自然エネルギー財団への疑問(上)--政治とビジネスのリンクは妥当か

2015年02月16日 13:00
アバター画像
国際環境経済研究所理事・主席研究員

(IEEI版)

テレ東の再エネ特措法批判

テレビ東京のワールド・ビジネス・サテライトが昨年11月17日に放送した特集「国民負担2.7兆円の衝撃」はこれまでテレビ等では取り上げられることのなかった切り口で再エネの全量固定価格買取制度の経緯と現実を伝える内容だった。(紹介記事「テレビ東京渾身の訴え「国民負担2.7兆円の衝撃」は必見」。テレビ東京ホームページには一定期間掲載されている(2015年1月26日現在は掲載されている。番組情報

東日本大震災と福島原子力発電所事故を経験し、世論は東京電力を筆頭とする既存電力事業者への不信感と反発に満ちていた。そこに再エネ事業の旗手として登場したのがソフトバンクの孫社長だ。

再生可能エネルギーの全量固定価格買取制度導入を訴える集会で、「私の顔を本当に見たくないのであればこの法案だけは通したほうが良い、という作戦で行こうと思います」と挨拶する菅元総理、それに呼応して「粘り倒して!この法案だけは絶対に通して欲しい!」と絶叫する孫社長。

自民党や公明党も競うように再エネ事業者配慮の修正を主張し、こうして成立した再エネ特措法によって、導入からわずか2年で、認定された設備が全て稼働すれば1年間に消費者が負担する賦課金が2.7兆円と試算されるまでになった。孫社長の笑顔の裏に計算があったのか無かったのか、それは誰にも分からない。

しかし計算であるか本能であるかは問わず、彼は知っているのだ。ゲームに勝つ方法を。マスコミ報道は物事を断片的にしか伝え得ない、と割り引いて見てもそう思う。

「野村証券が日経新聞を持つ」?

実はいまから20年以上前、孫社長がとある企業の社内講演会で講演したことがあるそうだ。同社は当時、パソコンのパッケージソフトの流通、パソコン専門雑誌の出版、そしてデータネット事業を行っていた。主軸であるパッケージソフトの販売戦略について質問された彼は、「我々のビジネスモデルは野村証券が日経新聞を持っているようなもの」と答えたというのだ。要は自社が出版する15誌ものパソコン専門誌で大きく取り上げるソフトを大量に仕入れておけば、それは必ず売れる。

「株の世界ではインサイダー取引としてお縄になるが、一般的な商いの世界では勉強熱心ということになる」というコメントに、ビジネスとはそういうものかと思いつつ共感は持てなかったため、そのやりとりを鮮明に覚えている、という方からうかがった。

彼一流のサービス精神で口が滑っただけかもしれないし、それから20年以上経ついまもそのやり方を踏襲しているかどうかはわからない。しかし、昨年秋公益財団法人自然エネルギー財団の方と議論した折に、このエピソードとの共通点を感じたのだ。

自然エネルギー財団の会長は孫社長が務めており、同財団の方によれば「彼が私財を投じて設立した」そうだ。同財団は再エネ推進を訴え、全量固定価格買取制度について強い主張をしている。そして孫社長率いるソフトバンクグループのソフトバンクエナジーは再エネ事業者だ。この構図は「野村証券が日経新聞を持つ」というコメントを彷彿とさせる。

自然エネルギー財団の政策提案への疑問

国民負担が莫大に膨みつつあることからこの制度の見直しが議論されている状況を受け、同財団は「自然エネルギーの持続的な普及に向けた政策提案2014」と題する提言書を発表している 。しかしその内容には首を傾げざるをえない点が多い。

1)高すぎる買取価格への批判がない

最大の問題は、バブルとまで言われるほどの認定量急増をもたらした、国際的に見て高すぎる買取価格設定について全く言及していないことだろう。電力中央研究所社会経済研究所朝野賢司主任研究員が繰り返し指摘されている通り、ドイツ・イタリア・フランス等FIT導入諸国での太陽光発電買取価格は、日本の約半分である。(WEDGE Infinity バブルが始まった太陽光発電)

太陽光発電モジュールは世界的に流通する商品であり、施工に係る人件費や土地代の差を越えて高い買取価格設定をする理由はどこにもない。事あるごとにドイツを範とせよと主張するのに、この価格差についてなんら言及がないのでは、その提案書が表題として掲げる「自然エネルギーの持続可能な普及」についてどう考えているのかと首を傾げたくもなる。

2)導入量が多ければ良いのか

また、第1章「固定価格買取制度開始後の 2 年余りの成果」において、FITにより再生可能エネルギーの導入量が急増したことを述べ(提案書P4)、FITの再エネ普及策としての効果の高さを主張する。しかし導入量の多寡だけで再エネ普及策を評価することは議論をあまりに単純化している。重要なのはいかにコスト効果高く再エネを普及させるかであり、コストをいくらかけてもよいのであれば、RPSなど他の普及策でも導入量を増やすことは可能だ。FITでは、買取価格設定を適切に行えば導入量を適切にコントロールできると主張する向きもあるが、具体的に量をコントルールする手段を持たない政策であるため、各国は過剰に再エネが導入されないよう、上限を設定するなどの対策を講じ消費者負担の限度を見通せるようにしている。導入量が多いから政策として優れているという論は、再エネの導入を目的化したものであり、再エネ事業者からの目線に偏りすぎであろう。

(下)に続く

(2015年2月16日掲載)

This page as PDF
アバター画像
国際環境経済研究所理事・主席研究員

関連記事

  • 前回に続いて経済産業省・総合エネルギー調査会総合部会の「電力システム改革専門委員会」の報告書(注1)を委員長としてとりまとめた伊藤元重・東京大学大学院経済学研究科教授が本年4月に公開した論考「日本の電力システムを創造的に破壊すべき3つの理由」(注2)について、私見を述べていきたい。
  • 昨年11月に発表されたIEA(国際エネルギー機関)のWorld Energy Outlookが、ちょっと話題を呼んでいる。このレポートの地球温暖化についての分析は、来年発表されるIPCCの第6次評価報告書に使われるデータ
  • 福島第一原発事故から3年近くたち、科学的事実はおおむね明らかになった。UNSCEARに代表されるように、「差し迫った健康リスクはない」というのがほぼ一致した結論だが、いまだに「原発ゼロ」が政治的な争点になる。この最大の原因は原子力を悪役に仕立てようとする政治団体やメディアにあるが、それを受け入れる恐怖感が人々にあることも事実だ。
  • 太陽光や風力など、再生可能エネルギー(以下再エネ)を国の定めた価格で買い取る「固定価格買取制度」(FIT)が7月に始まり、政府の振興策が本格化している。福島原発事故の後で「脱原発」の手段として再エネには全国民の期待が集まる。一方で早急な振興策やFITによって国民負担が増える懸念も根強い。
  • 今回は長らく議論を追ってきた「再生可能エネルギー大量導入・次世代ネットワーク小委員会」の中間整理(第三次)の内容について外観する。報告書の流れに沿って ①総論 ②主力電源化に向けた2つの電源モデル ③既認定案件の適正な導
  • ソーラーシェアリングとはなにか 2月末に出演した「朝まで生テレビ」で、菅直人元総理が、これから日本の選ぶべき電源構成は、原発はゼロ、太陽光や風力の再生可能エネルギーが主役になる———しかも、太陽光は営農型に大きな可能性が
  • 経済産業省において10月15日、10月28日、と立て続けに再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会(以下「再エネ主力電源小委」)が開催され、ポストFITの制度のあり方について議論がなされた。今回はそのうち10月15日
  • 福島第一原発の事故から4年が過ぎたが、福島第一原発の地元でありほとんどが帰還困難区域となっている大熊町、双葉町と富岡町北部、浪江町南部の状況は一向に変わらない。なぜ状況が変わらないのか。それは「遅れが遅れを呼ぶ」状態になっているからだ。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑