高浜原発差し止め訴訟、裁判官の知らぬ「法の支配」

2015年04月20日 11:00
池田 信夫
アゴラ研究所所長

高浜3・4号機の再稼動差し止めを求める仮処分申請で、きのう福井地裁は差し止めを認める命令を出したが、関西電力はただちに不服申し立てを行なう方針を表明した。昨年12月の申し立てから1度も実質審理をしないで決定を出した樋口英明裁判官は、4月の異動で名古屋家裁に左遷されたので、即時抗告を担当するのは別の裁判官である。

この樋口裁判官は、昨年5月にも史上最大の地震が来たら危ない(関連記事「大飯原発についての幼稚な判決」)という荒唐無稽な理由で、大飯3・4号機の再稼動を差し止める判決を出した。史上最大の地震が高浜に来たら、原発どころか福井県が全滅して何万人も死亡するだろう。それが「人格権の侵害」だというなら、福井地裁もただちに職員が全員退去すべきだ。

今回の仮処分決定は、さらにお笑いだ。ロイターによれば、彼は原子力規制委員会の新規制基準の基準地震動について「緩やかすぎて、これに適合しても原発の安全性は確保されない」と断定して、規制基準を否定した。これは原子炉等規制法違反である。

基準地震動は各地域の地質調査をもとにして、公聴会や事業者のヒアリングが行なわれた上で委員会が決定する。これが「緩やかすぎる」というなら、それを示す地質データを出して異議申し立てを行なうことは可能だ。

そういう手続きを全部すっ飛ばして「史上最大の地震は基準地震動より大きい」などという理由で規制基準を否定することはできない。そんな決定ができるなら、世界中の原発が(裁判なんかするまでもなく)すべて運転差し止めだ。

炉規制法で停止命令を出せるのは規制委員会だけであり、それは重大かつ緊急な違法行為があった場合に限られる。あの菅直人でさえ中部電力に「お願い」して浜岡原発を止めさせたことでもわかるように、国が法的根拠なく民間企業の財産権を侵害できないのだ。それが樋口裁判官の知らない法の支配という憲法の大原則である。

基準地震動は「あってはならない地震動」ではない

朝日新聞に高浜原発の仮処分決定の要旨が出ているので、その重大な事実誤認を指摘しておく。決定では次のように書いている。

基準地震動を超える地震はあってはならないはずである。[しかし]活断層の状況から地震動の強さを推定する方式の提言者である入倉孝次郎教授は、新聞記者の取材に応じて、「基準地震動は計算で出た一番大きな揺れの値のように思われることがあるが、そうではない」「平均からずれた地震はいくらでもあり、観測そのものが間違っていることもある」と答えている。

まず入倉氏は法廷で証言していないので、この新聞記者の伝聞には証拠能力がない。毎日新聞によれば、入倉氏は「新聞記事の内容が曲解され一部だけが引用されている。基準地震動は、私の考案した方法で算出した地震動に余裕を持たせて想定されるもので、裁判所は正しく理解していないのではないか」とコメントしている。

入倉氏の論文では、基準地震動とは「施設の寿命中に極めてまれではあるが発生する可能性のある限界的地震動」であり、「このような限界的地震動に対する安全性を達成しても、なおかつ地震によるリスクは残存する可能性があることを踏まえ、この残余のリスクを考慮して」耐震設計は行なわれる。

つまり基準地震動とは「あってはならない地震動」ではなく、それが起こっても十分な残余リスクに耐えられるように原発は設計されているのだ。事実、仮処分決定もいうようにこれまで「4つの原発に5回にわたり想定した地震動を超える地震が2005年以後10年足らずの間に到来している」が、それによって破壊された原発は1基もない。福島第一も、基準地震動をはるかに超える地震動に耐えて停止したのだ(事故の原因は津波)。

このように今回の仮処分は、樋口裁判官が4月に異動するため、新聞記事をもとにしてでっち上げた決定であり、関電は「訴訟指揮が常軌を逸している」として裁判官忌避を申し立てたが、却下された。これはあくまでも仮処分であり、このような事実誤認にもとづく決定は今後の審理で取り消されるだろう。

高浜については(川内と同様に)まだ工事認可や保安規定認可、地元の合意、使用前検査などの手続きに1年ぐらいかかる。それまでには――樋口氏のような変な裁判官が担当しない限り――この決定は取り消されると思われるので、大した実害はないだろう。

(2015年4月20日掲載)

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