脱炭素政策はウクライナ戦争時の電気料金暴騰の再来になる

privetik/iStock
政府は脱炭素政策を進めているが、電気料金がどこまで上がるかを分かりやすい形で公表していない。本稿では、公開資料を元に具体的に何円になるのか計算してみよう。
日本の電気料金は東日本大震災以降、大幅に上昇してきた(図1)。

図1 電気料金の推移
出典:資源エネルギー庁
これが今後どうなるか。RITEの推計には、「電力限界費用」がある(図2)。これは電気料金の一部に相当する(より正確に言えば、この電力限界費用とは発電所が販売する電力の価格に相当し、これに「送配電に要する価格」を合計したものが電気料金となる)。

図2 電力限界費用(p32)
出典:2050年カーボンニュートラルに向けた我が国のエネルギー需給分析(総合資源エネルギー調査会第68回基本政策分科会(2024年12月25日)に提示の分析の詳細データ追加版)
図2から数字を拾うと、2020年は166、2040年では「ベースライン」が127、水素系燃料シナリオが251ドル(2000年価格)/MWhなどとなっている。
以下、表1を見ながら計算する(なお、小数点以下は丸めてある。計算を追いたい方のためにエクセルを添付する)。
まず、このモデル試算では為替レートを1ドル=110円としているので、円換算すると、それぞれ18、14、28(円/kWh(2000年価格)となる。
表1 電力限界費用の換算のまとめ
2020年 | 2040年 | 2040年 | 単位 |
ベースライン | 水素系燃料 | ||
166 | 127 | 251 | $/MWh(2000年価格) |
18 | 14 | 28 | 円/kWh(2000年価格) |
17 | 13 | 25 | 円/kWh(2024年価格) |
さらに、内閣府のGDPデフレーターを用いて2024年価格に直すと、1.06で割って、順に17、13、25円/kWh(2024年価格)となる。
電力限界費用の2020年からの変化分だけをこのRITE試算から切り取ると、
2040年ベースライン:△4円
2040年水素系燃料:+8円
となる。つまり、今後、原子力の再稼働などにより、「ベースライン」では電気料金は4円安くなると見通されているのに、脱炭素のコストにより「水素系燃料シナリオ」では電気料金は逆に8円も高くなる。その差は12円/kWh(2024年価格)にも上る、ということになる
これを図1の電気料金実績(2020年に家庭用26円、産業用18円)に足すと、このモデルがどのような電気料金予測をしているかを計算できる(表2、図3)。なお図3では「ベースライン」を「なりゆき」、「水素系燃料シナリオ」を「脱炭素」と言い換えている。
表2 電気料金の見通し
2020年 | 2040年 | 2040年 | |
ベースライン | 水素系燃料 | ||
家庭用 | 26 | 21 | 36 |
産業用 | 18 | 13 | 28 |

図3 電気料金の見通し
図3を解釈すると、産業用電気料金は、2020円に18円であったが、これは今後原子力発電の再稼働などによって2040年には13円まで下がる。しかし、脱炭素政策を実施すると、これが28円まで跳ね上がることになる。
同様に、家庭用電気料金は、2020円に26円であったが、これは今後原子力発電の再稼働などによって2040年には21円まで下がる。しかし、脱炭素政策を実施すると、これが36円まで跳ね上がることになる。
図3の「2040年脱炭素」の場合の電気料金(産業用28円、家庭用36円)は、2022年の価格高騰時(産業用28円、家庭用34円)と、偶然だが、とても近い。
つまり、この試算に基づけば脱炭素政策はウクライナ戦争時の電気料金暴騰の再来になるということである。
ウクライナ戦争時以来、日本政府は、電気料金を下げるために累計12兆円もの補助金をばらまいている。その一方で、このような電気料金高騰をもたらす政策を本当に実施するのであろうか?
なお、このモデルの試算は、脱炭素技術の技術開発もその実装も、極めて順調に進むことが想定されている(筆者は現実離れした想定であると思う)。従って、これでも脱炭素による電気料金上昇については、かなり低めの見積もりになっている。
■

関連記事
-
こちらの記事で、日本政府が企業・自治体・国民を巻き込んだ「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」を展開しており、仮にこれがほとんどの企業に浸透した場合、企業が国民に執拗に「脱炭素」に向けた行動変容を促し、米国
-
緑の党には1980年の結成当時、70年代に共産党の独裁政権を夢見ていた過激な左翼の活動家が多く加わっていた。現在、同党は与党の一角におり、当然、ドイツの政界では、いまだに極左の残党が力を振るっている。彼らの体内で今なお、
-
スマートグリッドと呼ばれる、情報通信技術と結びついた新しい発送電網の構想が注目されています。東日本大震災と、それに伴う電力不足の中で、需要に応じた送電を、このシステムによって実施しようとしているのです。
-
昨年12月にドバイで開催されたCOP28であるが、筆者も産業界のミッションの一員として現地に入り、国際交渉の様子をフォローしながら、会場内で行われた多くのイベントに出席・登壇しつつ、様々な国の産業界の方々と意見交換する機
-
自由化された電力市場では、夏場あるいは冬場の稼働率が高い時にしか利用されない発電設備を建設する投資家はいなくなり、結果老朽化が進み設備が廃棄されるにつれ、やがて設備が不足する事態になる。
-
学術的知識の扱い方 学界の常識として、研究により獲得された学術的知識は、その創出、伝達、利用の3点での適切な扱いが望ましい。これは自然科学社会科学を問わず真理である。ところが、「脱炭素」や「地球温暖化」をめぐる動向では、
-
東電は叩かれてきた。昨年の福島第一原発事故以降、東電は「悪の権化」であるかのように叩かれてきた。旧来のメディアはもちろん、ネット上や地域地域の現場でも、叩かれてきた。
-
アゴラ研究所の運営するネット放送「言論アリーナ」。6月2日に「京都議定書はなぜ失敗したのか?非現実的なエネルギーミックス」を放送した。出演は澤昭裕氏(国際環境経済研究所所長、21世紀政策研究所研究主幹)、池田信夫氏(アゴラ研究所所長)、司会はGEPR編集者であるジャーナリストの石井孝明が務めた。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間