地球温暖化対策計画案の論点と第7次エネルギー基本計画案に欠けているもの

2025年01月22日 06:45
アバター画像
国際環境経済研究所主席研究員

gyro/iStock

新たなエネルギー政策案が示す未来

昨年末も押し迫って政府の第7次エネルギー基本計画案、地球温暖化対策計画案、そしてGX2040ビジョンという今後の我が国の環境・エネルギー・産業・経済成長政策の3点セットがそれぞれの審議会で取りまとめられ、公表された。

目下1月26日まで、これらの政策案についてパブリックコメントが行われているが、地球温暖化対策案では2035年にむけてわが国が国連に来月にも提出するNDC(Nationally Determined Commitment)の数字の案が示されている。

第7次エネルギー基本計画(案)に対するパブリックコメント(意見募集)

目標設定を巡る議論と国際情勢の変化

政府案では、2013年から2050年ネットゼロに向けて直線で結んだ線上にある2013年比60%削減とするとしているのだが、委員会での議論の過程ではそれより野心的で大きな削減率(66%以上)となる下に凸の削減パスにするか、革新的な削減技術の開発・実用化を待って、より現実的な上に凸のパスにするべきかで議論が紛糾し、パブコメの場でもそれぞれの主張が多く寄せられることが予想される。

しかし世界の趨勢をみると、従来野心的な削減目標を掲げてきた先進国の間でも米国が返り咲いたトランプ大統領の下でパリ協定から離脱を決め、NDCを撤回して化石燃料を掘って掘って掘りまくる(Drill Baby Drill)政策に転換して、主要国間で最も安いエネルギーコストのさらなる低減を進めていくことが確実な情勢となっている。

一方、従来再エネ、非化石エネルギーへの転換と脱炭素化を強く推し進めてきた欧州が、ロシア・ウクライナ紛争の中で安価なロシア産天然ガスへのアクセスが閉ざされた結果、エネルギーコストの上昇により産業の空洞化と社会(有権者)の反発を招いた結果、選挙で右派・極右勢力の台頭をもたらし、従来の環境最優先の政策の継続が危ぶまれている中、日本だけがこうした世界の趨勢から取り残されたように、従来にならって野心的な削減目標(60%削減を上回る下に凸の目標)を掲げるなどという「自爆テロ」は絶対に避けるべきである。

ここは2050年にカーボンニュートラルを目指すという理想に沿った直線的な径路(IPCCの1.5℃シナリオに整合している)をそれが実現できるかどうか予断を示さない形で一旦掲げるべきだろう。もちろん現在の技術でそれを実現する政策や道筋は描けないのだが、それを可能とするために必要な革新技術開発を推し進める、といった形で、「技術」の野心度を高く掲げたNDCとしておき、実際には今後の世界の趨勢を慎重に見極めて順次見直していくのが上策というものであろう。

この論点は本稿の読者の皆様もぜひともパブコメで指摘していただきたいポイントである。

※ ちなみに地球温暖化対策計画案に対するパブコメ提出の仕方は以下を参照いただきたい。(締め切りは1月26日)

「地球温暖化対策計画(案)」に対する意見募集について

原子力の活用とエネルギー安全保障

一方、第7次エネルギー基本計画案であるが、P33~41にかけて我が国のエネルギー安全保障、エネルギーコストの抑制に関する原子力の必要性・重要性を再認識し、最大限活用していくことが詳細かつ明確に謳われていることは、我が国の産業・経済にとって死活的に重要なポイントであり、特に原発を有する会社の敷地をまたいだ建て替え、新設を可能とする政策、次世代原子力の開発、実用化を進めていくことが明示されている(P40)ことも、まことに重要かつ欠くべからざる政策であって、今回の基本計画案の肝となっている。

加えて、今回の基本計画案では経済効率性に焦点を当てて、P15で

「今後、さらなる脱炭素化を進めていく上では、エネルギーコストの上昇も想定されるが、エネルギー多消費産業を中心とする製造業では、国際的に遜色のない価格でエネルギー供給が行われるかが重要な要素となる。」

としていて、これはまことにもっともな論点である。実際、欧州では再エネ普及や排出権取引制度などの脱炭素化政策の結果、域内エネルギーコストの上昇を招き、産業の空洞化・リーケージを招いて社会の不安定化が深刻になっている。

またわが国でもこの10年あまりの温室効果ガス排出削減実績は、2030年のNDC(46%削減)実現に向けてオントラックとされているものの、その削減に実際に貢献しているのは東日本大震災で停止していた原発の再稼働が進んでいる効果とともに、鉄鋼をはじめとしたエネルギー多消費産業の活動量(生産量)低下による排出削減効果が大きく、実際には欧州の轍を踏み始めている兆候との指摘もある。

このように産業生産活動が国外に移転し、あるいは国内産業が国際的な競争力を失って輸入品に代替が進むことが、手っ取り早く日本の排出削減を進める道であるが、それは日本社会の窮乏化による排出削減であり、政府の掲げるGX戦略による経済成長とは決して両立せず、欧州同様に日本社会の不安定化、不安拡大に繋がり、決してサステナブルな道筋にはならない。

それに加えて、世界的に比較してエネルギー原単位とそれに付随したCO2原単位が相対的に低い日本の産業生産活動が縮小し、より原単位の悪い海外製品に置き換わることは、世界的に見てCO2排出増(いわゆるリーケージ)を招き、温暖化対策にも逆行する結果を招くことになり、気候変動対策になりえないのである。

そうであるとすると、実は今回のエネルギー基本計画案で先に引用した経済効率性の確保に関する記述

「エネルギー多消費産業を中心とする製造業では、国際的に遜色のない価格でエネルギー供給が行われるかが重要な要素となる。」

は、日本の産業競争力を維持し、相対的に排出原単位の低い生産によって気候変動対策に貢献するうえで、実は極めて重要な必要条件なのだが、本計画では「国際的に遜色のないエネルギー価格」とはいったいどんな水準なのか、それは何をベンチマークとするのかといった指標に関する具体的な記述はなく、またそれを遜色ない水準に担保するための具体的な政策措置についてもどこにも規定されていない。

再エネ拡大の課題とエネルギーコストのトレードオフ

本計画の検討をおこなった基本政策分科会で紹介された発電コスト検証、特に変動性再エネ(太陽光、風力)の大量導入時に必然的に発生する外部不経済を統合した実用上のコストのシミュレーションでは、変動性再エネのシェアが拡大するに伴い急激に統合コストが上昇することが示されている。

すなわち、変動性再エネによるエネルギーの脱炭素拡大とエネルギーコストの間には明確なトレードオフがあることが明らかになっている中で、いかにして国際的の遜色のないエネルギー価格を担保するかが、実は本基本計画の最大の政策課題の一つになるのは明らかであり、それが今回示されていないのは片手落ちである。

従って今回の計画案には記載されていないものの、本計画の実施期間中に、何をベンチマークにどういった水準のエネルギー価格を目指すか、トレードオフを克服してそれを実現するための具体的な政策手段をどうするべきかといった課題について、徹底的に検討・議論して、結論を出すことを本計画の中でもきちんと位置づけていただくように要望したい。

This page as PDF
アバター画像
国際環境経済研究所主席研究員

関連記事

  • GEPRフェロー 諸葛宗男 今、本州最北端の青森県六ケ所村に分離プルトニウム[注1] が3.6トン貯蔵されている。日本全体の約3分の1だ。再処理工場が稼働すれば分離プルトニウムが毎年約8トン生産される。それらは一体どのよ
  • 北朝鮮の1月の核実験、そして弾道ミサイルの開発実験がさまざまな波紋を広げている。その一つが韓国国内での核武装論の台頭だ。韓国は国際協定を破って核兵器の開発をした過去があり、日本に対して慰安婦問題を始めさまざまな問題で強硬な姿勢をとり続ける。その核は実現すれば当然、北だけではなく、南の日本にも向けられるだろう。この議論が力を持つ前に、問題の存在を認識し、早期に取り除いていかなければならない。
  • 東日本大震災以来進められてきた「電力システム改革」は、安定供給を維持しつつ、事業者間での競争を導入することで電気料金が下がるという約束で始まったはずである。 だが現実は違った。家計や企業の負担は重いまま、節電要請は何度も
  • 先日、欧州の排出権価格が暴落している、というニュースを見ました(2022年3月4日付電気新聞)。 欧州の排出権価格が暴落した。2日終値は二酸化炭素(CO2)1トン当たり68.49ユーロ。2月8日に過去最高を記録した96.
  • 11月24日付Bloombergに「Top-Selling Climate Funds Fail to Deliver on Carbon Emissions」という記事が出ていました。以下、要約します。 Investm
  • 前橋地裁判決は国と東電は安全対策を怠った責任があるとしている 2017年3月17日、前橋地裁が福島第一原子力発電所の原発事故に関し、国と東電に責任があることを認めた。 「東電の過失責任」を認めた根拠 地裁判決の決め手にな
  • 「ブラックアウト・ニュース」はドイツの匿名の技術者たちがドイツの脱炭素政策である「エネルギーヴェンデ(転換)」を経済自滅的であるとして批判しているニュースレター(ドイツ語、一部英語、無料)だ。 そのブラックアウト・ニュー
  • グレタ・トゥーンベリの演説を聞いた人は人類の絶滅が迫っていると思うかもしれないが、幸いなことにそうではない。25日発表されたIPCCの海洋・雪氷圏特別報告書(SROCC)では、従来の気温上昇予測(第5次評価報告書)にもと

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑