今週のアップデート — 低線量被曝、人体への影響の疑問(2013年1月21日)
今週のアップデート
1) 福島原発事故を受けて、放射能をめぐる不安は、根強く残ります。それは当然としても、過度な不安が社会残ることで、冷静な議論が行えないなどの弊害が残ります。
原子力関係企業の方から「放射線をめぐる事実の確認 — 不安をなくす「相場観」を持とう」という寄稿をいただきました。原子力の推進ではなく、事実関係を述べた提案であり、GEPR編集部の加筆を経て掲載します。健康に影響を与える放射線量の多寡という視点空見ると、問題を冷静に分析できるのではないかという提言です。
GEPRは今後も、中立的立場からエネルギーと原子力をめぐる多様な意見を紹介していきます。
2)低線量における放射線作用の生物学的メカニズム — 国連科学委員会の将来の事業計画の指針白書(要旨和訳)
国連科学委員会の中の一部局、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)は、昨年12月に報告書をまとめて、国連総会で了承された。その報告書の要約要旨を翻訳して掲載します。迂遠な表現であるが、要旨は国連の報告書間で放射線の影響をめぐり、整合性が取れていないこと、また低線量被曝についてのコンセンサスがないことを強調しています。
3)「国連、福島事故の人体への健康被害を確認せず — 海外の論調から」
上記の討議の中で福島原発事故の評価も行われました。WHOや東大の資料を参考にして、UNSCARは福島事故から放出された放射性物質によって、健康影響は予想されないことを確認したそうです。また地球上の放射線の自然被曝量(年1—13mSv)のレベルで長期被曝しても、健康に影響しない可能性が高いとしています。
この結論は目新しい物ではありませんが、国連が認定したという事実は注目されるべきでしょう。原子力ニュースサイトWNN(World Nuclear News)の記事からまとめました。
GEPRが提携するIEEIのコラムを紹介します。電力の専門家から見ると、現在の電力改革の議論では、考えるべき論点の多くが放置されているという問題を指摘しています。
今週のリンク
1) BIOLOGICAL MECHANISMS OF RADIATION ACTIONS AT LOW DOSES(低線量における放射線作用の生物学的メカニズム)。今週のアップデートで取り上げた原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCAR)の報告書です。
2) 「UN approves radiation advice」(国連、放射線の勧告を採択)。今週のアップデートで取りあげた原子力ニュースサイトWNN(World Nuclear News)の記事です。
3)「茂木敏充経済産業大臣、就任会見・12年12月26日」。新政権は原発、エネルギー問題について、1月中旬時点でも明確な姿勢をなかなか出せません。「30年代の原発ゼロ」の民主党政権の掲げた目標の見直しだけは明言しています。
会見では「政治の責任で原発再稼動を行う」が時期は明言せず。電力改革は検討するが、その内容も述べていません。この状況から1カ月が経過しています。おそらく参院選まで、目立った動きはない可能性があります
4)「不適切除染問題 環境省、業者の監督できず」。産経新聞1月19日記事。明確な除染方針のないまま、除染が始まりました。その結果、現地では混乱、現場では手抜きが行われています。問題を根本的に見直す必要があるのではないでしょうか。
5)「炭素市場活動が過去最高を記録」。ブルームバーグ・ニューエナジー・ファイナンス。12年の炭素市場の取引量が過去最高を記録という記事です。2009年のコペンハーゲン会議の決裂によって、京都議定書体制は事実上崩壊しています。しかし炭素取引は価格が低下しているものの、量は増加中という興味深い動きです。
この動きが続くのか、消えるのか。またCO2削減にどのように活用するのか。政策当局、そして私たちは考えなければならないでしょう。
米経済誌フォーブスの記事(日本経済新聞サイトに転載)。元記事「Like We’ve Been Saying — Radiation Is Not A Big Deal」(放射能の危険はたいしたものではない—これまで言ってきたように)。日本の原発事故対策の巨額コストが、たいしたことのない放射線の悪影響と釣り合わないと批判した記事です。ただし、この記事ほど、国連は放射能に危険はないと、断言はしていませんでした。今週紹介の国連報告書です。
関連記事
-
シンクタンク「クリンテル」がIPCC報告書を批判的に精査した結果をまとめた論文を2023年4月に発表した。その中から、まだこの連載で取り上げていなかった論点を紹介しよう。 ■ 地域的に見れば、過去に今よりも温暖な時期があ
-
政府は「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、「2030年CO2排出46%削減」という目標を決めましたが、それにはたくさんお金がかかります。なぜこんな目標を決めたんでしょうか。 Q1. カーボンニュートラルって何です
-
前回の投稿においてG20エネルギー移行大臣会合の合意失敗について取り上げたが、その直後、7月28日にチェンナイで開催されたG20環境・気候・持続可能大臣会合においても共同声明を採択できす、議長サマリーを発出して終了した。
-
筆者はかねがね、エネルギー・環境などの政策に関しては、科学的・技術的・論理的思考の重要さと有用性を強調してきたが、一方で、科学・技術が万能だとは思っておらず、科学や技術が人間にもたらす「結果」に関しては、楽観視していない
-
岸田首相肝いりのGX実行会議(10月26日)で政府は「官民合わせて10年間で150兆円の投資でグリーン成長を目指す」とした。 政府は2009年の民主党政権の時からグリーン成長と言っていた。当時の目玉は太陽光発電の大量導入
-
本年1月11日、外電で「トランプ大統領がパリ協定復帰の可能性を示唆した」との報道が流れた。例えばBBCは”Trump says US ‘could conceivably’ rejoin Pari
-
検証抜きの「仮定法」 ベストセラーになった斎藤幸平著『人新世の「資本論」』(以下、斎藤本)の特徴の一つに、随所に「仮定法」を連発する手法が指摘できる。私はこれを「勝手なイフ論」と命名した。 この場合、科学的な「仮説」と「
-
私は、ビル・ゲイツ氏の『探求』に対する思慮深い書評に深く感謝します。彼は、「輸送燃料の未来とは?」という、中心となる問題点を示しています。1970年代のエネルギー危機の余波で、石油とその他のエネルギー源との間がはっきりと区別されるようになりました。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間