米国の気候作業部会報告を読む⑩:CO2で食料生産は大幅アップ

2025年08月14日 06:50
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

fotokostic/iStock

(前回:米国の気候作業部会報告を読む⑨:それは本当にCO2のせいですか

気候危機説を否定する内容の科学的知見をまとめた気候作業部会(Climate Working Group, CWG)報告書が2025年7月23日に発表された

タイトルは「温室効果ガス排出が米国気候に与える影響に関する批判的レビュー(A Critical Review of Impacts of Greenhouse Gas Emissions on the U.S. Climate)」である。

今回は、「9章 気候変動と米国農業」について解説しよう。

以下で、囲みは、CWG報告書からの直接の引用である。

CO2には、植物の光合成を促進し、水利用率を向上させることで植物の成長を促す「施肥効果」があり、これにより「地球緑色化」が進んでいることは2章で説明した通りだが、この施肥効果はもちろん農作物の生産量増大をもたらす。以下はCWGによる本章の要約である。

数十年にわたる豊富な証拠から、CO2濃度の増加が植物、特に農作物に利益をもたらすことが示されており、CO2による温暖化は米国農業全体にとってネット上の利益となることが明らかです。大気中のCO2濃度の増加は、主要な米国作物の生産性をすべて向上させてきました。総合的に判断すると、気候変動はこれまで米国農業の大部分にとって中立的または有益であり、今後もその傾向が続くと結論付ける根拠があります。

過去、作物の収量(ヘクタールあたりのトン数)は、技術進歩によって大幅に向上してきた。その一方で、CO2濃度も上昇してきた。図9.1は1940年を100として両者を示したものである。では、CO2濃度の上昇は、どの程度、作物の生産性に寄与してきたのだろうか。

CWG報告は、CO2濃度の高い環境下で作物の生育が早まったり収量が増大したりした実験例をいくつも示したうえで、更に、以下の論文を引用している。

図9.1 米国における二酸化炭素濃度とトウモロコシ、大豆、小麦の収量の平均値を1940年を100として標準化
出典:Taylor and Schlenker(2021)

2021年に米国国立経済研究局(Taylor and Schlenker 2021)が発表した報告書では、米国全土の屋外CO2濃度を衛星観測データで測定し、郡別の農業生産データやその他の経済変数と照合しました。天候、汚染、技術の影響を調整した後、著者はCO2濃度の増加が1940年以降、米国の作物生産を50%ないし80%も増加させたとの結論に至りました。これは野外でのCO2濃度増加実験で以前推定されていた値よりもはるかに大きな増加でした。彼らは、CO2濃度が1ppm増加するごとに、トウモロコシの収量が0.5%、大豆が0.6%、小麦が0.8%増加することを発見しました。

図9.1を見るとCO2濃度は1940年以来、33%ほど増えている。これは約100ppmに相当するから、これによる収量増加はトウモロコシが50%、大豆が60%、小麦が80%となる。この間の収量の増大は猛烈で、図をみるとトウモロコシが500%、大豆が200%、小麦が200%もあり、これは品種改良や肥料・農薬などの技術進歩に多くを依っていたが、CO2濃度の増大も、少なからぬ寄与をしたということだ。

将来についてのシミュレーションでは、気温上昇や雨量の変化などによって作物の収量が減少するという論文があるが、CO2の施肥効果をきちんと考慮するならば、あらゆる作物の収量は、5℃といったかなり高い平均気温上昇のシナリオの下でも、むしろ増大するという結果をCWGは示している。

また、CO2濃度が上昇すると、作物の栄養素(蛋白質、ビタミンなど)が低下するという論文があり、このこと自体がまだ真偽のほどははっきりしないが、仮に栄養素が不足するとしても、品種改良や他の食品で補うことで十分に適応できる、とCWGは論じている。

そして、十分に栄養を摂るためには経済的に豊かであることが最重要であるが、じつはCO2排出の多いIPCCシナリオほど貧困国の経済成長率が高いことに言及している。

CO2濃度上昇が作物の収量増大に大きく貢献してきたことは間違いないし、今後もそれは続くであろう。気候危機論者にとって不都合なこの巨大な便益は、あまりにも軽視されている。

なおCO2による施肥効果については筆者らも記事を書いているので詳しくはリンクを参照されたい。

【関連記事】

米国の気候作業部会報告を読む①:エネルギー長官と著者による序文
米国の気候作業部会報告を読む②:地球緑色化(グローバル・グリーニング)
米国の気候作業部会報告を読む③:海洋酸性化…ではなく海洋中性化
米国の気候作業部会報告を読む④:人間は気候変動の原因なのか
米国の気候作業部会報告を読む⑤:CO2はどのぐらい地球温暖化に効くのか
米国の気候作業部会報告を読む⑥:気候モデルは過去の再現も出来ない
米国の気候作業部会報告を読む⑦:災害の激甚化など起きていない
米国の気候作業部会報告を読む⑧:海面上昇は加速していない
米国の気候作業部会報告を読む⑨:それは本当にCO2のせいですか

データが語る気候変動問題のホントとウソ

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 2月の百貨店の売上高が11ヶ月振りにプラスになり、前年同期比1.1%増の4457億円になった。春節で来日した中国人を中心に外国人観光客の購入額が初めて150億円を超えたと報道されている。「爆買い」と呼ばれる中国人観光客の購入がなければ、売上高はプラスになっていなかったかもしれない。
  • 過去の気温上昇について、気候モデルは観測に比べて過大評価していることは何回か以前に書いた(例えば拙著をご覧頂きたい)。 今回は、じつは海水温も、気候モデルでは熱くなりすぎていることを紹介する。 海水温は、気候システムに余
  • 私の祖父、杉山甫(はじめ)は、営林署長として北海道中を回った。昔の営林署長というのは、それなりに町の中では尊敬されていて、腰には銃も身につけていたと言われている。仕事柄、山に入ることは当然よくあり、冬にはアザラシの皮をつ
  • 今回は英国の世論調査の紹介。ウクライナ戦争の煽りで、光熱費が暴騰している英国で、成人を対象にアンケートを行った。 英国ではボリス・ジョンソン政権が2050年までにCO2を実質ゼロにするという脱炭素政策(英国ではネット・ゼ
  • (前回:再生可能エネルギーの出力制御はなぜ必要か) 火力をさらに減らせば再生可能エネルギーを増やせるのか 再生可能エネルギーが出力制御をしている時間帯も一定量の火力が稼働しており、それを減らすことができれば、その分再エネ
  • スティーブン・クーニン著の「Unsettled」がアマゾンの総合ランキングで23位とベストセラーになっている。 Unsettledとは、(温暖化の科学は)決着していない、という意味だ。 本の見解は 気候は自然変動が大きい
  • 『羽鳥慎一のモーニングショー』にみられる単純極まりない論調 東京電力管内で電力需給逼迫注意報が出ている最中、今朝(29日)私はテレ朝の「羽鳥慎一のモーニングショー」をみていました。朝の人気番組なので、皆さんの多くの方々も
  • 以前紹介したように、米国エネルギー長官クリストファー・ライトの指示によって、気候危機説を否定する内容の科学的知見をまとめた気候作業部会(Climate Working Group, CWG)の報告書が2025年7月23日

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑