温暖化の科学は決着などしていない:『気候変動の真実』
以前紹介したスティーブン・クーニン著の「Unsettled」の待望の邦訳が出た。筆者が解説を書いたので、その一部を抜粋して紹介しよう。
スティーブン・クーニンは輝かしい経歴の持ち主で、間違いなく米国を代表する科学者の1人である。世界最高峰のカリフォルニア工科大学で筆頭副学長までつとめた。伝説の研究者団体JASONの会長も務めた。コンピューターモデルによる物理計算の権威でもある。
温暖化対策に熱心な米国民主党のオバマ政権では、エネルギー省の科学次官に任命されていて、気候研究プログラムも担当した。
クーニンに対して、非専門家だとか、政治的な動機による温暖化懐疑派だとかする批判は出来ようが無い。
政治的な動機だけいえば、本書で書いてあるように、むしろクーニンは多くの政策において民主党を支持している。ならば、党派性からいえばむしろ気候危機説を煽るほうになる。
私利私欲だけを考えるなら、クーニンがこの本を著したのはまったく愚かなことだ。これだけの経歴があれば、かりに気候危機説に対して違和感を持ったとしても、適当に同調したり、口をつぐんでさえいれば、悠々と暮らすことが出来る。
そのクーニンが「気候危機説は捏造だ」と喝破したのがこの本だ。
原文のタイトル「Unsettled」とは、温暖化の科学は「決着していない」、という意味だ。
この本の見解は
- もともと気候は自然変動が大きい。
- ハリケーンなどの災害の激甚化・頻発化などは起きていない。
- 数値モデルによる温暖化の将来予測は不確かだ。
- 大規模なCO2削減は現実的ではなく、自然災害への適応が効果的だ
といったものだ。
じつはこれはこれまで「懐疑派」と呼ばれて迫害されてきた研究者たちが書いてきたことと、内容的にはほぼ重なる。
謝辞でも言及されているジョン・クリスティやウィリアム・ハパーらは、逆風をものともせず、堂々と気候危機説への懐疑を繰り広げてきた。
本書は、これらの人々の研究成果も織り交ぜつつ、国連や米国の報告書において気候変動に関する「ザ・科学」がいかに捻じ曲げられているか、綿密な検証をもとに論じている。(ちなみに日本の環境白書でも科学は大きく捻じ曲げられている注1)。)
可能な限り平易に書いてあるけれども、問題の複雑さから逃れようとはしない。したがって読むのはかなり大変だが、その価値はある。
災害に関する統計や報道は歪められて、気候危機があると説得するための材料にされている。
温暖化予測に用いる数値モデルは、雲に関するパラメーター等の設定に任意性があり、観測で決めることが出来ない。このパラメーターをいじって地球の気温上昇の大きさを操作する「チューニング(調整)」という慣行がある。クーニンはこれを解説した上で「捏造である」と喝破している。
クーニンの執筆動機ははっきりしている。科学が歪められ、政治利用されていることに我慢がならないのだ。温暖化の科学は決着しており唯一の「ザ・科学」が存在するという見解は間違っている。「気候危機だ」と煽り立てるのは政治が科学を用いる方法として間違っている。何よりも、国連や米国の報告書が、科学的知見を歪めて報告していることに憤っている。
クーニンは物理学者ファインマンに憧れてカルフォルニア工科大学に入学した。物理学出身者には、本書でも登場する同大学の故フリーマン・ダイソンを含め、温暖化の「ザ・科学」に批判的な研究者が多い。
私事ながら小生も物理学出身で、そこで批判精神をおおいに学んだ。そのおかげで気候危機説に疑問を持つようになり、クーニンと全く同じ動機を持ってあれこれ調べ初め、全く同じ見解に達した。本書でクーニンが言っていることに違和感は何一つ無かった。
なぜ温暖化の科学は歪められ、政治利用されるのか。クーニンは、メディア、研究者、研究機関、NGO、政治家などが、それぞれの動機で動いた結果、意図せざる共謀が起きていると指摘している。
センセーショナルな見出しでとにかく注意を引きたいメディア、メディア報道が成果にカウントされて予算獲得や出世につながる研究者、危機を煽って収益につなげたいNGO,危機対策のリーダーとして振舞うことで得票を狙う政治家などだ。この意図せざる共謀の構図は日本でも全く同じである。。。 とても良い本なので、ぜひ、読んでください!
注1)「気候危機」を唱道する環境白書 根拠なく危機あおることへの違和感 (杉山大志 エネルギーフォーラム 2020年9月号)
■
関連記事
-
ICRP勧告111「原子力事故または放射線緊急事態後における長期汚染地域に居住する人々の防護に対する委員会勧告の適用」(社団法人日本アイソトープ協会による日本語訳、原典:英文)という文章がある。これは日本政府の放射線防護対策の作成で参考にされた重要な文章だ。そのポイントをまとめた。
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンク、GEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。 今週のアップデート 1)核燃料サイクルに未来はあるか 池田信夫アゴラ研究所所長の論考です
-
今年の8月初旬、韓国の電力需給が逼迫し、「昨年9月に起こった予告なしの計画停電以来の危機」であること、また、過負荷により散発的な停電が起こっていることが報じられた。8月7日の電気新聞や9月3日の日本経済新聞が報じる通り、8月6日、夏季休暇シーズンの終了と気温の上昇から供給予備力が250万キロワット以下、予備率が3%台となり、同国で需要想定と供給責任を担う韓国電力取引所が5段階の電力警報のうち3番目に深刻な状況を示す「注意段階」を発令して、使用抑制を呼びかけたという。
-
環境教育とは、決して「環境運動家になるよう洗脳する教育」ではなく、「データをきちんと読んで自分で考える能力をつける教育」であるべきです。 その思いを込めて、「15歳からの地球温暖化」を刊行しました。1つの項目あたり見開き
-
福島の原発事故から4年半がたちました。帰還困難区域の解除に伴い、多くの住民の方が今、ご自宅に戻るか戻らないか、という決断を迫られています。「本当に戻って大丈夫なのか」「戻ったら何に気を付ければよいのか」という不安の声もよく聞かれます。
-
カリフォルニア州でディアブロ・キャニオン原発が2025年までに停止することになった。これをめぐって、米国でさまざまな意見が出ている。
-
Climate activist @GretaThunberg addresses crowd at #FridaysForFuture protest during #COP26 pic.twitter.com/2wp
-
「福島後」に書かれたエネルギー問題の本としては、ヤーギンの『探求』と並んでもっともバランスが取れて包括的だ。著者はカリフォルニア大学バークレーの物理学の研究者なので、エネルギーの科学的な解説がくわしい。まえがきに主要な結論が列記してあるので、それを紹介しよう:
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間