自然エネルギー財団への疑問(上)--政治とビジネスのリンクは妥当か
テレ東の再エネ特措法批判
テレビ東京のワールド・ビジネス・サテライトが昨年11月17日に放送した特集「国民負担2.7兆円の衝撃」はこれまでテレビ等では取り上げられることのなかった切り口で再エネの全量固定価格買取制度の経緯と現実を伝える内容だった。(紹介記事「テレビ東京渾身の訴え「国民負担2.7兆円の衝撃」は必見」。テレビ東京ホームページには一定期間掲載されている(2015年1月26日現在は掲載されている。番組情報)
東日本大震災と福島原子力発電所事故を経験し、世論は東京電力を筆頭とする既存電力事業者への不信感と反発に満ちていた。そこに再エネ事業の旗手として登場したのがソフトバンクの孫社長だ。
再生可能エネルギーの全量固定価格買取制度導入を訴える集会で、「私の顔を本当に見たくないのであればこの法案だけは通したほうが良い、という作戦で行こうと思います」と挨拶する菅元総理、それに呼応して「粘り倒して!この法案だけは絶対に通して欲しい!」と絶叫する孫社長。
自民党や公明党も競うように再エネ事業者配慮の修正を主張し、こうして成立した再エネ特措法によって、導入からわずか2年で、認定された設備が全て稼働すれば1年間に消費者が負担する賦課金が2.7兆円と試算されるまでになった。孫社長の笑顔の裏に計算があったのか無かったのか、それは誰にも分からない。
しかし計算であるか本能であるかは問わず、彼は知っているのだ。ゲームに勝つ方法を。マスコミ報道は物事を断片的にしか伝え得ない、と割り引いて見てもそう思う。
「野村証券が日経新聞を持つ」?
実はいまから20年以上前、孫社長がとある企業の社内講演会で講演したことがあるそうだ。同社は当時、パソコンのパッケージソフトの流通、パソコン専門雑誌の出版、そしてデータネット事業を行っていた。主軸であるパッケージソフトの販売戦略について質問された彼は、「我々のビジネスモデルは野村証券が日経新聞を持っているようなもの」と答えたというのだ。要は自社が出版する15誌ものパソコン専門誌で大きく取り上げるソフトを大量に仕入れておけば、それは必ず売れる。
「株の世界ではインサイダー取引としてお縄になるが、一般的な商いの世界では勉強熱心ということになる」というコメントに、ビジネスとはそういうものかと思いつつ共感は持てなかったため、そのやりとりを鮮明に覚えている、という方からうかがった。
彼一流のサービス精神で口が滑っただけかもしれないし、それから20年以上経ついまもそのやり方を踏襲しているかどうかはわからない。しかし、昨年秋公益財団法人自然エネルギー財団の方と議論した折に、このエピソードとの共通点を感じたのだ。
自然エネルギー財団の会長は孫社長が務めており、同財団の方によれば「彼が私財を投じて設立した」そうだ。同財団は再エネ推進を訴え、全量固定価格買取制度について強い主張をしている。そして孫社長率いるソフトバンクグループのソフトバンクエナジーは再エネ事業者だ。この構図は「野村証券が日経新聞を持つ」というコメントを彷彿とさせる。
自然エネルギー財団の政策提案への疑問
国民負担が莫大に膨みつつあることからこの制度の見直しが議論されている状況を受け、同財団は「自然エネルギーの持続的な普及に向けた政策提案2014」と題する提言書を発表している 。しかしその内容には首を傾げざるをえない点が多い。
1)高すぎる買取価格への批判がない
最大の問題は、バブルとまで言われるほどの認定量急増をもたらした、国際的に見て高すぎる買取価格設定について全く言及していないことだろう。電力中央研究所社会経済研究所朝野賢司主任研究員が繰り返し指摘されている通り、ドイツ・イタリア・フランス等FIT導入諸国での太陽光発電買取価格は、日本の約半分である。(WEDGE Infinity バブルが始まった太陽光発電)
太陽光発電モジュールは世界的に流通する商品であり、施工に係る人件費や土地代の差を越えて高い買取価格設定をする理由はどこにもない。事あるごとにドイツを範とせよと主張するのに、この価格差についてなんら言及がないのでは、その提案書が表題として掲げる「自然エネルギーの持続可能な普及」についてどう考えているのかと首を傾げたくもなる。
2)導入量が多ければ良いのか
また、第1章「固定価格買取制度開始後の 2 年余りの成果」において、FITにより再生可能エネルギーの導入量が急増したことを述べ(提案書P4)、FITの再エネ普及策としての効果の高さを主張する。しかし導入量の多寡だけで再エネ普及策を評価することは議論をあまりに単純化している。重要なのはいかにコスト効果高く再エネを普及させるかであり、コストをいくらかけてもよいのであれば、RPSなど他の普及策でも導入量を増やすことは可能だ。FITでは、買取価格設定を適切に行えば導入量を適切にコントロールできると主張する向きもあるが、具体的に量をコントルールする手段を持たない政策であるため、各国は過剰に再エネが導入されないよう、上限を設定するなどの対策を講じ消費者負担の限度を見通せるようにしている。導入量が多いから政策として優れているという論は、再エネの導入を目的化したものであり、再エネ事業者からの目線に偏りすぎであろう。
(2015年2月16日掲載)
関連記事
-
系統用蓄電池の敷設が急速に進んでいる。 その背景には、2050年脱炭素に向けて太陽光パネルによる発電がますます重要性を増し、その普及が拡大し続けているという事実がある。その結果、大規模な環境破壊や人工的な災害の発生源とし
-
先ごろドイツの有力紙Die Weltのインターネット版(2013/1/10)に、「忍び寄る電力供給の国有化」と題する記事が掲載された。脱原子力と再生可能エネルギーの大幅拡大という「エネルギー転換」(Energiewende)を果敢に進めるドイツで、なぜ「電力供給の国有化」なのだろうか。
-
G7伊勢志摩サミットに合わせて、日本の石炭推進の状況を世に知らしめるべく、「コールジャパン」キャンペーンを私たちは始動することにした。日出る国日本を「コール」な国から真に「クール」な国へと変えることが、コールジャパンの目的だ。
-
1.太陽光発電業界が震撼したパブリックコメント 7月6日、太陽光発電業界に動揺が走った。 経済産業省が固定価格買取制度(FIT)に関する規則改正案のパブリックコメントを始めたのだが、この内容が非常に過激なものだった。今回
-
アゴラチャンネルでは11月5日、「太陽光バブルの崩壊-なぜ再エネ買い取り制度は破綻したのか」を放送した。その要旨を紹介する。(上下2つ)
-
改めて原子力損害賠償制度の目的に立ち返り、被害者の救済を十分に図りつつ原子力事業にまつわるリスクや不確実性を軽減し、事業を継続していくために必要な制度改革の論点について3つのカテゴリーに整理して抽出する。
-
経済産業省が2月16日に「出力制御ガイドライン」の素案を公表しました。これは太陽光発電と風力発電という発電量を人為的にコントロールできない「自然変動電源」で発電された電気を、送配電網の安定のために出力制御する(=電気を買
-
東日本大震災から5年余が経過した。その時の東京電力福島第一原子力発電所の事故によって、福島県および周辺都県の環境が汚染された。その後の除染によって福島県の環境放射能はずいぶんと減衰し、福島県の大半の地域で追加被ばく線量が年間1ミリシーベルト(mSv)を下回るようになった。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間















