「GX債をカーボンプライシングで償還」は論理破綻

2022年11月03日 06:40
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

bee32/iStock

岸田首相肝いりのGX実行会議(10月26日)で政府は「官民合わせて10年間で150兆円の投資でグリーン成長を目指す」とした。

政府は2009年の民主党政権の時からグリーン成長と言っていた。当時の目玉は太陽光発電の大量導入だった。だが結果として、いま年間3兆円近くの再生可能エネルギー賦課金が国民負担となっている。経済成長どころではない。

さていま日本政府は20兆円の「GX経済移行債」を原資にグリーン技術に投資することに加え、さらに130兆円の民間投資を「規制と支援を一体として促進する」としている。民間がどの技術に投資するかを政策で決めるという訳だ。これは太陽光発電を強引に導入してきたのと同じことを何倍にもするという意味だ。まるで社会主義である。

いまリストアップされている技術は洋上風力や水素利用などだ。これは、万事順調に技術開発が進んだとしても、既存技術に比べて大幅に高コストになる。光熱費はどこまで上がるのか。

政府はこれら技術の既存技術との価格差の補填までするという。これでは日本はますます高コスト体質になる。150兆円の投資というが、それは国民負担になる。経済成長に資するはずが無い。

のみならず、政府はGX債20兆円を起債するにあたり「カーボンプライシングで償還」することを検討している。この意味は、炭素税の税収か、あるいは政府による排出権の売却収入で償還するということだ。

しかしこれは論理的に破綻している。

そもそも国債というのは、それを原資に経済成長をもたらし、所得税や法人税などによる税収増をもたらし、一般財源で償還すべきものだ。建設国債はこの論理に基づいている。

つまり国債とは、本来は、新しい財源を必要とするものではない。

「GX債」も、その起債によるグリーン投資が政府の主張するように本当に経済成長をもたらすのであれば、所得税や法人税などの税収が増えるので、一般財源で償還できるはずだ。

ここで政府が、「償還のために新しい財源が必要」と言っていること自体が、じつは政府主導のグリーン投資による経済成長など信じていない、という自己否定になっている。

明らかな事は、環境税や排出権取引制度を導入すると、日本の製造業はますます疲弊することだ。論理破綻に基づくカーボンプライシングは阻止せねばならない。

キヤノングローバル戦略研究所_杉山 大志』のチャンネル登録をお願いします。

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • アゴラチャンネルで池田信夫のVlog、「トヨタが日本を出て行く日」を公開しました。 ☆★☆★ You Tube「アゴラチャンネル」のチャンネル登録をお願いします。 チャンネル登録すると、最新のアゴラチャンネルの投稿をいち
  • 「ブラックアウト・ニュース」はドイツの匿名の技術者たちがドイツの脱炭素政策である「エネルギーヴェンデ(転換)」を経済自滅的であるとして批判しているニュースレター(ドイツ語、一部英語、無料)だ。 そのブラックアウト・ニュー
  • この原稿はロジャー・ピールケ・ジュニア記事の許可を得た筆者による邦訳です。 欧州の天然ガスを全て代替するには、どれだけの原子力が必要なのか。計算すると、規模は大きいけれども、実行は可能だと分かる。 図は、原子力発電と天然
  • 日米の原子力には運転データ活用の面で大きな違いがある。今から38年前の1979年のスリーマイル島2号機事故後に原子力発電運転協会(INPO)が設立され、原子力発電所の運転データが共有されることになった。この結果、データを
  • 東京都の資料「2030年カーボンハーフに向けた取り組みの加速」を読んでいたら、「災害が50年間で5倍」と書いてあった: これを読むと、「そうか、気候変動のせいで、災害が5倍にも激甚化したのか、これは大変だ」という印象にな
  • 前回予告したように、エネルギー・環境会議コスト等検証委員会での議論の問題点を考えてみよう。もともと低すぎるではないかとの批判が強かった原子力発電のコストを再検証しつつ、再生可能エネルギーの導入を促進するために、再生可能エネルギーのコストを低めに見積もるという政策的結論ありきで始まったのだろうと、誰しもが思う結果になっている。
  • GEPRを運営するアゴラ研究所は毎週金曜日9時から、アゴラチャンネル でニコニコ生放送を通じたネットテレビ放送を行っています。2月22日には、元経産省の石川和男氏を招き、現在のエネルギー政策について、池田信夫アゴラ研究所所長との間での対談をお届けしました。
  • 2015年2月3日に、福島県伊達市霊山町のりょうぜん里山がっこうにて、第2回地域シンポジウム「」を開催したのでこの詳細を報告する。その前に第2回地域シンポジウムに対して頂いた率直な意見の例である。『食べる楽しみや、郷土の食文化を失ってしまった地元民の悲しみや憤りは察してあまりある。しかし、その気持ちにつけこんで、わざわざシンポジウムで、子供に汚染食品を食べるように仕向ける意図は何なのか?』

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑