なぜ福島の状況が変わらないのか

2015年02月09日 11:00

福島第一原発の事故から4年が過ぎたが、福島第一原発の地元でありほとんどが帰還困難区域となっている大熊町、双葉町と富岡町北部、浪江町南部の状況は一向に変わらない。なぜ状況が変わらないのか。それは「遅れが遅れを呼ぶ」状態になっているからだ。

住民帰還に備えてのインフラ復旧工事、企業の再開も除染が終わらなければ、生活も復興もスタートできない。しかし国の除染工事は周辺の自治体である川内村、南相馬市、広野町、楢葉町などから開始され、帰還困難区域とされた原発の近郊は後回しとなっている。福島第一原発の立地する大熊町、双葉町について国は中間貯蔵施設の建設に向けて熱心に動いている。それなのに肝心の町の除染にはほとんど手をつけていない。それどころか除染と復興の計画も決まっていないのだ。

中間貯蔵施設建設予定地の地権者との交渉は難航し、昨年のうちに搬入開始予定が3月上旬にテスト搬入とずれ込んでいる。いつになったら本格搬入になるかは不明だ。中間貯蔵施設の建設開始の遅れで、周辺の町村の除染作業が進んでも、その結果発生した汚染土壌が入った袋が大量に置かれた状態であり、除染が終了し区域が解除されたとしても、住民がそこへ帰還する気にはならないだろう。

それとともに、かつて大熊町など4町が双葉郡の暮らしの中心であったため、そこに買い物やサービスを依存していた周辺町村の住民は、解除されてもすぐに昔のような暮らしができなくなっている。それが周辺の町村で帰還する人が元の人口の半分程度で留まっている原因だ。人口の少ないところに商業施設などは再開しない。そうなると買い物も出来ないところには人が戻らないという悪循環が成立してしまう。

国は帰還困難区域内を走る常磐高速道路、6号国道を優先的に除染した。これは線でしかなく、道路を通過できるだけで面にはならないため、大熊町、双葉町にはほとんど恩恵がない。帰還困難区域はこれから数年間、汚染土壌の入った袋を中間貯蔵施設に搬入するダンプトラックが一日何千台と通過することになる。帰還困難区域に住んでいた住民にとって、いつ解除になるか、いつ安心して暮らせるインフラが復旧するのか不明のまま、5年も10年も待てない。

帰還困難区域でも実際の放射線量は、事故の年から比べれば、現在は3分の1程度になっているところが多い。帰還困難区域にある富岡町の私の家でも今は1~2マイクロシーベルト/時しかない。だが完璧な除染にこだわる住民に配慮して、国が区域再編すると言い出さないのだから帰還時期は一向に近づかない。

不動産の賠償が手厚く行われたために、家を購入し移住した住民が増え、帰還したいと思っていた住民も移住を考えるようになっている。大熊町、双葉町は全世帯の4分の1がすでに家を避難先などに購入済との調査もある。移住してしまった人たちは、元住んでいた町がいつ区域解除され帰還出来るようになるかについて関心が薄くなっている。

事故当時、私は66歳だったが今は70歳だ。それでも75歳で帰還出来る保証はない。このままでは、地域を早く取り戻そうとする力は失われてしまう。

北村 俊郎(きたむら・としろう)67年、慶應義塾大学経済学部卒業後、日本原子力発電株式会社に入社。本社と東海発電所、敦賀発電所、福井事務所などの現場を交互に勤めあげ、理事社長室長、直営化推進プロジェクト・チームリーダーなどを歴任。主に労働安全、社員教育、地域対応、人事管理、直営工事などに携わった。原子力発電所の安全管理や人材育成について、数多くの現場経験にもとづく報告を国内やIAEA、ICONEなどで行う。福島原発近郊の富岡町に事故時点で居住。現在は同県須賀川市に住む。近著に『原発推進者の無念―避難所生活で考え直したこと』(平凡社新書)。

(2015年2月9日掲載)

This page as PDF

関連記事

  • 【要旨】(編集部作成) 放射線の基準は、市民の不安を避けるためにかなり厳格なものとなってきた。国際放射線防護委員会(ICRP)は、どんな被曝でも「合理的に達成可能な限り低い(ALARA:As Low As Reasonably Achievable)」レベルであることを守らなければならないという規制を勧告している。この基準を採用する科学的な根拠はない。福島での調査では住民の精神的ストレスが高まっていた。ALARAに基づく放射線の防護基準は見直されるべきである。
  • 今回は太陽光発電のエネルギー政策における位置付けの現状、今後のあり方について簡単に考えていきたい。まずは前回紹介した経済産業省の太陽光発電に対する規制強化をめぐる動向を総括することから始める。 前回の記事で述べた通り、太
  • 日本経済研究センター
    日本経済研究センター 3月7日発表。2016年12月下旬に経済産業省の東京電力・1F問題委員会は、福島第1原発事故の処理に22兆円かかるとの再試算を公表し、政府は、その一部を電気料金に上乗せするとの方向性を示した。しかし日本経済研究センターの試算では最終的に70兆円近くに処理費が膨らむ可能性すらある。
  • 米国の農業を米国穀物協会の取材支援によって8月に現地取材できた。それを全4回に渡って紹介する。(第1回、全4回) 米国科学アカデミー(NAS)は5月、「遺伝子組み換え作物-経験と見通し」という報告書を発表した。この作物を総合的に評価するものだ。
  • きのう「福島県沖の魚介類の放射性セシウム濃度が2年連続で基準値超えゼロだった」という福島県の発表があった。これ自体はローカルニュースにしかならなかったのだが、驚いたのはYahoo!ニュースのコメント欄だ。1000以上のコ
  • 改めて原子力損害賠償制度の目的に立ち返り、被害者の救済を十分に図りつつ原子力事業にまつわるリスクや不確実性を軽減し、事業を継続していくために必要な制度改革の論点について3つのカテゴリーに整理して抽出する。
  • WWF
    8月公表のリポート。ドイツの石炭の使用増で、他地域より同国の健康被害の統計が増加しているという。
  • 原子力問題は、安倍政権が残した最大の宿題である。きのう(9月8日)のシンポジウムは、この厄介な問題に新政権がどう取り組むかを考える上で、いろいろな材料を提供できたと思う。ただ動画では質疑応答を割愛したので、質疑のポイント

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑