると、2030年時点で電力由来のCO2排出量が46%近く減ることを見込んでいる企業が散見されます。
先日のアゴラで、国の2030年目標は絶望的なのでこれに頼る中期計画が経営として適切かという記事を3本書きましたが(拙稿①、②、③)、仮に国の46%削減が達成されたとしても購入電力由来のCO2排出量が46%近く減ると見込むのは将来に向けて大きなリスクを抱え込むことになります。
かつて京都議定書の際に大半の日本企業が苦い経験をしたはずなのですが、たった10年前の出来事が企業内部で継承されていないのかもしれません。
京都議定書第一約束期間は2008年~2012年の5カ年平均で1990年比6%削減という目標でした。国としては目標を達成しましたが、これは森林吸収源とクレジット取得によってCO2排出量を相殺したものでした(図1)。

図1:京都議定書の達成状況
出典:環境省
発電電力量は減少傾向だったものの(図2)CO2排出係数が2011年、2012年と極端に悪化してしまい(図3)、最後の2年間でCO2排出量が大幅に増加しました。図1の通り、実際の排出量では単年ですら6%削減を一度も達成できなかったのです。

図2:発電電力量の推移
出典:環境省

図3:CO2排出係数の推移
出典:環境省
2012年当時、企業個社でも同じ現象(自社の電力量は削減できたがCO2排出量は急増)が起きてしまい、日本中で環境・CSR部門の担当者が頭を抱えました。しかも多くの企業が環境中期計画の最終年を京都議定書に合わせて2012年に設定していたため、中計未達となった企業が続出しました。
第6次エネルギー基本計画で示された2030年の電源構成も実現は極めて困難なことが予想されることから、今回もクレジット購入などで辻褄合わせが行われるかもしれません。見かけ上は46%削減を達成できたとしても、国内のCO2排出量および電力のCO2排出係数は下がらず京都議定書と同じ歴史を繰り返す可能性があります。
省エネや再エネ導入など自助努力で達成可能な中期計画であればよいのですが、購入電力のCO2排出係数が46%程度下がることを前提としている場合は大きなリスクを抱え込むことになってしまいます。ご担当者は早めに計画を見直した方がよいかもしれません。
■

関連記事
-
森喜朗氏が安倍首相に提案したサマータイム(夏時間)の導入が、本気で検討されているようだ。産経新聞によると、議員立法で東京オリンピック対策として2019年と2020年だけ導入するというが、こんな変則的な夏時間は混乱のもとに
-
全国知事会が「原子力発電所に対する武力攻撃に関する緊急要請」を政府に出した。これはウクライナで起こったように、原発をねらって武力攻撃が行われた場合の対策を要請するものだ。 これは困難である。原子力規制委員会の更田委員長は
-
次にくる問題は、国際関係の中での核燃料サイクル政策の在り方の問題である。すなわち、日本の核燃料サイクル政策が、日本国内だけの独立した問題であり得るかという問題である。
-
政府は内閣府に置かれたエネルギー・環境会議で9月14日、「2030年代に原発の稼動をゼロ」を目指す新政策「革新的エネルギー・環境戦略」をまとめた。要旨は以下の通り。
-
加速するドイツ産業の国外移転 今年6月のドイツ産業連盟(BDI)が傘下の工業部門の中堅・中手企業を相手に行ったアンケート調査で、回答した企業392社のうち16%が生産・雇用の一部をドイツ国外に移転することで具体的に動き始
-
筆者は繰り返し「炭素クレジット=本質的にはグリーンウォッシュ」と指摘してきました。そこで、筆者のグリーンウォッシュ批判に対して炭素クレジット推奨側が反論するために、自身がESGコンサルの立場になって生成AIと会話をしてみ
-
オーストラリア海洋科学研究所が発表した、グレートバリアリーフのサンゴの被覆面積に関する最新の統計は、グレートバリアリーフの滅亡が間近に迫っているという、60年にわたる欠陥だらけの予測に終止符を打つものだ ピーター・リッド
-
6月30日記事。環境研究者のマイケル・シェレンベルガー氏の寄稿。ディアプロ・キャニオン原発の閉鎖で、化石燃料の消費が拡大するという指摘だ。原題「How Not to Deal With Climate Change」。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間