気候危機を煽る為の非現実的排出シナリオ

2024年07月13日 06:55
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

alexis84/iStock

「気候危機説」を煽り立てるために、現実的に起きそうな範囲を大きく上回るCO2排出シナリオが用いられ続けてきた。IPCCが用いるSSP5-8.5排出シナリオだ。

気候危機論者は、「いまのままだとこのシナリオに沿って排出が激増し、それで気候危機がもたらされる」というストーリーをしきりに広めてきた。

だがその排出シナリオとは一体どのようなものか。

図は、ロイ・スペンサーが作成したものだ

縦軸は世界全体の化石燃料起源のCO2排出量。緑は、過去については実績値。2050年までの未来については、米国エネルギー省のエネルギー情報局(Department Of Energy, Energy Information Administration)の推計値。

このEIAは、政府の政策に忖度せず、客観的な推計をすることを法律で定められていて、手堅い推計をする。欧州や日本、それに国連の機関は、政治に忖度してCO2ゼロやらグリーン成長やらのシナリオを流布する様になってしまったが、この米国EIAはそれとは一線を画している。

図を見ると、世界のCO2排出量は、人々を脅すために使われているIPCCのSSP5-8.5シナリオを大きく下回っていることが分かる。将来について大きく下回るのみならず、すでにかなり乖離が始まっていることが読み取れる。2050年を見ると、排出量は倍ほども違う。

ロジャー・ピルケJr.が何年も前から指摘してきたように、IPCCはこのような誇張されたシナリオを「なりゆき」ないし「ベースライン」としており、脱炭素をしなければこのような世界になる、と人々を脅し続けてきた。

IPCCのSSP5-8.5シナリオは、高い経済成長と、石炭への高い依存を前提としたものだ。だがいまの世界はそのようにはなっていない。とくに、シェール技術などで天然ガスが安価かつ大量に供給されたことで、石炭への依存の増大は起きなかったことは、このシナリオの作成時点では全く予想が出来ていなかった。

という訳で、「このままでは、気候危機が訪れます」という人が居たら、こう聞こう。「このままとは、どういう意味ですか?」。

それは現実には有り得ない、とんでもなく排出量の多いシナリオに基づいた計算だ。

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 英国イングランド銀行が、このままでは気候変動で53兆円の損失が出るとの試算を公表した。日本でも日経新聞が以下のように報道している。 英金融界、気候変動で損失53兆円も 初のストレステスト(日本経済新聞) 英イングランド銀
  • 前回予告したように、エネルギー・環境会議コスト等検証委員会での議論の問題点を考えてみよう。もともと低すぎるではないかとの批判が強かった原子力発電のコストを再検証しつつ、再生可能エネルギーの導入を促進するために、再生可能エネルギーのコストを低めに見積もるという政策的結論ありきで始まったのだろうと、誰しもが思う結果になっている。
  • 去る4月16日に日本経済団体連合会、いわゆる経団連から「日本を支える電力システムを再構築する」と題する提言が発表された。 本稿では同提言の内容を簡単に紹介しつつ、「再エネ業界としてこの提言をどう受け止めるべきか」というこ
  • 日本政府はグリーントランスフォーメーション(GX)の一環として送電線の増強をしようとしている。再エネ大量導入で発電ピーク時に余った電力を他の地域に融通して利用しようという方針だ。 政府資料:広域系統長期方針(広域連系系統
  • 北朝鮮の1月の核実験、そして弾道ミサイルの開発実験がさまざまな波紋を広げている。その一つが韓国国内での核武装論の台頭だ。韓国は国際協定を破って核兵器の開発をした過去があり、日本に対して慰安婦問題を始めさまざまな問題で強硬な姿勢をとり続ける。その核は実現すれば当然、北だけではなく、南の日本にも向けられるだろう。この議論が力を持つ前に、問題の存在を認識し、早期に取り除いていかなければならない。
  • シンクタンクのアゴラ研究所(所長・池田信夫、東京都千代田区)の運営するエネルギー調査機関GEPR(グローバルエネルギー・ポリシーリサーチ)は、NPO法人の国際環境経済研究所と3月から提携します。共同の研究と調査、そしてコンテンツの共有を行います。
  • いよいよ、米国でトランプ政権が誕生する。本稿がアップされる頃には、トランプ次期大統領が就任演説を終えているはずだ。オバマケア、貿易、移民、ロシア等、彼に関する記事が出ない日はないほどだ。トランプ大統領の下で大きな変更が予
  • 北朝鮮が核実験を行う意向を、1月28日現在で示しています。この実験内容について、東京工業大学の澤田哲生助教に解説いただきました。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑