地球温暖化で砂浜の6割が消失するという偽情報

2025年08月20日 06:50
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

ewastudio/iStock

「地球温暖化で海面が上昇すると、日本の砂浜が大きく失われる」という話は、昔はよく報道されてけれど、最近はさすがに少なくなってきた。後述するように、単なる誤情報だからだ。

それでもまだ、以下のような記事の見出しがあった。

2050年に砂浜半減も 夏のレジャー、海水浴は少数派(2025年8月3日 5:00)

全国の砂浜は地球温暖化が響き2050年には半分近くが消えるとの予測もある。・・・

それで、政府はどのような情報を出しているか調べてみた。以下は、環境省所管の国立環境研究所のホームページの図だ。

これを見ると、いかにも地球温暖化で砂浜の62%が失われるかのようだ。これのもう少し詳しい図は国土交通省の資料にも出ている:

この一番左のグラフを見ると、海面上昇がゼロなら砂浜消失もゼロで、海面が上昇すると砂浜が大規模に失われる、と言う計算になっている。けれど、これは全然正しくない。

この計算はBruunルールと言う、割と簡単な式によっている。海面が上昇すると、それに応じて砂浜が水没する、というもの。詳細は省くは、下図が概念図だ。

だが、この式で予測しても、全然当たらないことは沢山の例で既に実証済みで、ここのBruunルールは破棄すべきだ、という論文がすでに20年も前に出ている。図3で引用した論文だ。

Sea-level rise and shoreline retreat: time to abandon the Bruun Rule

要は、砂浜は図3よりももっとずっと複雑なのである。砂の粒はいろんな大きさがあるし、沖合に流れたり、逆に浜に堆積したり、砂浜に沿って流れたりする。これから、人工的に堤防などの護岸工事をすると砂の動きが変化する。ダムを作って川から砂が入らなくなっても砂浜はなくなる。日本の場合、とくにこの人工的な改変が大きく効いた。

実際の所、過去1世紀余りで、日本の砂浜は大きく失われてきた。下図を見ると、90年間で砂浜の面積は572平方キロメートルから278平方キロメートルまで半減している。かつては川や海岸の崖から大量に砂が供給されていたが、それがダムや護岸工事などで供給されなくなった。そのため、一方的に浸食されるようになり、砂浜は失われた。

このような大幅な砂浜消失という現象は、もちろん、図2の「海面上昇だけ」を考慮したモデルでは全く再現できない。確かに砂浜が失われてきたけれど、理由は海面上昇などではなかった(なお、図4の著者である有働氏も、Brunnルールは破棄すべきだという図3のCooperの結論については論文中では言及している)。

なので、図2のような極端な砂浜消失の予測は、現実には用いられていない。砂浜については、人間活動に重要かつ浸食の激しい地点をピックアップして「順応的な管理」、つまり様子を見ながら対策を打っていく、ということになっており、このことは環境省も国土交通省も上述の資料の続きで説明している。

ということで、Bruunルールに基づいた「日本の砂浜が海面上昇で失われる!」という計算は、現実から大幅に乖離している。しかしそれでも、図1のように、いかにもそれっぽく環境省が「情報提供」をして徒に危機を煽っている。だがこれではほぼ偽情報ではないか。

環境省はフェイクニュース対策に乗り出すという報道があったが、まずはこのような情報提供の仕方こそ止めるべきだ。

データが語る気候変動問題のホントとウソ

 

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 政府のエネルギー基本計画はこの夏にも決まるが、その骨子案が出た。基本的には現在の基本計画を踏襲しているが、その中身はエネルギー情勢懇談会の提言にそったものだ。ここでは脱炭素社会が目標として打ち出され、再生可能エネルギーが
  • 女児の健やかな成長を願う桃の節句に、いささか衝撃的な報道があった。甲府地方法務局によれば、福島県から山梨県内に避難した女性が昨年6月、原発事故の風評被害により県内保育園に子の入園を拒否されたとして救済を申し立てたという。保育園側から「ほかの保護者から原発に対する不安の声が出た場合、保育園として対応できない」というのが入園拒否理由である。また女性が避難先近くの公園で子を遊ばせていた際に、「子を公園で遊ばせるのを自粛してほしい」と要請されたという。結果、女性は山梨県外で生活している(詳細は、『山梨日日新聞』、小菅信子@nobuko_kosuge氏のツイートによる)。
  • 今年の7~8月、東京電力管内の予備率が3%ぎりぎりになる見通しで、政府は節電要請を出した。日本の発電設備は減り続けており、停電はこれから日常的になる。年配の人なら、停電になってロウソクで暮らした記憶があるだろう。あの昭和
  • ロシアのウクライナ侵攻という暴挙の影響で、エネルギー危機が世界を覆っている。エネルギー自給率11%の我が国も、足元だけではなく、中・長期にわたる危機が従前にまして高まっている。 今回のウクライナ侵攻をどう見るか 今回のロ
  • 東日本大震災と福島原発事故から4年が経過した。その対応では日本社会の強み、素晴らしさを示す一方で、社会に内在する問題も明らかにした。一つはデマ、流言飛語による社会混乱だ。
  • 東京電力福島第一原子力発電所の1号機から4号機においては東日本大震災により、①外部電源および非常用電源が全て失われたこと、②炉心の燃料の冷却および除熱ができなくなったことが大きな要因となり、燃料が損傷し、その結果として放射性物質が外部に放出され、周辺に甚大な影響を与える事態に至った。
  • 痛ましい事故が発生しました。 風力発電のブレード落下で死亡事故:原発報道とのあまりの違いに疑問の声 2日午前10時15分ごろ、秋田市の新屋海浜公園近くで、風力発電のプロペラ(ブレード)が落下し、男性が頭を負傷して倒れてい
  • アゴラ研究所の運営するエネルギー・環境問題のバーチャルシンクタンクGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑