ムクゲノ花ガ咲キマシタ:韓国の核武装

Perytskyy/iStock
核武装は韓国の正当な権利
昨今の国際情勢を受けてまたぞろ韓国(南朝鮮)の核武装論が鎌首をもたげている。
この問題は古くて新しい問題である。遅くとも1970年代の朴正煕大統領の頃には核武装への機運があり、国際的なスキャンダルにもなった。
今次は、米国の学者が東アジアの軍事的バランスを正当に評価すれば〝韓国には核不拡散防止条約(NPT)を脱退して核武装する権利がある〟といった主張を公にしている。従来とはやや趣が異なる。
米国からの追い風:融けていくNPT体制
このような論を展開しているのは米国ダートマス大学グローバルセキュリティ研究所のダリル・プレス教授である。政府筋とも関係の深い学者のようである。
韓国のお隣の北朝鮮は、すでに事実上の核保有国であり、最近とみに大陸間弾道弾の長距離ミサイルのみならず、短中距離ミサイルの開発にも血道を上げ発射実験を繰り返している。この結果、高性能小型核弾頭の開発に加えて、運搬手段である各種ミサイルも完成の域に達したとみるべきである。
このように北朝鮮の核武装能力が増強されたことによって、北東アジアの軍事バランスが歪んできている。
プレス氏は、米国の国防総省系のメディアであるVOA(ボイスオブアメリカ)において、「韓国は核拡散防止条約(NPT)を批准しており、非核兵器国として核兵器に関わる研究開発をしたり獲得したりしないという約束をしてきた。しかし、自国の安全保障を重大な危機に陥れる非常に稀な状況が発生した場合、NPTを脱退する権利を保障されていると」という趣旨を明らかにした。(VOA Korea 2022年12月23日)
核大国であり、世界で最初に核開発を行い、NPT体制を主導してきた米国政府の学術顧問的な立場からの韓国の核武装の正当性を誘出する論である。歴史的に核開発に潜在的な意欲を見せてきた韓国にとっては、追い風のような論なのである。
ムクゲノ花ガ咲キマシタとBTS:韓国人の〝核〟観
北朝鮮民族のみならず韓民族にとって〝核〟とは一体何なのか・・・『第二次世界大戦末期に米国が降下した広島・長崎の原爆が、日帝の植民地支配から民族を解放した』という善なる側面を持っているのである。
北朝鮮の核開発の始祖の一人である李升基(イ・スンギ)について、かつて私はその人柄に触れたことがある。彼は日帝支配下で全羅南道の故郷から京都大学に入学して、戦時中からの壮絶な苦学の末ノーベル賞にも値するともされる研究成果をあげた。日帝支配が解けて韓国に帰国したが、朝鮮戦争後に義憤に駆られて北朝鮮に入り仲間の研究者とともに北朝鮮の核開発に先鞭をつけた。
であるから、同様の心情は当たり前のように韓民族の間にも息づいて来ている。
『ムクゲノ花ガ咲キマシタ』は1993年に韓国で発売された小説である。映画化もされている。韓国の実在した天才物理学者の謎の死を巡って、朴政権時代の韓国の核開発を追う展開のフィクションである。

dzika_mrowka/iStock
〝ムクゲノ花ガ咲キマシタ〟とは韓国の国花であるムクゲを原爆に見立てて、〝核攻撃のゴーサイン〟を意味する。南北が共同して日本に核攻撃を仕掛けるという筋立てである。この小説は発売から1年で300万部以上を売り上げたという脅威的な記録を持つ。そこに韓国人の核観を見てとるのは自然なことではないだろうか。
比較的最近では2018年にKポップグループ・防弾少年団(BTS)のメンバーが、日本への原爆投下を描いたTシャツを着た姿がSNS上で拡散され、TV出演がキャンセルされるなど大変な物議を醸した。
私が言いたいのは、韓国人の核観は日本人とはかなり違う。そして核開発ではるかに前を進んでしまった北朝鮮には極めてアンビバレントな感情を持っているということである。
仮に将来いつの日にか分断国家の統合があるとすれば、民族の主体性の名の下に事実上の核保有国である北朝鮮を基軸にした統合ともなりかねない——そう思うのは私だけだろうか?
日本はどうするのか
日本はNPT体制の超優良生であり、政府はあいも変わらず〝NPT体制堅持〟の方針である——誠に善きことかな、と思う。しかし、〝韓国には核不拡散防止条約(NPT)を脱退して核武装する権利がある〟という論はそのままそっくり日本にも当てはまるのではないか。
日本の核武装論はいつまでたってもそのベースが感情論であり、具体的な制度の変容の可能性とそれに伴い発生する科学技術的な可能性と責任という視点も含めた議論がなされてきていない。
この問題にもっと正面から真面目に取り組まなければ、国家の安全保障は成り立たない。そうなればエネルギー安全保障も経済安全保障も砂上の楼閣にすぎなくなってしまう。
関連記事
-
東日本大震災から2年。犠牲者の方の冥福を祈り、福島第一原発事故の被害者の皆さまに心からのお見舞いを申し上げます。
-
ICRP勧告111「原子力事故または放射線緊急事態後における長期汚染地域に居住する人々の防護に対する委員会勧告の適用」(社団法人日本アイソトープ協会による日本語訳、原典:英文)という文章がある。これは日本政府の放射線防護対策の作成で参考にされた重要な文章だ。そのポイントをまとめた。
-
(前回:米国の気候作業部会報告を読む⑨:それは本当にCO2のせいですか) 気候危機説を否定する内容の科学的知見をまとめた気候作業部会(Climate Working Group, CWG)報告書が2025年7月23日に発
-
東京都が水素燃料電池タクシー600台の導入目標(2030年度)を掲げた。補助金も手当されるという。 燃料電池商用モビリティをはじめとした「水素を使う」アクションを加速させるプロジェクト発表会及びFCタクシー出発式 だがこ
-
田中 雄三 中所得国の脱炭素化障害と日本の対応 2021年5月にGHGネットゼロのロードマップを発表したIEAは、「2050年ネットゼロ エミッションへの道のりは狭く、それを維持するには、利用可能なすべてのクリーンで効率
-
「炭素は消えるのではなく、形を変えて留まる」——前稿ではバイオ炭を例に、この直感に触れた。木質バイオマスは燃やされて消えてしまうのではなく、炭化することで土壌の中に長く留まり、微生物の棲み処となって、生態系そのものを豊か
-
欧州委員会は1月1日、持続可能な経済活動を分類する制度である「EUタクソノミー」に合致する企業活動を示す補完的な委任規則について、原子力や天然ガスを含める方向で検討を開始したと発表した。 EUタクソノミーは、EUが掲げる
-
去る2024年6月11日に米下院司法委員会が「気候変動対策:環境、社会、ガバナンス(ESG)投資における脱炭素化の共謀を暴く」と題するレポートを公開しました。 New Report Reveals Evidence of
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間














