超過死亡数を見ると地球温暖化は健康に良いとしか思えない
コロナの御蔭で(?)超過死亡という言葉がよく知られるようになった。データを見るとき、ついでに地球温暖化の健康影響についても考えると面白い。温暖化というと、熱中症で死亡率が増えるという話ばかりが喧伝されているが、寒さが和らげば、健康には良いのではないか?
欧州
まずは欧州のデータを見てみよう:

図1 欧州全体の死亡数の推移。データはEuromomo
横軸は時間、縦軸は欧州全体の死亡数である。2020年前半のピークでは明らかに死亡数が他の年よりも増えていた。つまり超過死亡がはっきりと存在した。コロナの影響はやはり大きかったと解る。
もう1つ注目すべきは、常に夏の方が冬よりも死亡数が少ないことだ。つまり寒さの方が、暑さよりも怖いのだ。ならば温暖化した方が、健康に良く、長生き出来そうだ。
ところで欧州の2018年は猛暑だったとされる。だが死亡数を見ると、全然他の年と区別がつかないし、普通の冬よりもよほど死亡数が少ない。
スペイン
ただし国別にみると、猛暑の影響を見て取れることもある。図2はスペインの例である。
スペインでは2018年夏の猛暑では確かに死亡数が多かったようだ。だがそれでも、毎年の冬の死亡数よりはよほど少ない。普通の冬の方が、猛暑よりもよほど怖いのだ。
けれども、猛暑で死者数が顕著に増えたとなると、地球温暖化のせいだと思った人も多かっただろう。欧州で「2050年までにCO2ゼロ」といった極端な温暖化対策が流行りだした背景には、このような事情があった。
ただし勿論、以前にこのコラムでも述べた様に、猛暑は地球温暖化のせいでは無く、自然変動と都市熱が原因である。
なおスペインでも、コロナによる超過死亡は、2020年前半にはっきり見えている。
日本
では日本はどうだろうか。

図3 日本全国の死亡者数の推移。データ:国立感染症研究所。オレンジ色の線が統計的な期待値、緑色の線は自然変動の範囲(95%信頼区間)
コロナについて日本では、幸いなことに、この図からは全く超過死亡は読み取れない。あったとしても、欧州に比べるとごく僅かだということだ。
その一方で、毎年夏には死亡数が減り、冬には死亡数が増えているのは、欧州と同じ傾向である。
猛暑だったとされる2018年夏を見ても、他の年と死亡数は変わらないし、その前後の冬よりは明らかに死亡数が少ない。
日本では寒くなると、呼吸器系疾患や循環器系疾患が増えて、死亡数も増える。これは直観的にも納得がいく。
以上から分かったことをまとめておこう
- コロナによる超過死亡は、欧州では大幅に増えた。それに比べると、日本では増えたとしても僅かであった。
- 日本では猛暑の年でも死亡数は殆ど増えていない。
- 日本でも欧州でも、冬の死亡数の方が、夏よりもかなり多い。これは猛暑でも変わらない。
このように見てくると、地球温暖化や都市熱で気温が上がると、健康に良く、寿命も延びるのではないか、と思えてくる。
なお季節別の超過死亡について、より専門的な分析は、以前にファクトシートとしてまとめたので参照されたい。

関連記事
-
元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 最近流れたニュース「MITが核融合発電所に必要となる「超伝導電磁石の磁場強度」で世界記録を更新したと報告」を読んで、核融合の実現が近いと思った方も多いかと思うが、どっこい、そん
-
はじめに アメリカがプルトニウムの削減を求めてきたとの報道があってプルトニウムのことが話題になっている。まず、日本がなぜプルトニウムを生産するのかを説明する。もちろん、高速炉が実用化されたらプルトニウムを沢山使うようにな
-
シンクタンク「クリンテル」がIPCC報告書を批判的に精査した結果をまとめた論文を2023年4月に発表した。その中から、まだこの連載で取り上げていなかった論点を紹介しよう。 ■ IPCCでは北半球の4月の積雪面積(Snow
-
2025年までに1000億ドルに成長すると予測されるバッテリー産業だが、EVの「負債」について複数の報告書で取り上げられていた。 (前回:「2035年の新車販売はEV!」への邁進は正しい選択なのか?①) グリーンエネルギ
-
4月の半ばにウエッジ社のウエブマガジン、Wedge Infinityに「新聞社の世論調査の不思議さ 原子力の再稼働肯定は既に多数派」とのタイトルで、私の研究室が静岡県の中部電力浜岡原子力発電所の近隣4市で行った原子力発電に関するアンケート調査と朝日新聞の世論調査の結果を取り上げた。
-
米国ラムスセン社が実施したアンケート調査が面白い。 一言で結果を言えば、米国ではエリートはCO2の規制をしたがるが、庶民はそれに反発している、というものだ。 調査は①一般有権者(Voters)、②1%のエリート、③アイビ
-
菅直人元首相は2013年4月30日付の北海道新聞の取材に原発再稼働について問われ、次のように語っている。「たとえ政権が代わっても、トントントンと元に戻るかといえば、戻りません。10基も20基も再稼働するなんてあり得ない。そう簡単に戻らない仕組みを民主党は残した。その象徴が原子力安全・保安院をつぶして原子力規制委員会をつくったことです」と、自信満々に回答している。
-
昨年の福島第一原子力発電所における放射性物質の流出を機に、さまざまなメディアで放射性物質に関する情報が飛び交っている。また、いわゆる専門家と呼ばれる人々が、テレビや新聞、あるいは自らのブログなどを通じて、科学的な情報や、それに基づいた意見を発信している。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間