COP30のグリーン幻想家は再エネの限界を理解していない

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はじめに
COP30を目前に、アメリカのニュースサイトAmerica Out Loudに、Ron Stein氏と私の共著論考が掲載されました。
Green delusionists attending COP30 are clueless of their renewable idealism
世界中から7万人が集うCOP30の現場で、「再エネだけで文明を支えられる」と信じるグリーン幻想がいかに危ういかを問う内容です。
本稿は、風力や太陽光だけでは現代社会を支える6,000以上の石油由来製品や物流を維持できないという現実を指摘し、「エネルギー・リテラシー(energy literacy)」に基づく冷静な対話を呼びかけています。また、各国がそれぞれの歴史・文化・資源事情に即した政策をとるべきだという視点から、グローバルな一律規制の危険性を指摘しています。
COP30を機に、「進歩と保全」「革新と責任」のバランスをいかに取り戻すかを考える一助となれば幸いです。
以下に、この記事の要約をご紹介します。
1. グローバリスト的ナラティブの危険性
本稿は、国連やEU、世界銀行などの国際機関、そして巨大な金融資本やテクノロジー企業が、「地球を救う」という道徳的な大義名分のもとで、エネルギー政策を中央集権的に統制しようとしていると指摘する。
これらの動きは、表面的には環境保護や気候正義といった理念を掲げながら、実際にはエネルギー供給と経済活動をグローバルに管理する仕組みを構築している。この流れを「持続可能性を装った政治的支配」と呼び、グローバル・ガバナンスの名のもとで、各国の文化的自立と経済的主権が失われつつある現実を警告する。
エネルギー政策の本質が「道徳的装飾をまとった統制経済」になりつつあることを、文明的危機として捉えている。
2. 各国の主権と多様性の回復
このようなグローバルな統制の流れに抗うために、各国が自らの地理的条件、資源、文化、産業構造に基づいた独自のエネルギー政策を構築すべきだと強調する。
再エネの導入はあくまで“手段”であり、それ自体が“目的化”することは危険である。各国の現実を無視した一律的な脱炭素政策は、地域経済を破壊し、エネルギー安全保障を脆弱化させる。「自滅的グローバリズム」から脱却し、地域ごとの創意と適応力を生かした“分散型エネルギー主権”への転換が必要だと説く。
真の持続可能性とは「多様な価値観と地域的知恵が共存すること」であり、中央集権的な計画経済では決して達成できないと述べている。
3. 個人と市民の行動指針
特に強調するのは、エネルギー問題を政府や専門家任せにせず、一般市民が主体的に理解し判断する力を持つことの重要性である。
Ron Steinの提唱する「エネルギー・リテラシー」とは、単なる知識教育ではなく、“思想的自立”を伴う運動である。政府やメディア、企業が流布する「ゼロエミッション」「ネットゼロ」「カーボンニュートラル」といった美辞麗句の裏に潜む意図を見抜くことが、民主主義社会を守る第一歩だとする。
家庭や学校、地域社会において、エネルギーの実態と政策の影響を議論する文化を育てること――それが、グローバリスト的ナラティブに対抗する最も強力な防波堤になるという。
4. 政治と経済への警告
再エネ推進の裏側に存在する金融構造にも目を向ける。環境政策はしばしば「グリーン資本主義」として再定義され、膨大な補助金、カーボンクレジット市場、ESG投資などを通じて、政治的・金融的利益を操作する手段と化している。これは新しい形の「市場支配」であり、実際には自由経済の原理を歪めている。
政治家や官僚、国際機関が環境正義を名目に巨額の資金を動かし、非現実的なプロジェクトを推進することで、国民は負担を強いられている。こうした構造こそが“見えない形の経済的植民地支配”であると批判し、エネルギー技術の進歩は政治的命令や補助金依存ではなく、科学的成熟と市場競争によってこそ実現されるべきだと強調する。
5. 取るべき姿勢と行動
本稿の提言は、単なる批判ではなく建設的な行動の指針でもある。次の三点を中心に、個人・社会・国家が取るべき態度を明確に示している。
- 思想的自立 ― グローバルな言説や国際的圧力に流されず、自国の文化と国益を基軸に判断する勇気を持つ。
- 教育と対話の深化 ― エネルギー・リテラシーを家庭・学校・地域社会に浸透させ、科学的理解と倫理的思考を広める。議論を恐れず、異なる立場と誠実に対話する姿勢を養う。
- 現実主義の政策転換 ― 理念先行の政策を見直し、実証データに基づいて段階的かつ柔軟なエネルギー移行を進める。政治的パフォーマンスではなく、国民生活と産業基盤の安定を優先すること。
結論:ナラティブへの抵抗と人間中心の未来へ
COP30が単なる理念の祭典に終わるのではなく、人類が再び現実の足場に立ち返る機会となることを期待している。グローバリストが描く「電力による統治」「デジタル炭素管理社会」といった未来像を、人間の自由と創造性を脅かす危険なユートピア主義として批判する。代わりに、地域・国家・個人がそれぞれのスケールで多様なエネルギー観・倫理観を育み、人間の尊厳と自然の調和を基軸とする社会の再構築を目指すべきだと説く。
結論は明快である――「エネルギーは支配の道具ではなく、人間の幸福と繁栄を支える文化的基盤である」。
この理念を共有することこそが、グローバリスト的ナラティブへの最も平和的かつ知的な抵抗であり、真に持続可能な文明を築くための出発点である。
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