脱・脱炭素の社説を米紙ウォールストリートジャーナルが発表

Manakin/iStock
米紙ウォールストリートジャーナルは、やや共和党寄りと見られているが、民主党からも割と支持されていて、超党派の信頼があるという、米国には珍しい大手の新聞だ。筆者の見立てでは、地球温暖化問題について、ど真ん中の正論を続けている。
そのウォールストリートジャーナルの3月30日付の社説で、脱・脱炭素を説いていた。
題して「ネットゼロからどう脱出するのか? 英国が示す、公然と政策を捨てないことの危うさ。」である。原題は「How Do You Escape Net Zero? The U.K. shows the peril of not ditching the policy openly.」だ。英国では日本で言う脱炭素のことをネットゼロと呼んでいる。
ポイントは以下の通り。
- 諸国政府は、炭素排出量ゼロの公約を、そのコストと非現実性が明らかになるにつれて後悔するようになってきているが、政治家はまだそれを認めたくないようである。
- 先週の木曜日、英国では、リシ・スナック首相が、新たなネットゼロ政策を発表したが、これは、事実上、ネットゼロ政策の放棄だ。なぜなら、この新しい政策には、新しい資金や計画が殆ど含まれていないからだ。興味深いことに、スナック氏が属する保守党内のネットゼロに懐疑的な人々から、ほとんど反対を招かなかった。
- 内燃機関の2035年までの販売禁止は含まれているが、救済策として、メーカーには余計に製造する権利を購入できる制度が導入されることになっている。
- 政策の重点は炭素回収技術(CCS)に置かれている。スナック氏の政権は以前、200億ポンドを投じると発表している。スナック氏がCCSを強く推し進めるのは、それ以外のことはやりたくないからだろう。
- このような脱炭素計画の大失敗は、ロシアのウクライナ侵攻を受け、グリーンな願望と経済的現実が衝突する中で起きた。この戦争でエネルギー危機が起き、化石燃料に代わる風力や太陽光発電のコストと不十分さが露呈したのだ。
- 電気自動車もまだバッテリー技術の実力が不足していること、水素などの代替燃料についても欠点があることが、よく理解されるようになった。
- スナック氏はしかし、計画がうまくいかないことを認めるのではなく、裏口からこっそりと、ネットゼロから脱出しようとしている。だがこのやり方は、それなりのコストがかかる。CCSへの補助金などだ。これはまた再生可能エネルギー同様の新たな既得権益を生む。
- ネットゼロは、有権者や政治家がその愚かさに気づくにつれて、ゆっくりと死んでいくのだ。いずれは、誰かが声を大にしてそれを認めるかもしれない。
さて日本はこっそり愚かな脱炭素から逃れることが出来るか? GX実行計画が今国会を通って法制化されるなど、裏口を自ら潰しているように見えてならない。
■
『キヤノングローバル戦略研究所_杉山 大志』のチャンネル登録をお願いします。

関連記事
-
新しい日銀総裁候補は、経済学者の中で「データを基に、論理的に考える」ことを特徴とする、と言う紹介記事を読んで、筆者はビックリした。なぜ、こんなことが学者の「特徴」になるのか? と。 筆者の専門である工学の世界では、データ
-
はじめに:なぜ気候モデルを問い直すのか? 地球温暖化対策の多くは、「将来の地球がどれほど気温上昇するか」というシミュレーションに依存している。その根拠となるのが、IPCCなどが採用する「気候モデル(GCM=General
-
GEPRフェロー 諸葛宗男 はじめに 米国の核の傘があてにならないから、日本は核武装すべきだとの意見がある。米国トランプ大統領は、日本は米国の核の傘を当てにして大丈夫だと言いつつ日本の核武装を肯定している。国内でも核武装
-
筆者は基本的な認識として、電力のビジネスモデルの歴史的大転換が必要と訴えている。そのために「リアルでポジティブな原発のたたみ方」を提唱している。
-
福島原発事故をめぐり、報告書が出ています。政府、国会、民間の独立調査委員会、経営コンサルトの大前研一氏、東京電力などが作成しました。これらを東京工業大学助教の澤田哲生氏が分析しました。
-
1996年に世界銀行でカーボンファンドを開始し、2005年には京都議定書クリーン開発メカニズム(CDM)に基づく最初の炭素クレジット発行に携わるなど、この30年間炭素クレジット市場を牽引し、一昨年まで世界最大のボランタリ
-
前稿で触れた「気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか」については、このアゴラでも既に杉山大志氏とノギタ教授の書評が出ており、屋上屋を架すの感なしとしないが、この本体価格2200円の分厚い本を通読する人は少ない
-
CO2排出を2050年までに「ネットゼロ」にするという日本政府の「グリーン成長戦略」には、まったくコストが書いてない。書けないのだ。まともに計算すると、毎年数十兆円のコストがかかり、企業は採算がとれない。それを実施するに
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間