米著名教授、SECの規則撤回を支持:気候リスク開示に科学的根拠はあったのか?

米証券取引委員会(SEC)は今、上場企業に「気候関連リスク」の開示を義務づけていた規則を撤回しようとしています。2024年に採択されたこの規則は、企業に温室効果ガス(GHG)の排出量や、気候変動が経営に与えるリスクの詳細な報告を求めるものでした。
この撤回提案(File No. S7-2026-19)に対し、プリンストン大学名誉教授ウィリアム・ハッパー(物理学)とMIT名誉教授リチャード・リンゼン(大気科学)が、2026年8月3日付で支持のコメントを提出しました。二人とも長年、放射物理学や大気中の熱の動きを研究してきたベテラン科学者であり、ハッパー氏はCO2コアリション(CO2 Coalition)の理事会議長も務めています。
科学とは何か——ファインマンとダウバート基準
二人はまず、「科学的知見とは何か」という原則論から論を起こします。
物理学者ファインマンの言葉——理論の正しさは、計算結果を自然そのもの、つまり観測と直接照らし合わせて初めて確かめられる——を引用し、さらに連邦最高裁のダウバート判決(Daubert v. Merrell Dow Pharmaceuticals, 1993年)が示した「科学的知見は科学的方法によって導かれなければならない」という基準にも言及します。
コンセンサス、政府の見解、査読、機能しないモデルは、それ自体では科学の根拠にならないというのが二人の立場です。
CO2はすでに「飽和」した弱い温室効果ガス
コメントの中心をなすのは、CO2の温室効果が濃度の対数に応じて急速に頭打ちになるという物理学的主張です。
二人は20ppm刻みの試算表を示し、産業革命が始まった1750年当時のCO2濃度(約280ppm)の時点で、CO2はすでに温室効果としてほぼ飽和状態に達していたと論じます。その試算によれば、1750年の280ppmから現在の約420ppmまでCO2が増えたことによる昇温は、わずか0.32℃にとどまります。さらに今後75年間で人為排出が続き、CO2濃度が約600ppmに達したとしても、そこから追加される昇温はわずか0.28℃にすぎないとしています。
メタンや亜酸化窒素など他の主要温室効果ガスについても、放射強制力が小さすぎて気候への影響は無視できる水準だと退けています。
6億年の地質記録が語ること
二人はさらに、過去6億年にわたるCO2濃度と気温の地質学的データを示し、両者の間には長期的にはむしろ逆相関が見られると主張します。
CO2濃度が現在よりはるかに高かった数億年もの期間、気温が破局的に高くなることはなく、逆にCO2濃度が記録的な高水準(約7,000ppm)にあった時期に気温がほぼ記録的な低水準だった例もあると指摘します。このデータは、「CO2濃度が高いと危険な高温になる」という前提そのものに疑問を投げかけるものとして提示されています。
撤回のコストと便益
こうした科学的根拠の乏しさに加え、規則がもたらす経済的コストの大きさも論拠として挙げられています。
SEC自身の試算によれば、この規則を撤回すれば今後10年間、年間約49億ドルの節約になるとされており、二人はこの数字を引用しながら、科学的に裏づけられていないリスクの開示を企業に義務づけることは、投資家保護というSEC本来の使命に反し、むしろ投資家に不利益をもたらすと結論づけています。
全体として、このコメントは「化石燃料の非電力用途」や「食料安全保障」といった論点には踏み込まず、CO2の温室効果に関する物理学的な飽和論と、それを裏づける地質学的データ、そして規則撤回の経済的合理性という、比較的絞り込んだ論拠に基づいています。
日本の脱炭素政策を論じる際にも、規制のコストと、その根拠とされる科学的想定の確からしさをどう評価するか、という論点として参考になる内容だと思います。
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